リア充になりたきゃカラオケへ
「カラオケに行きたい」
「毎度唐突だなおめぇは」
優真がつぶやきそれに衛藤がツッコむ。
もはや定番の光景と化しているがいつも通り部室で。
こんなやり取りが行われている。
「カラオケね~……。1人なら恥じらいなく歌えるけど〜……。みんなで行くと恥ずかしそう」
斜め椅子をして後ろのテーブルに寄りかかりながら、朝比奈はそう言った。
「恥なんて捨てるんだよ。むしろ恥ってなんだ。ん?恥ってなんだ……?恥とは……恥とは……。ウィキウィキ……」
「1人で迷い込むのやめろよ……」
「そうね……。でも私多分歌わないわよ」
なんせ朝比奈は先程本人も言っていたが、誰かの前で歌うのが恥ずかしい民だ。
カラオケは月一で言っているがその殆どがボックス。
所謂一人カラオケである。
そして榊原はカラオケというものに行ったことが人生で1度2度……。
そのレベルである。
するとぬる〜っと。
パソコンの裏から黒い影が。
「別に私は行っても行かなくても良いけどな。とはいえ優真。何故突然カラオケなど言い出した」
「んんっっ!?なんでここに先輩が!?いつからいたんですか!?」
黒い影の招待は幽霊なんてものではなく藤宮。
「いやお前らが来る前からいたぞ……」
目を細め、そう答える藤宮に優真も答える。
「そうなんですか……。気付かなかった……。あ。カラオケに行きたいと思ったのはホントになんとなくです」
「あっそう……」
呆れる藤宮。
そんな会話をよそに
「まぁ別にいいんじゃないか?文芸部らしくは……ねぇかもしれねぇけど」
珍しく優真の意見に素直に賛成した衛藤に、「珍しい」と優真は目を見開いた。
「まぁ別に私は行っても行かなくてもだけどねー恥ずいけど」
「同じくね。まぁ……歌うのは少し恥ずかしいけれども」
女子メンバーは恥ずかしそうだが、優真はなら!と、
「んじゃ行きますか!明日!」
「あ……明日。相変わらず早いな。まぁいいよな」
「えぇ」
「まぁ」
「いいぞ」
「んじゃ反対意見はないということで……」
文芸部はカラオケに行くことになった!
────────────────
「おーい。こっちだぞー」
土曜日。
集合時間の10分ほど前に、衛藤がやってき た。
カラオケ前の駐車場での待ち合わせだが、現在いるのは衛藤、優真、そして榊原。
こういう待ち合わせの時は間違いなく初めに集まるメンバーだ。
ちなみに朝比奈は結構ギリギリに。
そして意外なことに藤宮は結構遅れてくる。
と、
「あ。朝比奈さんが来た。珍しく早いわね」
「ほんとだ。って藤宮さんも来た!?明日雨が降るぞ……」
優真がそう言うと突然藤宮はダッシュで近ずいてきて……
「私は地獄耳なんだ。お前今私をバカにしたよな?」
「や……そんなわけないじゃないですかー!ほら!早く入りましょ!」
誤魔化してせっせとカラオケ屋に入る優真だった。
それについて行くように文芸部メンバーもカラオケ屋に入る。
今日優真達が来ているカラオケ屋は──歌歌ランド。
優真達の近所ではカラオケをすると言えば歌歌。
そんなレベルの地域有名チェーンだ。
優真は過去に他県に旅行に行った時、カラオケをしに行こうと言うことになったのだが、他県に歌歌ランドがないことに衝撃を受けた。
他にも「え!?このCM流れてないの!?」やら、「いや、ここは○○別天地~と言えば盛岡だろ!?」とか。
ちなみに大江戸○泉物語のCMは地域ごとに歌詞だけが変わっているため、引越しなどをした時や旅行などに行った時、随分と驚く。
「5名様ですねー。お部屋こちらになります」
「ありがとうございます」
歌歌ランドに入り、軽い手続きを済ませ、部屋へと進む。
ちなみにドリンクバーは基本無料のため、わざわざ買う必要はない。
「よぉし。歌うぞー!」
「なんだ。衛藤歌うの好きなの?歌え歌え~」
部屋に入るや否や直ぐに選曲パッドをいじる衛藤。
「こいつはホントにカラオケ好きだからなー……。今日もパパンオールスターズ?」
「あぁ。もちろん」
「私はドリンクバーで何かとってくるが。皆は何か飲みたいものあるか?」
部長である藤宮がそう聞く。
「俺コーラ!」
「俺メロンソーダ!」
「私は~……あ。グレープジュース」
「私はそうねー……あ。エナジードリンクはあるのかしら?」
「ねぇよ!」
すかさずツッコむ優真。そして意外そうな顔をした朝比奈がこう問うた。
「榊原ちゃんってエナジードリンクなんて飲むの?」
「えぇ」
平然と答えたかと思えば突然顔を暗くし……
「正直締切が近くなってきたら毎日のように飲むわね……私は元々筆が遅いから。あぁ。編集者から送られてくるエナジードリンクとカロリー○イトからは優しさよりも恐怖を何故か感じるのよね……。あっ……思い出すだけで……」
「榊原さん……。ここはカラオケです。楽しみましょう。藤宮先輩!榊原さんにはオレンジジュースを!」
「分かった」
「な……何故オレンジジュースなの?」
「前飲んでたので」
「……覚えててくれたのね」
サッと優真から視線を逸らす榊原。
「俺なんか悪いことしたかな……?」と心配になる優真。
そしてその後ろで歌う衛藤。
それを見てゲラゲラ笑い転げる朝比奈。
まぁまぁ楽しそうである。
──────────────
それからしばらく衛藤が歌い優真が歌いのループが始まった。
そしてそれを見て笑う朝比奈。
永遠とこの光景が続き続けるのかと思えるレベルでのループ。
それを破壊したのは榊原だった。
「……私も歌おうかしら」
「マジですかっ!!」
半泣きで歌っていた優真は、ついにこのループを抜けれるとマイクを榊原に握らせた。
「まぁ……期待はしないでちょうだい。歌は音痴だから……」
「良いですよ別に。楽しそうに歌ってればいいんで」
「そ……そう」
優真の発言に少したじろぐ榊原だったが、直ぐに選曲パッドをいじり、曲を入れる。
選曲した曲の題名が画面に表示され、ついに榊原が歌い出す……
その曲の題名は……
「『ときめき☆きゅーてぃんぐ』だとぉぉぉぉ!?!?」
説明しよう!ときめき☆きゅーてぃんぐとは!
いわゆる萌えアニメの系統にあたる『かわゆさ☆まほうしょうじょ!』のエンディングテーマである!
電波ソングとはまさにこの事と言えるレベルのキャピキャピソング。
とても榊原が歌うとは思えない曲の内容であり音程なのだが……
「大丈夫なのか……これ」
優真のこの心配は数秒後に吹き飛ばされる。
曲の序盤のキャピキャピした音楽が流れ、ついに歌詞パート。
その場にいた文芸部メンバー全員が固唾を飲んで見つめる中、ついにその歌声が披露される。
「ゆーめぉーおぃーかけるぅー君ぃーのぉー姿にぃー」
「甘いっっっ!!」
声が甘い!
榊原だけど榊原じゃない。
不思議すぎる表し方ではあるが、その意外すぎる歌声に優真、朝比奈、衛藤、藤宮。全員があっけに取られる。
そのままついにサビへ。
「皆ぁー仲良くっ!はいっ!」
きっちりコールアンドレスポンスの部分も歌いきり……
「だーいー好きぃーだよぉー!」
そしてこの「ときめき☆きゅーてぃんぐ」を人前で歌う上で最も恥ずかしい、最後の「大好き!」が近づく。
恐らく流石の榊原でもそれは言わんやろ……
「大好き!」
「「「言ったァァァ!!」」」
言ってしまった。
しかも超高音で。
─────────────
「下手くそで悪かったわね……」
「下手くそじゃないんですが……それ以外で衝撃が……」
榊原の高音電波ソングで殴られた文芸部メンバーはその場にぐったりと倒れ、正しく光景は地獄絵図。
何かと地獄絵図になることが多い文芸部である。
この後朝比奈や藤宮も歌ったが、榊原のアレを超える衝撃は来なかった。
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「いやぁ……面白かったな」
「そうだね。結果的には面白かった」
カラオケの時間が終わり、全員で部屋から出る。
「それにしても榊原ちゃんのは衝撃だったけどね……」
「そんなにかしら……」
「衝撃以外の何物でもないだろう……」
各自がカラオケを振り返り歩いていると……
「あれ?幼女だ」
朝比奈がそう呟いた。
その刹那。その幼女がこちらを振り向き、
絶叫した。
そしてその幼女の顔を見た衛藤も
絶叫した。
「なんでここにロリコンクソ変態厨二病野郎が!?」
「なんでここに変態ロリが!?」
そう。その人は見滝原神子である。
「な……何してるんだお前は!」
「一人カラオケですよ!むしろクソ変態がなんでここに……ってまさか『また』ストーカー行為!?」
「またって……衛藤……」
「衛藤くん……」
女子メンツからのゴミを見るような目に、慌てて修正を加えようとする衛藤。
「ち……違うんだって!俺は別に手を出してもないし……」
「嘘です!このクソ変態ストーカーは私を追いかけていたと思えば言葉責めで私を混乱させて……」
「もしもしー?警察の方ですか?」
「おいぃぃ!優真ァァァ!」
「なんだこれ……」
こんな感じで平和に(?)文芸部カラオケ計画は幕を閉じた。




