メインヒロイン
佐々木優真は父親がいない。
中学三年の時に両親が離婚。
それ以降母親は再婚すること無く、女手1つで優真と妹──明奈を育てた。
現在も夜遅くまで仕事を続けている。
優真は過去に、「バイトして一人暮らしするからもうそんなに頑張らなくて良いぞ」と言ってはみたが、「まだ居なさい。きっちり大人になるまで育てきるのが夢なんだから」と優しい笑みを浮かべ、そう答えられたため、明奈と共に、今も家族と同居中である。
仙台市内ながらも都会から離れた少し古めのアパート──家賃5万円ほどの格安物件に暮らす。
高校に近いのは良いのだが……、仙台駅が遠いのが欠点である。
仙台駅近くのブックオフに行くためには、片道約40分の道のりを歩かなければならない。
地下鉄で行けばどこだってすぐに行けるのだが、優真からすると「電車代を払うくらいなら100円コーナーの小説を3冊買った方がいい」と考えているため、その道のりをわざわざ歩いている。
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「あれ?お兄ちゃんどうしたの?」
「いや……ほら。一緒に飯食おうかなと思って」
その言葉を聞いて、1階でピザのチラシを見ていた明奈が目を見開いた。
「珍しいね……お兄ちゃんが一緒にご飯食べようって言うなんて……。食べよう食べよう!」
意外そうな顔を見せたが、すぐに笑顔でそう答える。
「お……おう。んじゃ俺はコーンで……」
「コーンかぁ。なんか可愛いね」
口に手を当て、クスクスと笑う明奈はどこか猫のようだ。
「可愛いとか言うなよ……」
少しバツが悪そうに顔を逸らす優真。
「んじゃ頼んどくから!お兄ちゃんテレビでも見といてー」
「んじゃお言葉に甘えて……」
本当によく出来た妹だと改めて思う優真だった。
「上手いなこれ。ピザなんてコーンしか食べたこと無かったけど……肉もいいもんだ」
「そうだよねー。そういえば最近さぁ……」
優真はこんな光景を幸せに思う。
たとえ友達が少ないとしても。
たとえ彼女なんて居なくとも。
たとえ作品を完結させたことがないとしても……。
明奈と母親のことを心から愛する優真であった。
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「んで。これは何だ?」
文芸部の部室にて。
「良くないですか?衛藤には不評だったんですけど」
「当たり前だ。こんなの認める人はまず居ない」
淡々と批評を吐き出すのは藤宮らら。
高校三年生。すなわち優真の先輩である。
そして文芸部部長でもある。
黒いロングヘアーと若干キツイ顔つき。
怖い。おー怖い。
して今日も新作、『俺らの青春を取り返したいです』の感想を頂いている訳だが。
「まずそもそも大事なシーンで誤字っている。これ多分『いれるなら』って書きたかったのだろう?それが『入れるなら』。はいれるならになっている。大事なシーンなんだからきっちり書け」
「うわっ!ほんとだ。気付かなかったなぁ……。でもそれ以外は良いですよね。こんな作品ないと思います。オリジナリティに溢れてませんか?」
「うん。それを完結経験ないお前が言うのもどうかと思うがオリジナリティに溢れすぎだ。まるで訳が分からんぞ」
「うーん……」
「んじゃなんだお前は。新しい授業の形が欲しいと言ってテレビ番組でも見させる気か?」
「その授業に関わりあるのだったらいいんじゃないですか?」
「そういう話じゃないんだけどな……」
呆れた顔ではぁ……と溜息を吐き出す藤宮。
「お前はもっと衛藤を見習え。ほら見ろ。あいつの絵を」
藤宮の指さす先にいるのは、スケッチブックに一心不乱に何かを描く衛藤が。
「うーん……僕にはやはり理解出来ない。芸術ってのは難しいですね」
「……まぁ私もよく分からないのだが。なんか凄いってのは分かるだろ?」
「まぁ……はい」
衛藤が書く絵はいわゆる芸術タイプである。
ピカソ、岡本太郎、あと誰かいたっけ……まぁそんな感じの爆発する絵を書いている。芸術は爆発だ。
その衛藤の絵は過去に『画家になろう!芸術コンテスト!』という学校全体で1人参加してたらいい方な感じがぷんぷんする名前のコンテストで脅威の『五連覇』を成し遂げており、『令和のパウロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ』という異名を持つ。
ちなみにフルネームで言える人はいない。
それだけ芸術に特化している。
「すいません。やっぱわからないです。俺はやっぱり朝比奈が書いてる絵の方が凄いって思えますね」
「うん……分かるっちゃわかるな」
「ん?誰か呼びましたでしょーか」
朝比奈芽位。
金髪ショートの髪を揺らしてこちらを振り返る。
ちなみに金髪に関しては『地毛』である。
父形がアメリカ人、すなわちハーフ。
しかし顔つきは日本人そのものであり、日本人が髪を染めた〜みたいな感じ。
染めてないって言われても信用できないレベル。
「いや……朝比奈の絵は上手いなーって話をしてたんだよ。先輩もそう思うよね?」
「あぁ。実際本当に上手いしな。『イラストレーター』がうちの部活にいるなんて嬉しい限りだ」
「んも〜褒めないで下さいよ〜」
ちなみに胸は控えめ。……ではなくて、
彼女はイラストレーターである。
自称ではなくプロの。
その実力はまさしく本物。
これまででもデビューから1年経たずして4つもの作品の挿絵を担当し、そのほとんどがヒットしている。
そしてその担当作のひとつこそ、『らいとのべる』だ。
ラブコメ日常系小説のその作品は、FA文庫の新人賞大賞作品である。
その文章力と朝比奈……小早川先生の圧倒的な画力を持つ挿絵がマッチし、大ヒット。
発売1ヶ月で大量重版。
現在までに2ヶ月ほどで『50万部』売れている。
そしてその作者の榊原先生。
その人は優真の目の前にいる。
「佐々木くん。読ませてもらったわ」
朝比奈と話している途中、突然話しかけて来たその人こそ、榊原先生こと榊原恵。
「お……はい。いかがでしたでしょうかですか」
すぐにその榊原先生がいる正面に椅子を置き、話を聞く。
緊張してガッチガチだが、恵はバッチリこの文芸部の部員である。
実際何度もあっているのだが、いかんせん優真が榊原先生のファンであるが故、自分の小説を読んでもらう時はとてつもなく緊張するのだ。
「はっきり言うと……論外ね」
「ぐぼっ!」
まず1発。
「そもそも物語の構成が掴めないの。10000文字もあるのに、主人公の特徴すら分からないわ。それどころかヒロインの描写だけはきっちり書く。こう言うのはラブコメでやって欲しいのだけれど。これは転生するのよね?だとしたらこんなの捨てて主人公の描写を増やした方がどう考えても良いわ。このヒロインすぐお役御免みたいだし」
次々と打ち込まれるパンチを喰らいながらも何とか反抗しようと声を絞り出す。
「いや……その……偽ヒロインの描写を書くことで読者を騙すというアレが……」
「そもそも読者が居ないでしょうに」
「確かに……」
カウンターをあっさり交わされ、それどころか自分がカウンターを食らう羽目に。
「これだったらアレね……。前書いてた妹がヒロインのやつが1番面白かったわ。あれを書けば良いのに」
「みんなやっぱりそう言うんだ……」
昨日の衛藤と言いなぜあれが人気なのだろう……と思う優真である。
「あれは妹キャラがイキイキしてたわ。まるでモデルがいるかの用」
「……まぁ俺の妹をモデルにしてますけど」
「そうなのかっ!?」
突然会話に首を突っ込むのは令和のパブロ(以下略)。
「マジかぁー……お前の小説で唯一萌えたあのキャラが現実に居たとは……今度会わせろよな!」
「人の妹に手を出そうなんてサイテーだね。ロリコン」
それに突っ込むのは朝比奈。
「ロリコン……。それは俺を称える言葉だな。つーかお前もどーせ会いたいんだろロリコン」
「うん。でも私は同性だから。さぁて……可愛い子にはコスプレさせよ……今度の週末行かせてね」
「そんなことわざはねぇよ。2人とも合わせねぇからな」
「シスコンってこういう人の事を言うのだっけ?」
「榊原先生……」
「何かしら。あ。これからあなたの事を京介とか正宗さんとか呼べば良いかしら?」
「やめてください!ほんとに!俺は妹に恋愛感情抱いてないから!」
「京介の兄貴も最初はそうだったんだよな……。あ。俺のマイベスト妹はいつまでも高坂桐乃ね」
「お前らうるさいぞ!もっと静かに部活出来ないのか!」
部長の怒鳴り声が響く教室。
今日もいつも通りの日常を過ごす。
少し後に。
「なんですか先輩」
「お前に言いたいことがあってな」
既に二人しかいない部室で。
藤宮は突然語り出す。
「この日常……って言うのかな。まぁこの日々は。普通じゃないんだ。分かるよな?」
「……まぁ。イラストレーターとか小説家とか。どっちも売れてるし……」
少し息を吸い、改めて答えを出す。
「いつでも……学校というかこの部活辞めちゃう可能性があるって事ですよね」
「あぁ」
こくりと頷き、藤宮は
「だから。この日常を楽しもう。私の目標は部員がみんな幸せになる事だ。私も。もちろんお前もな」
「は……はぁ」
「ほら。帰るぞ。もう空が暗い」
藤宮が部室から出るのと共に、優真も部室を後にした。
めっちゃ明奈ちゃん可愛Eー!!!!
はいどうも。黒髪妹美少女ずんだです。
新作です。ごめんなさい。
このごめんなさいの意味がわかる人はきっと分かっていたと思いますが、この作品の主人公、佐々木優真の小説家としてのモデルは僕です。僕です(大事な事なので2回)
まぁその話は良いとして()
ぜひ推しを作りながら、この作品を楽しんでいただきたいです!
ちなみに書いている僕のイチオシは明奈ちゃんです。妹と恋愛なんてダメ!禁断よ!
何書いてんだろ僕。
という事で恐らく次に会うのはひと段落ついたあたりだと思います。
それでは。絶対にまた会いましょう。