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榊原恵の悩み

 佐々木優真の書く作品の初めての読者は誰だろうか。

 やはり1番の友であり、尚且つ毎回感想を上げている衛藤か。

 それとも最も近い……というか家族である明奈か。

 はたまた文芸部部長である藤宮なのか。

 もしかするとイラストレーターの朝比奈かもしれない。

 しかしながら……この中の誰でもない。

 佐々木優真の作品の初めての読者。

 それは


 榊原恵である。


 ……ちなみに明奈は優真の小説を読んだことは無い。




 榊原恵が初めて優真と話したのは中学二年の頃。

 その会話のきっかけは、優真が書いた作文だった。

 その内容とは──優真が目指す場所についてだった。

 夢も進学も決まっていなかった優真は自分の未来について妄想を膨らませ、先生には2000文字で書けと言われていたにもかかわらず14万文字を使い、本気で自分の将来を書き尽くした。

 その当時初めて優真と同じクラスになった榊原は、その作文にひどく感動した。

 文章はめちゃくちゃ。所々日本語も間違っているし、話の飛び方が急すぎて一体何を話しているのか分からなくなる時もある。

 それでも、感動したのだ。

 理由は……分からない。

 分からないけど……感動した。

 そしてそんな文を書ける佐々木優真にも感動した。

 憧れた。

 よく分からないのに心を動かされた。

 そんな小説を……否。

 それを超える小説を書きたい。

 これこそ、榊原恵の小説人生……


 榊原先生誕生の瞬間であった。




────────────────




「んっ…………くー…………」

 一段落。

 ポメラ(小説を書く機械。小説に書くのに特化しており、ルビ振りなどの機能がついている。尚小説専門の機械のためあまり高くはない)に打ち込んだ自らの原稿を読み返し、誤字脱字を確認して、私は背筋を伸ばし、そのまま近くのベッドに体を投げた。

 やっと……終わった。

 最近は少し小説の進みが悪い。

 昔はぱっと思いついたらすぐに書けたのだが……今は考えなければ文章が出てこない。

 疲れている……のかもしれない。

 ベッドから起き上がり鏡を見ると、そこに移るのは目の下にクマができている私の顔があった。

 今の私は……可愛くないかもしれない。

 必死に取り繕っているけど周りから見たら案外バレているのかも。

 誰にも見せていない場所を。

 誰もいない部屋の中で鏡に移す。

 髪の毛をあげると、その額には────





─────────────────





「あのー……榊原さん。新作書いたので読んでもらっても良いでしょうか……?」

「またなの?随分とペースが早いわね……。まぁ言いけれども」

 私が佐々木と今のような関係になったのは中学二年の後半辺り。

 クラスで唯一小説を読んでいたという理由で「僕の作品を読んでくれませんか!」と言われた時は、どうしようかと思ったものだ。

 あの作文を書いた佐々木優真の小説が読める。

 それだけでも読みたいと思っていたのだが……。

 この頃の私は友達がいなかった。

 そのためどう返せばいいのかと悩んだものだ。

 まぁ読んだんだけど。

 その時は、また感動させられた。

 完結はしていなかったが、これもまた彼の魂が宿っている様な作品。

 この頃の彼の作品はほとんどがそういう作品だった。

 まだネットにも投稿しておらず、私だけが彼の小説を読んでいた。

 それが嬉しかった。

 友達なんてもう出来ないと思っていたから。

 もう私の味方なんていないと思っていたから。

 そんな状況だった私が彼に恋するのは自然な流れだろう。



「それで……どうでしょうか」

「また日常系なのね。今度は転生しないみたいだけれど」

「なんであれが批評ばっかりなのか本当に理解出来ない……」

「当たり前よ……」

 プロ作家となった今。

 彼は前みたいに……友達みたいに接してくれなくなった。

 それに……彼の作品は変わってしまった。

 あの時の魂の籠るまるで殴られるかの様な文章ではなくなった。

 変わったのは……高校一年の頃……すなわち衛藤さんやネットに小説を出し始めた頃。

 あの尖った文章にはヤスリが掛けられ、至って普通の文となった。

 心にも刺さらない。

 面白くもない……いや前書いてた妹モノは面白かったけど……。

 あの妹モノは昔の彼の片鱗を見れたし妹キャラもイキイキしてたし面白かったが。

「まぁ普通ね。いつも通り普通。もっと昔みたいに書けばいいのに」

 私の発言に対し、彼は顔を赤くしてこう答えた。

「や……やめてください。あの頃の小説は……面白くなかったでしょ?」

「……そうね。面白くはなかったわ。まぁ今よりは心に刺さったかもしれないけど」

「そうですかー……。でも昔の書き方はもう出来ないかもしれないです。なんかあーゆー書き方出来なくなっちゃって」

「……別にそんなの聞いてないわ」

「あっはい……」

 一体私はどうすればいいのだろう。

 私が好きな佐々木優真はもう居ないのかもしれない。

 だとすれば私はなんのために小説家になったのだろう。

 あの文を柱に生きてきた私はどうすればいいのだろう。


────高校二年生の榊原恵は悩んでいる。






 一体どうすれば彼のメインヒロインになれるのか。

 そしてどうすればもう一度過去のあの文を読めるのか。

 それを探し求める。

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