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編集者でも恋がしたい

「アニメ化……決定……!?」

『はい。喜んでください朝比奈さん。仕事倍増ですよ』

 打ち上げ後。

 家に帰った私は、驚愕の真実を、編集者に伝えられた。

「ちょ……ちょっと待ってくださいよ……。おかしくないですか?まだ他の仕事終わってない……」

『遊びに行ってるからそうなるんです』

 電話先から聞こえる鬼の声……私の担当編集である中野太一はそう言った。

 お……恐ろしすぎる……。

 も……もちろんアニメ化は嬉しいものだ。

 なんたって自分の努力が報われたような気がするし、一皮むけたような感覚にもなる。

 私だってアニメ化を目標に、ここまで頑張ってきた。

 だけど〜……

「時期が……悪すぎるよ〜……」

『はいはい。良いからいいから。早く仕事してください』

「今もう夜の9時すぎてるんだけど!?」

『どうせこの後土曜プレミアムでも見るんでしょ。そんな暇あったら早くやってください』

 うっ……バレてるし。

 まだ2枚以上挿絵は手付かずなのがあったし……。

「や……やるしかないのか……」

 これは……久々に死を覚悟しなきゃいけないかもね……。




 アニメ化で忙しくなるのは、作家だけだと思って欲しくない。

 ぶっちゃけ、イラストレーターからすると、「私たちの方が大変なんですが!?」ってレベル。

 まずアニメ化となればそれに合わせて新刊1冊は確定。アニメ化おめでとうイラストは、うちの事務所は問答無用で書かせられる。

 アニメ化決定が世に知れ渡る際に1番使われるであろうドラマCDの特装版用イラスト。あああああ……想像するだけで嫌になりそう……。

 まぁそんなレベルの……ドラ〇エ1の魔王城に出てくるモンスターレベルのヤツらがポンポン飛び出してくるわけだよ。

 ほんとにロトの剣だったか鎧だったか何処にあるのかわかんないよね〜……。

 ってこんなこと考えてる時間はない!

 早く小学生書かないと〜……。こんなにロリを書くのが辛いのはないよ〜……。

 直ぐにペンタブが置かれている机に椅子を設置。仕事開始。

 よぉし。今日中に1枚終わらすぞ……。


 ……ってか仕事出来るから部活行けないじゃん。優真に言っとかなきゃ。

 一応LINEで言っておこう。

『仕事できた。今週はいけなそ。ごめん』

 送信から10分後。

 優真にしては少し遅く、返信の通知音がなった。

『そっか。』

 たったそれだけ、いつもの優真ならありえない、たった一言の返信。

『なんかあった?』

 そう送信しても、やっぱり返信が来るのには時間が空いた。

 いつもなら10秒くらいで返信が来るはずなのに……。

『なんもない。つか仕事しろ。』

 ……厳しさは変わらないのね。

 ちょっと……ていうか絶対なんかあったでしょ……。

 でもこんなのに構ってる暇がガチでねぇんだぜ!わりぃ優真!

『うん!辛かったら私に相談するんだぞ☆』

 そう送信して、再びペンタブに絵を描き始める。

 おー……。我ながら今日は輪郭を上手くロリーっと書けたなぁ。

 よっし!一気に描いちゃうぞ〜!





結局、今日中に1枚も終わりませんでした。




──────────────




「もしもし。1枚はかけました?」

『いやそのぉ……。でも結構かけたというか!』

「描けたかどうか言う前に言い訳とは……。まぁ私はいいんですよ?朝比奈さんがどれだけ辛くなっても」

『分かりました!描きます!描きますから!』

 電話を切り、ほぅ……と深くため息を着くのは中野太一。23歳独身。童貞。

 とはいえ別にブサイクという訳では無い。というかイケメン寄り。

 だがその固い性格から全く女性を寄せ付けず、結果的に独身、童貞、彼女いない歴(年齢)の三冠王を獲得する羽目になっている。

 朝比奈の担当編集であり、朝比奈のデビューからずっと担当はこの中野である。

 キュっとネクタイを締め、中野は事務所から出た。

 向かう先は……FA文庫。

 「らいとのべる」のアニメ化により増えるであろう今後の予定を榊原から確認するためだ。

 太陽が、仙台駅の地面を照らしつけ、行き交う人々も、既に格好は半袖。

 ちょっと前まで寒いなと思っていれば直ぐにこのザマだ。

 だが中野の事務所はまだ衣替えを実施していないため、とてつもない暑さが中野を襲う。

 ……熱中症になったらどうするんだ。

 ドバドバと滝のように流れ出てくる汗を、ハンカチで拭き取りながら、仙台駅の中に入る。

 と、涼しい風が中野の体に吹いてきた。

 この涼しさを堪能したいところだが、仕事に遅れては一大事。

 涼しいのを利用してスタスタと早足で改札を潜り、地下鉄乗り場へと向かった。





──────────────






「榊原先生が……いらっしゃらない?」

「はい……申し訳ございません……」

 FA文庫に到着し、自動ドアをくぐった後に言われた第一声は、そんなセリフだった。

 大柄な……いかにも編集長っぽい男は、なおも続ける。

「我らとしてもこれには驚いておりまして……。きちんと叱っておきますから……」

「……そうですか」

 ペコペコと頭を下げるその男には興味もなさそうに目を逸らし、

「なら編集者は居ないんですか?こちらとしてもスケジュールはかなりキツイのですが」

 そう告げる。

「あっ!はい!もうおります!あちらの部屋に!」

 指さされた部屋には、「会議室3」というプレートがかかった部屋が。

 無言で頭を下げてから、その部屋へ向かう中野。

 そして、ドアを開けると、

「はぁ……何様なんでしょうかねぇあの編集長は……。上司だってのをいい事に……。というか榊原先生も榊原先せ……」

 グチグチと化粧直しをしながら。

 そんな事を話す女性が、座っていた。

「……」

「……」

 無言で目を合わせ合う2人。

 話を切り出したのは、中野だった。

「えっと……。予定を確認に来ました。朝比奈の担当編集の中野太一と申します」

 スっと名刺を差し出す中野に、その女性はポカーンと口を開ける。

 しかし直ぐにはっ!と意識を取り戻し、

「も……申し訳ございません!私こういうものです」


『榊原先生担当編集 木浪やちよ』


 と。

「……やちよさん。ですか」

「ひゃいっ!?」

 突然声を荒らげたのは木浪だった。

「……?」

「も……申し訳ございません……。名前で呼ぶのは……家族以外だと初めてだったので」

 すると、

「あっ……!」

 何故か中野も赤面し、サッと目をそらす。

 そして2人でまた沈黙の時間が。

「あの……予定を……」

「あ……あっはい。そうですよね!えーと予定はですね……」

 なんとも途切れ途切れの、編集者会議が始まった。



「なるほど。だいたい分かりました」

 会議(1時間半)が終わり、椅子からすっと立ち上がる中野。

「はい。榊原先生には私が言っておきます。今日は……本当に申し訳ございません……」

「も……もう大丈夫ですから。そんなに頭を下げないでください」

 何度も繰り返し頭を下げる木浪に、そう声をかける中野。

「それでは」

 そして、部屋を出ようとした。

「あっ……あの!」

 と、木浪の裏返った声が、部屋に響く。

「……はい」

 なんとも気まずそうに中野が振り返ると、

「その……連絡先。教えてもらってもいいですか?」

 赤面しながらそう言う、木浪がいた。




───────────────

 よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 若者イケメン編集者の連絡先ゲットしちゃいました!

 この年で!26で!

 3歳年下のイケメン編集者の連絡先ゲットですよ!こんなの喜ばずには居られないでしょう!

 ……取り乱しました。

 私木浪やちよ。

 この歳まで物の見事に彼氏がいません。

 世に聞く彼氏いない歴(年齢)の女性なんです。

 同僚、同級生……色んな人達が結婚しているのに……私だけ旦那無し。

「旦那?出来たらできたでめんどくさいよーマジで」

「いない方がいいって。気楽でいいよねー1人はー」

 だの。

 グチグチ惚気話してんじゃないよ!

 旦那いる時点で勝ち組じゃないですか!

 ……とはいえどうやら私も旦那GETのチャンスが回ってきましたね。

 しかもイケメンですからね。

 ふふふ……あいつらどんな顔するかな……。

 結婚したら榊原先生にも自慢してあげましょうかね。

 というか榊原先生。大丈夫でしょうか。

 これまで会議の席を外すなんてことは1度もなかったですし。どう考えても何かありましたね。

 ちょっと……会いに行ってみるべきでしょうか。

 いや。こういう時は会いに行くよりもメールですねメール!

 と思って連絡してるんですが……既読すらつかないんですが……。

 何が起きた榊原先生……。

 1週間後くらいに会いに行ってみますかね。

 アニメ化によって仕事は増えるんですよ?

 前回の原稿でとりあえず本文はOKですが、ドラマCD、あと他にも仕事はたっくさーん。

 ふふふ……榊原先生どんな顔しますかねぇ……。

 楽しみです……。





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