小説を書いてるけど完結させたことはない男。
「なんでよ!なんで私じゃダメなの!?」
高橋がそう叫ぶ。
「僕は……僕は。好きな人がいるから」
僕はキッパリそう告げる。
そう。好きな人がいるから。
「……意味わかんないよ。意味わかんないよ!!」
「お……落ち着いて!僕は……」
「うるさい!私比治山くんと一緒に入れないなら……」
「っ……!?」
彼女がカバンから取り出したそれは……包丁である。
「な……やめろ!やめろ!」
「死のう!?私と死のう!?」
「やめっっ────」
消え行く意識の中で最後に僕の目に映ったのは。
首に包丁を指し、僕の隣に倒れ込む高橋の姿だった。
「……これはダメだな」
「え。そう?急展開面白いと思うけど。個人的にも自信作だ」
放課後。教室にて、衛藤は優真の自作小説を読み、苦言を漏らした。
誰もいない教室の中、ひとつの机で向かい合うように話し合う。
「いや急展開がすぎるだろ……んでなんで次回転生すんだよ。意味わからなすぎるだろ」
「そうかぁ……?」
「そうだよ……」
少し残念そうな顔で肩を落とす優真。
優真──佐々木優真は高校生。
ネットにて小説を投稿する17歳である。
やや小柄で、普通のちょっと上辺りのなんとも言えない顔つきを持つ。
ただ男にしては長めの髪が目に若干かかり、陰キャ臭の様なものを漂わせる。
漂わせるというか陰キャである。
そしてその優真の正面で優真の書いた小説を読み、苦笑いで感想を述べたのは衛藤輝明。
優真よりは少し大きい体格で、かなり整った顔つきを持つ。
所謂イケメンというやつである。
ただチャラチャラとした様な印象は全くなく、その優しい性格と成績の良さから、悪い印象を持たれていない。
彼女なども訳があり作ることは無い。
そして意外なのは友達が3、4人くらいしか居ないことである。
「ちなみに前書いた小説はどうなった?前のラブコメ」
「あぁ……あれ。衛藤妹好きなんだっけ……アレだったらもうエタってる」
「普通に言える事じゃないはずなんだけどなぁ……。お前これで何個目よ?」
「……8」
「それだけの作品に感想上げてる俺に感謝しろよ……」
「だよなぁ……いつもありがとうございます」
今やっていたのは優真の新作──『俺らの青春を取り返したいです』の感想を聞く会である。
会とは言ってもこの二人だけだが……。
毎回小説を書く度これをしているのだが、優真はほとんどの作品をエタる(完結させずに書いている途中で作品を放り投げること)ため、感想を上げている衛藤もそろそろめんどくさいという現状。
「あぁ……感想に戻るけどよ。甘々日常系ラブコメかと思ったらいきなり殺人が始まって転生……。あらすじには日常系ラブコメ!って書いてるんだけど……?」
「いいじゃん。まどマギとかがっこうぐらしだってそうだっただろ?」
「うーん……。俺のトラウマ作品を掘り返すのはやめようか」
衛藤は過去にまどマギを見て精神ズタボロになった後、癒しを求めて萌えアニメと思い、がっこうぐらしを見た。結果トラウマとなり、まどマギはまだしもがっこうぐらしに関しては絵を見るだけでも体が震えるレベルである。小学四年生の頃の出来事であった……。
「つーかがっこうぐらしはマンガの表紙でなんとなーく分かるように出来てるし、まどマギも監督で薄々気付けるようになってるからね。お前は予想外すぎて問題外なんだよ」
その若干キツイ言葉に対し優真は……
「その意外な感じがいいんじゃないか!これだから萌えアニメ脳は……」
あくまで自分が正しいと言わんばかりにドヤ顔でそう言った。
「うるせぇ。感想貰えてるだけでも喜ぶべきだろ〜っと」
「痛い痛い痛い!ちょ……頭グリグリすんのやめろ……グーはダメだって」
頭を擦り、涙目でそう言う。
「つーかお前PVしっかり見てるか?1番多いのやっぱ前書いたラブコメが1番いいぞ?」
「うーん……そうなんだけど……」
「続き書けば感想とか貰えるんじゃねぇの?」
「おうん……多分貰える」
「んじゃなんで書かないんだよ」
「なんか……飽きちゃったんだよねー。って痛ァ!?急に殴るなよ!まだ親父にも殴られたことないのに!」
「おめぇやべぇよ。作品への愛ってのはないの?」
「うーん……」
「言葉に詰まるなよ……」
事実。
優真は生まれてこの方なにかの作品を書き切る……完結させたことはない。
過去に自分の将来について書く作文を、約14万文字で書き上げたくらいだ。
中学生の時に書いたのだが、その作文を書ききった時は『作文の神』と言われた。約1ヶ月で言われなくなったが。
「ほら。時計見ろよ。もう6時なるぞ」
「マジじゃん……」
外を見ると少し薄暗くなっており、夕焼けが目に写り込む。
「今日は文芸活動クラブもねぇしなぁ……帰るか」
「そうだなー……」
椅子から立ち上がり、教室から出る。
そして部活に勤しむ生徒の声を背に、校門から出た。
「んじゃ。また明日」
「おう!また明日な!」
軽く手を振り、2人はそれぞれの家の道へと歩き出した。
────────────────
優真は先程も言ったが、完結させた作品がない。
小説投稿サイト……小説家になろうにて、9つの作品を書いているものの、8つの作品は既にエタり済みである。
ミシマという名前で投稿をしているが、別に有名と言う訳では無い。
投稿して、一日のPVが100、多くて300くらいのなろう作家である。
彼が書いてきた作品を振り返ると……
1作目。転生系。
初めて投稿した作品。初めて1ヶ月くらいでエタる。理由はいつの間にか面倒くさくなった。
2作目。ラブコメ。
転生系とともに投稿していた作品。多少は評判があったが、ハーレム書くのが面倒になってきてエタる。
3作目。またもラブコメ。
上のふたつをエタった後、書いた作品。
尚3週間でエタる。
4作目。日常系。
きっちりラブコメをエタった後に書いた。
尚2週間でエタる。
5作目。日常系。
なんか飽きた。エタる。
6作目。戦闘系。
コレジャナイ感が出てきちゃった。まさかの1投稿でエタる。
7作目。ラブコメ。
久々に書いたら評判は出た。だが先程の通り「飽きちゃった☆」エタる。
8作目。日常系。
まさかの3日でエタる。
9作目。ラブコメかと思いきや転生系。
友に批評だった。今日投稿。
以上。
この半年。8回ものエタりを経験した。
やっぱ小説書くのは1番最初が面白いよねぇ!という思いもよく分かる優真。完結まで書けよ……という衛藤。
本当にエタりっていうのは宜しくない。きっちり完結させないといけませんよ。
優真は小説を読みながら、とぼとぼ1人で家に到着する。
「ただいまー」
ドアを開き、中にいるであろう妹に一応挨拶をしておく。
「おかえり〜。お兄ちゃん最近帰り遅くない?彼女でも出来た?」
妹の佐々木明奈が返事を返した。
「んなわけないだろ。むしろお前も最近夜にどっか行ってんじゃん。彼氏でも出来たの?」
高校一年……つまり優真の一個下の妹だが
「出来たって言ったらお兄ちゃん傷つくんだからそう言うのやめたら……?」
兄の性格に関しては完璧に抑えている妹であった。
「ちなみに彼氏はいないよ。友達とゲーセン行ってるの」
「そ……そうか。んじゃあな」
「はいはーい。あ。お兄ちゃん?ご飯はピザでも頼んでだってー。お母さん今日も遅くなるみたいだから」
「そうか。ありがとうな」
2階へ上がる階段を登る優真。
優真の1番の心の支えとなっているのは、妹である。
日々の疲れも明奈の声を聞くだけで吹っ飛ぶ。
家族愛に溢れる優真だった。