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それぞれ辛いことはある

「ツッコミの人がボケても面白くないよな」

「うっわ~……。すごい分かる。優真とかその典型的な例じゃん?気付いちゃったのかな?」

「うっせ……。なんとなーくそう思っただけだ。つーか今日は朝比奈しか来ないの?」

「えっとねー、藤宮先輩が来るんだったかな。確か。榊原ちゃんは居残りで、衛藤くんはどっか言っちゃった」

 文芸部はやはり全員集まる事が中々ない。

 この1ヶ月、全員集まった時は3、4回ほど。

 どんだけ皆サボってんだよ……と言う話ではあるのだが、まぁ仕方がないことは、優真も分かっている。

 今日は朝比奈と優真の2人ではあるが、普段は衛藤と藤宮、優真の3人が基本。

 過去に藤宮が言っていたが、

『この日常は……普通じゃないんだ』

 その言葉を身に染みて理解する日々を、優真は送っている。

 今日こそ朝比奈が居るが、普段なら仕事に追われている。

 学校の時間すらも仕事に振りたいのに学校に来て、仕事して。

 その合間に文芸部。

 そこでふと、優真は思った。

 その思いを、直ぐに朝比奈本人に問う。

「あれ……つーかさお前」

「んー?」

「なんで……この部活やめてねぇの……?」

「何言ってんの……」

「嫌だってさ、仕事忙しいだろ。なのにわざわざ部活までやんなくても……」

「はぁ……馬鹿だなぁほんとに」

すると朝比奈はため息をついてから優真目をじっと見つめ、


「ずっと一緒にいた幼なじみから離れたくないじゃん」


「な……。おい……まさかそれって……」

「社会人になったら間違いなく私こき使われるし……。友達と遊べる時は……って何か優真顔赤いよ?」

「う……うっせ!つーかなんだよ……遊びたいだけかよ……」

「随分とリア充してんなクソが……」

「あっ。変態厨二クズロリコン野郎だ」

「おい優真。神子ちゃんでもそこまで酷く言わねぇから」

 優真と朝比奈がイチャイチャ(?)している中で、その空気をぶち壊すのは衛藤。

 どこへ行っていたのかは分からないが、何故か息を切らしては汗を流して、部室に入ってきた。

「うわ臭いよ衛藤。ほら。ファブリーズ」

「おっ。朝比奈ありがとな。なんだよ。これ朝比奈のか?」

「優真のだよ」

「ケッ。栗山ちゃんの持ってこい」

 栗山とは優真達2年生の中でも有名な女子である。

「きんも。それ皆に言いふらしても?」

「やめろ。俺の評判が悪くなるだろ」

「んじゃ俺が言っとくわ。じゃあな衛藤」

「まぁまぁそう早まるなよ。しまえよ……その携帯しまえよ……」

 と、やはりこのふたりが揃うといつも通りのアホっぽい雰囲気が醸し出される。

「うーん。やっぱり優真はボケちゃダメだね。そんくらいが丁度いいよ」

「丁度いいとは……。つか俺のボケそんな面白くない?」

「クソつまんないよ」

「朝比奈がクソって言った!?珍しすぎるだろ!?お前のキャラにあってねぇよ!」

「あ。優真。今のツッコミ良いね。やっぱ優真はツッコミだよ」

「そうか。何も嬉しくないコメントありがとな」




────────────────




「うぐっ……もう無理です……。許してください……」

「ダメですよ榊原先生。土曜日に予定作ったんでしょ?じゃあ早く締切出さないと」

「か……書いたじゃないの!なのになんでこんな直ぐに……」

「売れっ子作家だからですよ。喜んでください。ほら。どんどん仕事が来ますよ。仕事出来て嬉しいでしょ?」

「……はい」

 榊原に強制労働の様なものをさせているのは、木浪やちよ。26歳。

 榊原恵が所属するFA文庫の編集者であり、榊原の担当編集でもある。

 その実力と言うのは随分と凄いもので。

 これまでも「100万部」を超える大物作家を何人も担当してきた。

 もちろん作家のセンスと言うのもあるが、間違いなく木浪の実力によるものもあるだろう。

 その最も大きい特徴といえば、

「今の時代私みたいにしっかりここ変えろここ変えろって言う人なかなか居ないですよ。編集者にも感謝してくださいね」

「いや……変えろって言い過ぎなのよ……。はぁ……他の編集の方に変わらないかしら……」

「なんか榊原先生も容赦なくそういう事言えるようになりましたね。ほら。無駄口叩いてないで早く書いてください」

「疲れた……もう助けて……」

 この、厳しさと言うのも、大きな特徴である。

 締切が間に合わなそうと木浪が判断した際は、木浪自信が作家の家に行き、監視しながら原稿が書き上がるまで待つ。

 そしてその際の食べ物も……

「お腹……すいた……」

「あ。お腹好きましたか。はい。エナジードリンクです」

「もうお腹タプタプなのだけれど……」

「じゃあおにぎり食べます?」

「おっおにぎり!?」

 おにぎりと聞き、机を叩いて立ち上がる榊原。

「はい。これです。塩むすび」

「あっ……具材はないのね……。それでも……うぅぅぅ……。涙が出る美味さよ……」

 キャラ崩壊が止まらない榊原だが。

 塩むすびが食べれるだけでも涙が出る……。

 それだけで木浪の恐ろしさというのは実感出来るのではないだろうか。

 ……なろう作家の優真には分からないだろうが。

「というか榊原先生。結構原稿進んでるじゃないですか。想像以上の進みですよ」

「ほ……ほんとかしら……?じゃあここで今日は終わっても……」

 すると木浪は一瞬不思議そうに首を傾げたあと、にこりと笑って

「いやいや!ふざけるのは辞めてくださいよ~!私冗談好きじゃないこと分かってるでしょ~?」

 榊原にはさぞかし恐ろしい笑みに見えた事だろう。

 榊原は肩を震わせ目を潤わせ。

 何も言わずに目を擦ってから、もう一度原稿を、無言でカタカタと書き始める。

「期待した……私が馬鹿だったのよね……。ただ私が期待しただけだものね……。あ……。エナジードリンクおいちぃなぁ……」

「榊原先生?無駄口は辞めろって言いましたよね?」

「……もうイヤ…………」

「なんか言いました?」

「いえ……なんでも」

 我慢していた涙が溢れ出るが、木浪は何の躊躇もなく、ひたすら「ほら。泣いてないで早く書いてください」を永遠と繰り返した。


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