神様は時に残酷である。
「「「おつかれー!」」」
女性の高い声とチリンとガラス製のコップを合わせる音がなる。
「お……おつかれ」
その迫力に若干押されながらも、陰キャこと佐々木優真もコップをつける。
午後6時。
現在、文芸部メンバー(衛藤抜き)は、カストにいた。
カストとは、全国的に有名なレストランチェーン店である。
ハンバーグ、パエリア、ピザetc……。
豊富な種類のメニューと安さが売りで、その安さ故、よくリア充の皆様が溜まる場所でもある。
ラブコメでもこう言う雰囲気のレストランはよく出てくる。
勉強をヒロインに教えてもらったり、元々好きだった人と会ってその後レストラン行ったり……あれ?これ俺ガ〇ル様じゃん。
あとはアニメが作画崩壊で失敗してそれに対して悔しくて泣いた時、一緒に泣いてくれた女の子が好きになったことを友人に言う時も……あれ?これ妹〇え様じゃん。
……ガ〇ガ文庫様、いつも面白い作品をありがとうございます。
まぁその話はさておき。
そんなリア充空間に、友達を連れて佐々木優真がいる。
それは異質な事であり、本人もそれを実感していた。
「ここ俺いるべき場所じゃないでしょ」的な事を、穴の空いた氷の穴に、ストローを刺して思う。
「……優真〜?何小学生みたいな事してるの?」
「小学生言うな……」
「昔はそれやるわよね。私もよくやったわ」
「そうだな。私もやっていた覚えがある。その穴に溜まったジュースを吸うのが好きだったなぁ。なぜか」
絶対に幼少期にやった事のある話が繋がるが、それを断ち切るために優真は話をそらした。
「はいはい……。俺注文しますねー……。何にしますか?」
「今の敬語私に使った?」
「たわけが。なんで朝比奈如きに敬語使わなきゃいけねぇんだよ。先輩と榊原さんに言ったんだ」
「私には聞いてないの?」
「おぉ」
「ひど〜……」
ゆさっと金髪を揺らし、ぐでーっと倒れ込む朝比奈を見て、思わず笑ってしまう優真。
榊原は窓際に置いてあるメニュー表をすっと取り、ペラペラと見始める。
注文する料理を選んでいる様だ。
その横に座る藤宮は、自分も早く選びたいと思ったのか、ひょいと榊原が見ているメニュー表を除く。
「……先輩。近いのだけれど」
「いいじゃないか。あ。優真。私はパンケーキで頼む」
「甘っ……。先輩甘党だったんですか」
「まぁな。可愛いだろ」
「うん。言っちゃダメなやつだねそれ」
何が面白いのかけらけら笑い出す藤宮。
相変わらず顔はいいので、どこかじれったそうに優真は顔を逸らした。
「優真くん。私これにするわ」
「お。ピザですか」
榊原が開いていたのはピザのページ。
ズラッと並んだピザは、どれも食欲を引き立てる。
……榊原が指さしていたピザを覗いて。
「ちょ……。榊原さん?これ激辛のやつですよ?指さし間違えてますよ?」
「……?あっているわよ?」
「普通逆だろ……」
キャラ的に藤宮が辛いのが好き、榊原が甘党のイメージを勝手に持っていた優真。驚愕。
とはいえ驚いているだけだと何も始まらないため、定員を呼び、注文内容を伝えていく。
「はい。ご注文はうさぎですか?」
「えーと……。激辛モッツァレラピザと……」
若干太り気味の定員渾身のボケをスルーして、優真は淡々と注文内容を告げる。
ちなみに優真はチャーハンを。
「……以上でよろしいですか」
「あ……。はい。ごち〇さ面白いですよね。リゼちゃん好きです」
意気消沈としていた定員を見かねたのか、優真がそう言った。
するとその定員は可愛くも無い顔をぱぁっと輝かせて
「そうですよね。やっぱごちう〇ですよね。というかリゼちゃん推しとは中々。チノちゃん推しが多い中で良くぞそこにたどり着きましたね。とはいえやっぱチノちゃんもたまんないんですよね〜。まぁ最推しはここあちゃ……ってすいません……」
定員が早口にそう言っていると、何かを感じたのか直ぐに話を辞め、調理場へ戻って行った。
何かと思って振り返ると、
「……私ああいうオタク嫌いだわ」
「そうだな。ただ煩いだけだったな」
ゴミを見るような目が、調理場へと向けられていた。
「……まぁまぁ。多分難民の方だったんだろ。仕方ないって」
「元々優真が乗らなきゃ良かった話なんだけどね〜……。っていうか私の注文した?」
「してない」
「えぇっ!?言ったじゃん!」
「聞いてなかった。自分でやって?」
「優真さ〜。なんか年々私に厳しくなってるよね〜……」
その後、きっちり朝比奈が札幌ラーメンを注文してから。
料理が運ばれてくる間、他愛のない会話が始まる。
「というか優真って注文なんて出来たんだね〜」
「まぁな。一人でよく来てるからな」
ふっと不敵に笑う優真。
「一人で何回も……」と朝比奈が軽く引く中、優真は
「榊原さんは来たことあります?」
何気なく、榊原にそんな事を問う。
「えぇ。あるわよ」
少し微笑みながら、そう言ったかと思えば、直ぐに笑顔を崩し……あ。これ絶対仕事と関係あるやつや……。
「編集から逃げるにはぴったりなポイントなの。腹ごしらえも出来るし。よく一人で来るわ……えぇ。来るわよ……。うっ……頭がっ……」
「榊原ちゃん!?過去に何が!?」
頭を抱え出す榊原を支えながらもツッコミを入れる朝比奈。
「さすがだなツッコミ王。俺もお前みたいになる事を目標に頑張る」
「うん。やっぱ優真アホだね〜」
「それは共通認識ではないのか?」
「うーん……全員で俺をボコるのやめようか……」
と。
「ご注文のお品でーす」
ガラガラとカートに乗せた料理を運んでくる定員(さっきの人とは違う)。
「えーと。まずいちごとたっぷりホイップのパンケーキです」
トン、と皿をテーブルの中央に置く。
これは「お前らが何頼んだのか分かんねぇから自分らで渡し合えアホ」という思いを代弁した行為である。
優真が差し出そうと思ったが、頼んだ藤宮自らがすっと皿をとる。
定員が若干驚いていたが、直ぐに皿を置いていく。
「こちらが札幌ラーメンで、こちらが激辛モッツァレラピザでございます」
一気に朝比奈と榊原が注文したのがテーブルに置かれる。
その時、不思議なことが起こった。
なんと定員は、激辛モッツァレラピザを、自信満々に優真の目の前に置いたのだ。
驚きのあまり目をカッと開き、定員を見るが、定員はチャーハンを最後まで皿を取らなかった榊原の元に置き、スタスタと去っていった。
「……ちょっと待ってくれよ」
「まぁこの中じゃ1番激辛食べそうだもんね」
「いや俺どう見ても激辛食わなそうな顔してるだろ」
「周りが女子だけだからな」
榊原は何も言わずに、すっと皿を取替える。
「あ。ありがとうございます」
「……変かしら」
「え?」
榊原を見ると、プルプルと震え、頬を真っ赤に染めている。
「私みたいな女子が辛いの食べるのって……変かしら」
「な……なわけないですよ!榊原さん!激辛好きはステータスですよ!俺も激辛好きな女の子好きですよ!」
榊原を励ますため、そんな事を口走る優真。
「っ〜〜!?……そ……そう」
榊原はそう言って、ピザを黙々と食べ始める。
ガチで辛くねぇのかな……と思いながらも、優真もチャーハンを食べる。
「お。ここのチャーハン初めて食べるけど美味いな……」
「そうだね〜。ラーメンも普通に美味しいや。優真も食べる?」
「おう。皿によこせ」
「何を偉そうに……それ〜」
「あんまり広範囲にやるなよ。チャーハンに染みるからな」
朝比奈は食べるのを少し中断し、箸で優真の皿に麺を少し乗せた。
すると、さっきから赤面が治ってない榊原が、
「ちょっ!?朝比奈さん!?それあなた使ってたわよね!?」
「え?うん」
「そ……それは!関節……関節キスってやつになるのでは……」
モゴモゴとそう言う榊原に、朝比奈は少し笑いながら、
「んも〜……。榊原ちゃんは可愛いなぁ。こんなの昔から何回もしてるからさ」
「な……何回も……!?」
「そそ。昔から。ね〜」
「んお?そぶだな(麺を食べながら)」
「んなぁァァァァ!?優真くんもなんでそんな平然と食べれるのよ!」
「いや、だから昔から何回もやってたんですって」
「む……昔と思春期は違うでしょう!」
「いいじゃないですか別に。というか麺うめぇ。もっとくれ」
「だめ。自分で頼んでくださ〜い」
「はー?分かったよ……。んじゃ次きた時に食うわ」
そんなふたりのやり取りを見て、拳を握りしめる榊原。
すると、榊原の隣で「美味しいな……」と顔を緩ませてパンケーキを食べていた藤宮が、突然席をたち、優真に近づくと、耳元に口を近づけ、
「良かったな優真。ハーレム物の主人公みたいだぞ」
そうとだけ言って、再び席に戻る。
そんな行動に、優真しかり朝比奈も首を傾げ、榊原は何故か更に拳を握る力を強める。
……朝比奈はもはや恋愛対象として見てないし、榊原さんは俺の事なんて好きになるわけない。んで先輩は論外……。なんだ。全くハーレムじゃないじゃん。
残ったチャーハンを食べ切る時、優真はそんな事を考えていた。
ちなみに榊原は終始顔を赤らめていたよ。
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「いやぁ。食った食った」
「打ち上げというか普通にご飯食べる会になっちゃったような……」
「そうね……。私は凄く疲れたけれども……」
「私は満足だがな」
ふふっと笑う藤宮。あのパンケーキを食べたあと、バニラアイスといちごパフェを食い切った後の人とは思えないくらいにいい笑みを浮かべている。
それに対し榊原はぐったりとしている。
「まぁ俺が今日1番驚いたのは榊原さんが激辛ピザ食い切った事なんですけどね……」
「あれ激辛って言う割に大したことなかったわホント」
「見た感じめちゃくちゃ赤いし辛そうでしたけどね……」
空は既に真っ暗で、外を照らすのは店の明かりと車のライト。
仙台は一応東北で1番栄えているだけあり、空が真っ黒に染まっていても、暗いなぁと感じることはまぁない。
都心部にあるカスト周辺であれば尚更。
「それじゃあ。解散と行くか。おい朝比奈。一緒に帰るか?」
「は〜い。私先輩と帰りま〜す」
「あ。さようならー。また月曜に。朝比奈は来週部活来れんの?」
「う〜ん……。多分行けると思う。多分ね」
「お……おう」
そういえば昨日、「嵐の前の静けさ」だなんだと朝比奈が言っていたことを思い出す優真。
「んじゃ〜ね〜」
そう言って、藤宮と朝比奈は地下鉄に乗るために駅に入っていった。
そんなふたりを見送って、残った榊原と優真は、少し間が空いてから。
「んじゃ、俺も帰りますね」
「……そう」
寂しそうな顔を浮かべる榊原だが、優真は「早く帰んなきゃ門限でグチグチ言われるんで……」となんとも気まずい雰囲気から逃れるためか、その場を後にしようとした。
その時。
「……榊原さん。俺の服掴むのやめてもらっても?」
「……ダメ」
「……どうされたので?」
「……言いたいことが……あるの」
優真が来ている服を引っ張り、榊原は優真にまっすぐ向き合う。
「えっと……何でしょうか」
「あのね。優真くん」
軽く深呼吸をしてから、榊原は意を決したように目を開き、
「私、優真くんの事が……」
そんな時だった。
榊原のスマホから大きな着信音が響いたのは。
硬直して動けない優真をよそに、「……申し訳ないわ」とスマホを取り出す榊原。
その着信主は……木浪やちよ。
直ぐに電話に出ると、その奥からは騒がしい音が聞こえた。
電話の奥では大声で話している人もいるが、その人の声が聞きなれたFA文庫の編集長の声のため、編集部にいることが分かった。
「……もしもし」
『もしもし!榊原先生!』
神様というのは時に残酷だ。
幸せな時に限って、その時余計な幸せというのを与えてくる。
よく神様は試練を与えると言うけれど。
榊原にとっては最も最悪なタイミングで。
だが作家としては最も嬉しいことが。
『らいとのべる!先生の作品!アニメ化決定しました!』
こうやって、やってくるのだから。




