え?そんな事あったっけ?みたいな回
「や。神子ちゃん。また会ったね」
「またも何も……毎日会ってるじゃないですか」
優真達が嵐に巻き込まれ、だが進もうとしている時に。
文芸部にいつもいるはずの男は、幼女に向けて……いな高校生に向けてそう言った。
「そうだね。最近は俺神子ちゃんにしか会ってねぇや」
「きもっ……。ていうかもうストーカーっぽいの辞めていいですか?そろそろ優真さん……でしたっけ。その人にもバレそうですし」
神子は一度、衛藤の発言に軽く引いてから、そんな事を問う。
ココ最近。
衛藤が文芸部に顔を出さなかった理由。
家族だなんだと言って誤魔化してきたが、決してそんなことは無い。
きっちりと。
優真達が進む中で、この男も、前に進んでいた。
進み出したワケ。
それは……
「うん。もう十分。ありがとな神子ちゃん。完全に……確定だ」
あの日。
優真、衛藤と、そして榊原の3人で。
映画館に行った時の、ちょっとだけ前のお話である。
───────────────
「なぁ衛藤……。これチケット間違えてんだろ」
映画館に来て、衛藤からチケットを受け取った優真は、そんな声を発した。
PM4時。
まだ外は明るく、太陽が顔を覗かせている。
午前や正午よりもこの時間帯は人が多い。
それも、ほとんどがリア充。
「えぇー!すごぉい!タピオカ美味しそぉう!」
「タピオカとか古くねぇ?やっぱ時代はスタパっしょ!」
と、飲み物を選ぶだけなのに大声を出し、オーバーリアクションで話す輩。
自販機でコーラでええやろ。
「んもー……。たっくん。あーんしてくだたい!」
「お前バカかよ〜!(にやにやしながら)仕方ねぇなぁ!(満更でもなさそうに)」
イチャイチャを全く隠すことなく。
近くのたい焼き屋から買ったであろうたい焼き片手に、カップルが甘ったるい話をしていたり。
休日なだけあり、そう言った学生の姿が多く目につく。
仙台駅周辺在住の女子高生の休日の過ごし方言えば仙台駅をブラブラする事だ(多分)。
「仙台駅とか何もなくね?」とか言いながら結局仙台駅のどデカいガラスの前に集まって、ずんだシェイクやらを飲みながらL〇FTとかでも歩くのだろう。
ちなみに優真の場合、仙台駅にくる目的はブッ〇オフか、らし〇ばん。あとカードゲームのシー〇ル。つまりかなりオタクオタクした目的のみだ。
そんな中で、仙台駅を出て直ぐにある映画館に。
優真は来ていた。
待ち合わせ時間よりも軽く1時間ほど早く来たが、そこには既に、衛藤が待っていた。
そして渡された映画館のチケット。
そこの座席表番号が、随分と理解できそうにない番号だった。
衛藤が座る席が、E列ー14番。
そして優真が渡されたのが、D列ー14番。
そしてもう1枚の……すなわち榊原が座る席が……
D列ー13番だった。
「ん?なんも間違えてねぇぞ?」
「ちょっと待てよ。絶対おかしいってこれ」
「何が?」
「何がっておまえ……」
優真は恥ずかしそうに頬を赤らめながら、
「これ……俺と榊原さんが並んで座るって事だろ……?」
「なんだよ。恥ずかしいのか?」
「当たり前だっ!しかも映画の内容どう考えてもホラーだろ!」
その題名は……「デスルーレット」。
映画館にはられているポスターには、ジェイソンっぽいやつがセンターを飾り、その周りは赤と黒が中心の、なんともグロテスクなポスターだった。
そのジェイソンっぽいやつはチェンソーを持っており、そのチェンソーには血が。
そしてポスター端には……R15の文字。
間違いなくホラー。誰でも分かっちゃう。
そして男女が並んで座り、ホラー映画を見るといえば……
「俺は榊原さんとデートに来た訳ではないのだが!?」
「いいだろ別に」
衛藤はさも当然のようにそう言うと、「にしても榊原おせーなー」と携帯をいじり出す。
……待ち合わせまであと30分もあるから別に遅い訳では無い。
優真は納得いかなそうに、「そのチケットを榊原さんに渡せよ」と言うが、
「お前は女子に1人でホラー映画見せるつもりか?クズだなぁ……」
と言いくるめられる。
仕方ないか……と優真もスマホを弄っていると、そこに。
「……随分つまらない服装ね」
「そう言う榊原さんも制服じゃないですか。同じですよ」
榊原恵が、やってくる。
時間を見ると、待ち合わせ2分前。
ギリギリとはいえきっちり時間を守っているところが、彼女らしい。
「遅いじゃねぇか榊原。めっちゃ待ったぜ?」
「あなたにとやかく言われる筋合いはないわ」
「ほ……ほむん。やっぱ俺には厳しい……優真ー!助けてー!」
「嫌だ。ピカソは黙って絵でも書いときな!」
「おおぅ……キリッとした顔で言われてもなぁ……」
だが、榊原がこんなに時間ギリギリに来るのは珍しい。
いつもなら5分前……10分前には集合しているため、気になって優真はこう問うた。
「でも榊原さん。今日遅かったですね。なんかありました?」
「えぇ。担当から逃げるのに時間がかかってしまったわ」
「……それ大丈夫なんですか?」
「間違いなく……殺される」
ガクブルと震え出す榊原である。
「……大丈夫じゃないって事はわかりました。あ。今日見るのホラーらしいですよ……」
「あぁそう。担当よりは怖くないでしょうね」
作家にとって怖いのは担当……。
優真の頭に、そんなデータが刻み込まれる。
なろう作家からすれば、担当編集なんてのはまず無いし、そもそも締め切りすら迫ってこない。
たまにある、なろう内のコンテストには締め切りが設定されているが、文字数指定されているのは少ないため、あまりプロ作家の締め切りと一緒にするものではないだろう。
優真は逆に、締め切りに追われる日々というのを実感してみたい。
だって……プロ作家感があるからね!
アホである。
────────────────
「なんかこういう予告ってB級映画感ありますよね。うわ……この漫画も実写化するんだ……」
「そうね。……もう実写化なんて賭け事やめて欲しいわ……。それこそカ〇ジは成功してるけれども」
シアター上に映し出される、映画上映前の、今後上映される映画予告を見て。
2人はそんな事を話していた。
休日だからだろうか、席はほとんど埋まっていて、周りにはちらほらカップルも見当たる。
優真が周りを見回してみると、その上映に来ていた高校生の視点が、ほぼ優真達に一直線に集まっている事に気付く。
所々、「なんであんな可愛い子の彼氏があんな普通なの……?」やら「うわぁ……。なんだあの彼氏。陰キャだろ絶対」やら「ラブコメみたいな今年やがってぇー(デブボイス)」やら。
そんな言葉が聞こえてくる。
そこで優真は。
「あの〜榊原さん」
「何かしら?」
「もしかして……俺たちってカップルに見られてたりするんですかね」
「ぶっ」
榊原が吹き出した。
いえ。何も飲んでないですから安心してください。
「な……何を突然!」
「いやほら!なんかラブコメでもそういうのが……」
「……そ……そうね。ラブコメでもあるわよね。そ……それで優真くんはそれが嫌なわけ?」
「いや!違います!全然OKです!むしろ嬉しい!」
「う……嬉しい。ね。そう。嬉しい……」
ブツブツとそう繰り返す榊原に、優真は不思議そうに首を傾げた。
────────────────
こ……こっわ。
待て待ておかしいだろ。
なんでこんな怖いんだよ。昔のホラーとかもっと弱かっただろ。
俺、衛藤輝明は、本気でビビっている。
あの二人がどういう関係なのかを調べるため、恐怖で内面を晒し出そう作戦。
その計画は、失敗に終わりそうだ。
現在、映画開始から約40分。
既に俺。ギブです。
嫌だってよ。おかしいんだって。血の量エグいんだって。これがR15とかおかしいって。
かえってあの二人と来たら……
「あ。今のところ結構CGっぽさが出ちゃってますね」
「そうね……。あ。見て優真くん。あの血の量。相当の予算使ってるわよ」
「そこに使うならCGに回してくれって感じですよねー……」
「そうね……。血の量だけでビビる人なんているのかしら……」
それ。俺の事?テレパってる?
もちろん2人は小声で話しているが、真後ろにいる上、コソコソとだが声は聞こえる。
ちなみにその周りの客は大人の男性と女性が多く、優真と榊原のやり取りを暖かい目で見守っていた。
多分帰りにご飯を食べる時に「昔私達もあんなことあったわよねー」とか話す予定なのだろう。
ち……違うんだ。
俺の計画。まさかの俺のせいで失敗ってマ!?まじです。
いやどうしよ。ガチでグロ……って、トムぅぅぅぅ!おいおい!トムまで殺されちまうのかよ!?早く逃げろよマイケル!
ぁぁぁぁ!ジェイソン来てる!来てるって!あぁ!エミリー!ぁぁぁぁ!!!
やばい。見てらんない。
このままマイケルがジェイソンに殺されるシーンなんて見たら吐いちゃうよ。
一旦……退避しよう。
ラストシーンで帰ってくれば、アイツらがどうなってるのか分かるはず……。
────────────────
「マイケルーーーー!!!」
戻ってきた瞬間に。
エミリーの絶叫が響いた。
つかエミリー生きてたのか。
とりあえず俺は映像を見ないように2人をじっと見つめる。
……特に変化なしか。
「あー。死んじゃった。これ多分ジェイソンの正体ジョンだよなぁ」
「そうでしょうね。そうだとしたらあまりにも普通すぎる終わり方よね……」
えぇ!?ジョンがジェイソンなん!?まてまて。ジョンとジェイソン。ジしかあってねぇぞ。
と、
榊原が映画を見ている横顔を。
優真がじっと見つめていた。
ただ……ずっと見ていたいとばかりに。
なんだよ。成功じゃねぇか。
ミッション。コンプリート。
その瞬間。ジェイソンの正体がジョンだとわかり、エミリーがジョンを射殺した。
やばい。見たくねぇけど俺がいない間に何があったのかくっそ気になる。
───────────────
「普通でしたね」
「そうね。……衛藤くん。なんでそんなに体を震えさせてるの?」
「こわ……すぎる」
せめて最後にちょっとくらいとか考えた俺が馬鹿だった。
続編とか聞いてない。新たなジェイソンがエミリー殺すとか聞いてねぇよォ……。
「なんだよ。衛藤ビビりかよ」
「男のくせして……情けないわね」
「黙れっ!お前らが異常なんだよ!」
そう……だよな?
とはいえ。
このふたりが互いをどう思っているのか、だいたいわかった。
さぁて……どうしようか。
今後の優真の行動を見とくべきか。
もし仮に……この2人が付き合うことにでもなれば……また優真は……。
だが俺が毎日迎えに行ったりとかは絶対不自然だし……。あ。
そうだ。
俺と面識があって、尚且つ優真に近い人。
いるじゃんね!
───────────────
「んで私が呼ばれたんですよね」
「そそ」
それで頼ったのが……神子ちゃん。
優真が帰ってきた時の反応を、しばらく見ていてもらった。
初めて家に凸した時は通報されたなぁ。
うん。通報された。
警察が来たことを思い出すよ……。
そんで。先日。
『もしもし。衛藤さん』
「どったの」
『その聞き方キモイですね……。優真さんが、随分と暗い顔で帰ってきましたよ』
「ほう。ありがとう」
そんな会話をしたわけだ。
あいつに何があったかはわからんが……間違いなく榊原とのことだろうなー。
「とはいえ衛藤さん」
「ん?」
「あなたに優真さんの……恋を。とやかく言う資格ないと思いますが」
「……なんだい急に」
「優真さんのためを思って。優真さんに恋で傷ついて欲しくない。そんなの……別にあなたには関係ない」
「いや、友達だから……」
「友なら、認めてやるべきでしょ」
「……」
「どうなんです」
「そうだね。ちょっと……考えてみる。あいつの考えがどんなもんか……俺が聞いてくる」
「えぇ。私はもう関わりませんから」
そう言って、神子は部屋から去っていった。
「……認めてやる……べきねぇ」
そうなん……だろうなぁ。
よしっと俺は腰を上げて。
「久々に……文芸部行くかぁ」
そんな事を、誰もいない部屋で。
大声で、言った。
「あ!それと!」
「んんんっ!?神子ちゃんどこから!?」
「いや気になることがあったので」
まてまて。俺の叫びを聞いちゃったわけ?
これがなろう小説だとしたら絶対あそこで次話へ続くだっただろ!
すると神子ちゃんは珍しく、「その……」と言葉を濁しながら。
「幼稚園の時に、かーちゃんって子いたの……覚えてます?」
「は?」
突然幼稚園の話しだしたよこの子。
「お……覚えてなければ結構です」
「いや……覚えてるけどさ」
「……っ」
「あれだろ?女の子。1歳下の。でも確か俺よりもデカかったなぁ……。でもなんでその事を?」
「いえ……。そうですか。それでは」
……なんだこりゃ。
なんかあるの?
もしかして神子ちゃんがかーちゃんだったりして……。
ま。そんなわけないか。




