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流刑の際に殺されそうになったので隣国に逃げ出しました。

作者: 成瀬

 まあ、よくある流れでございます。


 ええ、そう。私、リリシア・ファリアスは婚約者を奪われまして、罪を擦り付けられ流刑になりましたの。元婚約者のカルロス・アルマハーノ様はアルマハーノ侯爵家のご子息で、長男。私も同家格の侯爵家の長女でしたのよ。カルロス様のお誕生日の夜会で、婚約破棄されるまでは。これも最近の流行なのか知りませんが、カルロス様は子爵家のマリア様の腰を抱いて、私に婚約破棄を宣言されました。その後は身に覚えのない罪によってそのまま、本当にそのまま、こうして罪人が乗る馬車にて運ばれているのでございます。


 さて。つい今しがたの夜会では大袈裟に驚いてみせましたが‥‥。予想通りの顛末で、拍子抜け、と言ったところです。そろそろ実家にも、あの国にも嫌気がさしていた頃ですの。カルロス様のお粗末な計画が転がり込んできたので、乗って差し上げただけ。平民としての暮らしは、ここ数ヶ月で何度か屋敷を抜け出して体験させていただきましたし、領地では何度もお邪魔させていただいていたから、他のご令嬢方に比べれば多少はやっていけると思っておりますの。

 それに、身に着けたアクセサリー以外にも、価値のある宝石類は服の下に縫い付けておりますわ。馬車に揺られている間に、ドレスを出来るだけシンプルにしていきましょう。裁縫用の小さなハサミも持ってきましたの。ふふふ、準備が良いでしょう?


 この後ですが、流刑と聞きましたので港から孤島に送られる手筈です。が、そこに辿り着く前に、殺してしまおうとお考えらしいの。なんとも‥‥‥お可愛らしいことですわね。




 馬車が止まり、控えめに扉がノックされましたので、一言返事を返せば黒ずくめの男性が音を立てずに扉を開けました。


「お嬢様、ご連絡通り、殺しに参りましたが?」

「あら、それはご苦労さま。それで、私の髪が欲しいのでしたわね。このくらいでいいのかしら?」


 緩く巻かれたネイビーブルーの髪を一房掴み、どのくらいの長さにしましょうか?と切る位置を考える。黒ずくめの男性は、ため息を付いてから「この辺からで充分だ。」と鎖骨辺りを指さしました。なるほど。それでは、そのように。


「おいおい、一房でいいんだが。貴族のお嬢様は長い髪が命だと聞いていたんだけどな‥‥。」

「一部だけ短い方が可笑しいわ。それに、これからは平民になって働くのだから、このくらいの長さの方が動きやすいでしょう?」


 ついでに全て同じ長さに切ってもらうことにしましたの。私を殺しに来た黒ずくめの男性はまたため息を付いてから、言った通りに髪を切ってくれたわ。


「さ、これで私を殺したという証拠は充分ね?」

「そうですね、お嬢様。ああ、対価は先払いでもらっている。御者もウチの者だから、心配ない。次の街で隣国行きの船までは案内してやるさ。」

「まあ、それはサービスかしら?」

「依頼料分は働くってだけさ。」

「‥‥ありがとう。」

「それじゃあ、またな。お嬢様。捕まらないような!」


 私を殺す計画については‥‥‥貴族らしくお金で解決しましたの。我が家の密偵を、カルロス様が雇ったという者たちに接触させ、計画を知っていることと、倍の金額を払うことを話しました。あの者たちからすれば、当初の三倍の金額が手に入るのですから、少し考える時間を与えれば頷いてくれましたわ。もちろんそれは、私の髪を渡すことが必須。私を殺した証拠を提出しなければなりませんものね。

 お父様は、私のことを何とも思ってはおりませんから、私がどう動くのかを知っても特に何も仰らなかったわ。今夜の夜会には仕事で欠席。知らぬ間に婚約破棄され娘は死亡。怒り狂ったふりをしてアルマハーノ侯爵家へ多額の賠償金を求めて終わりでしょう。カルロス様は長男ですが、次期侯爵にはなれそうにありませんでしたし、私のことはこのあたりで見切った方がお父さまにとっては都合がよかったのです。


 そういうわけで、さっぱりした髪に高揚感を覚えながら、私は生まれ育った国から隣国へと向かう事が出来ましたの。



 私の生まれた育った国は、王族が権力を握り過ぎておりました。最初からではないのですが、そうですね、2代前の王から歯車が狂っていたのだと思いますわ。自分たちの事しか考えない王侯貴族ばかりで、もうすぐ国として機能しなくなるでしょう。

 領地から生まれるお金には興味があるけれど、そこに住む民たちには興味のないお父様とお兄様に代わって、領地経営は主に私が行っておりました。13歳の頃から領地経営には携わっておりましたので、もう5年になるのですね。この国に未来が無ければ、領民に負担をかけてしまいます。それはいけません。

 ファリアス侯爵家の領地は、土壌は豊かな場所が多いですし海に面した港町もありましたの。ということで、経済が潤滑に回るように経営を頑張りました。お金は力ですから。公共事業と貿易ですね。あとは特産品。とまあその辺は割愛しまして。国が死んだときは、領民の皆様には迷惑をかけることにはなるでしょうが、私一人に出来る事には限界がありましたの。まあ、既に3割は出国済みですし、港には大型の貨物船を複数常駐させております。これは若い男衆の皆さんの協力があってのことです。これがあれば有事の際は自分たちで何とかするからと言われたのは記憶に新しいですわ。そう言えばその男衆の中に、私が領主の娘だと知っているはずなのに、毎日花をくれた青年が居ましたわ。ふふふ、淡い思い出です。




 隣国へ行ったら平民として、静かに平和に暮らせればいい。泣き言は言わない。自分の事は自分でやれる。明日の食事を気にしながら生きることになっても、心穏やかであればそれでいい。





* * * * *





 そう、思っておりましたのに。



 これは予想外ですわ。なぜ‥‥私は隣国の王女様にお茶を淹れているのでしょう。


「リリーの淹れる紅茶は美味しいわ。」

「もったいないお言葉です、殿下。」

「もう、フィオーレと呼んでって言っているじゃない。年も近いし、私のお部屋ではお友達みたいにお話ししてほしいのに。」

「殿下‥‥フィオーレ殿下、私の身分でそれは恐れ多いことでございますので。」


 最初は食堂のウエイトレスをやっていましたのよ。慣れてきたころに女将さんの紹介で、最近大きくなった商会のお嬢さんに礼儀作法を教えるバイトをやることになって。お嬢さんが貴族然としてきたところで、商会長さんのご厚意でお嬢さんと一緒に王宮の侍女になることになって。気付けば王女宮仕えになっており、知らぬ間に王女様の目に留まったらしく、隣国に来て早1年で現在に至ります。


「ねえ、リリー。私が何も知らないと思っているの?」

「‥‥フィオーレ殿下、私はかの国では死んだことになっております。」

「でも、あなたは侯爵家のご令嬢だわ?」

「フィオーレ殿下の目に留まらなければ、ただの食堂のウエイトレスです。」

「リリーったら。だって気に入ってしまったんだもの。そう簡単には手放せないわ?」

「殿下‥‥」

「そうだわリリー!良いことを思いついたわ!」


 どうしても私を友人としたいらしい殿下は、可愛らしく両手を合わせて微笑みました。可憐な花が咲いたような笑顔ですが、私にとってはどうでしょうか。





* * * * *





「申し訳ありません。お忙しいはずですのに、こんな‥‥」


 とある喫茶店で、私は申し訳なさすぎて頭を上げられない状況にありました。というのも、フィオーレ殿下は何を思ったか、王女宮付きの騎士団長であるヴィルマー・エーデル卿とデートをしてくるように命じられました。殿下の考えは分かるのです。この国ではただのリリー、平民の私を友人としたいのならば、それなりの地位を持つ貴族にするしかありません。フィオーレ殿下は、騎士団長であり侯爵でもあるエーデル卿へ私を嫁がせれば良いと考えたのでしょう。送り出されるの時に「婚約する時には、伯爵位以上の貴族へ養子として受け入れさせるから心配しないでね!」と言われました。


 エーデル卿は、平民の私にも礼儀をもって接してくださるお方です。フィオーレ殿下付きになる前にも一度お会いしたことがあったのですが、覚えていて下さったようで、殿下付きとなった時にもお声をかけていただきました。

 正直に申しますと、エーデル卿のお顔もお声もとても素敵だと思っています。それは勿論、私だけではありませんので、何度か告白現場に遭遇したことがありますが、あの方は何故か頷かないのです。


 私としては、好意を抱いている殿方とのデートとなれば願ったり叶ったりですが、エーデル卿からすれば迷惑この上ないことというのは承知しております。殿下からの指示ですから、私もエーデル卿も断る事はできません。騎士団長としてお忙しい筈のエーデル卿を、このように拘束してしまい、申し訳なさで頭があがりませんわ‥‥。出された紅茶とケーキを食べ終えたら、早々に解散しなくては。



「謝らないでください。実を言えば私から殿下に申し上げた事なのです。どうか、お顔を上げてくださいませんか。」


 勤務中に聞いたことのある声より数段穏やかな音が聞こえた。ずっと下を向いていては失礼ですわね、と声に従って顔を上げる。エーデル卿は、漆黒の髪に黄金の瞳を持つ美丈夫。この容姿と地位で何故独身なのか全く理解できません。


「リリー殿は私が殿下に無理やり連れてこられたとお思いのようですが」


 違うのかしら、と思いながら頷くと、エーデル卿の形の良い眉の尻が下がる。


「実は前に、殿下の護衛として手柄を立てたことがあり、その褒美に願いを聞いてくださる約束をしていまして。」

「‥‥はい」

「少し前から、殿下に褒美を願い出ていたのですが、今日それがようやく叶いました。」

「と、言いますと‥‥」

「リリー殿の時間を一日いただくことです。」

「‥‥‥‥」


 こんなに都合のいい話、あるはずがありません。私はそこまで馬鹿ではございませんわ。


「死んでないことに気付かれでもしましたか。」

「‥‥‥‥」


 エーデル卿は笑顔を崩しませんが、その無言は肯定です。


「リリー殿はご自分の価値を理解しているようだ。」

「自分の血は理解しております。」


 厄介なことになりましたわ。私、故郷の国では少しばかりですが、王族の血を引く者でしたのよ。王位継承の争いで何かあったのでしょう。私が王族の一員と数えてしまうようなことになっている様子。それであれば、誤って殺されかけた王族が隣国で生き延びていた、というのが今の現状。隣国側としては、その王族を保護して囲いたい。まあ、なんらかの利益にはなりますでしょう。一介の侍女ですもの、そのあたりの詳しい事情は範囲外ですわ。


「‥‥‥‥」


 私としましては、どうせ囲われるのであればエーデル卿が最善と考えます。なんせ顔がタイプ‥‥というのもありますが、侯爵位の騎士団長。良いではありませんか。しかも王女殿下が勧める相手です。個人的には暴力さえなければ良いのです。これを断れば、親子ほど年の離れた殿方、という可能性もありますもの。


「リリー殿、よろしければこの後、貴女に贈るドレスを選ばせて欲しいのですか。」

「‥‥嬉しいですわ、エーデル卿。」

「ああ、言い忘れておりましたが、貴女とのデートが褒美というのは本当ですよ?」

「ご冗談を。」


 そうして、その日はエーデル卿に連れられてデートを完遂しました。今回も政略結婚になるようですわ。また土壇場で破棄されないようにしましょう。色々考えるのは労力を使いますからね。





* * * * *





「リリー!待っていたのよ!さあ座って!新婚生活のお話しを聞かせてちょうだい!」

「フィオーレ様、お待たせして申し訳ございません。」

「もう!それはいいのよ!さあ座って?」

「失礼いたします。新婚生活について、ですか‥‥ええっと、」

「エーデル侯爵夫人になって、生活はどう?エーデル卿とは仲良くやっているのかしら?ああ、聞くまでもなかったわね。エーデル卿が毎日花束を買って帰るって有名な話だもの。」


 エーデル卿、いえ、ヴィルマー様と結婚し数ヶ月が経ちました。フィオーレ様の侍女は辞しましたが、こうしてお茶会に呼ばれるようになりました。複数人の時もあれば、今日のように二人だけの時もあります。


「毎日は止めてもらいましたわ。もう飾る場所が無くて、そのうち屋敷が花に乗っ取られてしまいますもの。」

「まあまあ!エーデル卿はなんと?」

「なにもありませんわ。花を買って帰らなくなっただけです。」

「それは腑に落ちませんわね‥‥嵐の前の静けさかしら‥‥リリー、気を付けてね?」

「?」

「あら?もしかして気付いていないの?結婚までしたのに?」

「殿下、なんのお話で‥‥」

「フィオーレ」

「フィオーレ様」

「よろしい。いえ、ほら、エーデル卿のことよ?本当に分かっていないの?」


 フィオーレ様は、片手をあげて侍女や護衛を下がらせました。聞かれてはいけない、内緒話が始まる様ですわ。


「ねえ、リリー。夫だからとか関係なく答えてね。エーデル卿の事は好いているの?」

「ええ、お顔は。」

「顔だけ?」

「身体付きも好きですよ。」

「リリー‥‥」


 フィオーレ様が肩を落とした。真面目に答えただけですが、求められているものではないようです。ということは、中身の話でしょう。


「えっと、お顔と身体は置いといても、素敵な方だと思っておりますのよ。政略結婚でしたが、蔑ろにすることなく、侯爵夫人として扱ってくださいますし。」

「‥‥!!‥‥‥‥~~」


 パッと数秒目を輝かせたかと思うと、すぐに落胆してしまわれました。


「もう、もう!なにをやっているのよエーデル卿!結婚までしておいて未だにリリーが分かっていないのだけど!?」

「フィオーレ様‥‥?」

「もちろんリリーを気に入ったって言うのは本当よ!でも、最初はエーデル卿が‥‥!あっ!」

「‥‥‥」


 ふむ‥‥フィオーレ様がまずいという顔で口を押えました。私を気に入ったのは本当だが最初はヴィルマー様が、の後に続いたのはきっと、そう。


「私が王女宮の侍女になったのは、ヴィルマー様が手筈した事だ、と?」

「なんでそういうことは鋭いのよリリー!!」


 フィオーレ様が顔を覆います。そうやって思い返せば、色々な事がトントンと進みすぎだったような気がしますわ。どこから、彼の思惑の中にいたのでしょうか。しかし、何故‥‥?


「そしてその理由が分からない、って顔よ?」

「フィオーレ様はご存知なのですね」

「私にはどうして貴女が分かっていないのかが分からないわ。ねえ、夜は一緒なのよね?」


 声を潜めてフィオーレ様が首を傾げます。私は何の心配をされているのでしょうか。


「ええ。」

「頻度を聞いても?」

「‥‥‥毎晩、ですが」

「それでなんでリリーは気付かないのよ!?」


 フィオーレ様、今度は天を仰ぎました。

 そこへ先ほど下がった侍女が戻ってきました。


「失礼いたします。エーデル侯爵夫人に、エーデル侯爵がお迎えにといらっしゃいました。」

「リリー、また今度お茶をしましょうね?」

「はい、フィオーレ様。楽しみにしておりますね。」


 ヴィルマー様、お仕事はもうよろしいのかしら。と思いながらフィオーレ様へ挨拶し、侍女に案内されるままに歩けば侯爵家の馬車の前にヴィルマー様が待っておられました。


「ヴィルマー様」

「リリー、お茶会は楽しかった?」

「はい。」

「今日はどなたが?」

「フィオーレ様と2人でしたわ。」

「‥‥‥‥なにか、聞いたかい?」

「‥‥馬車の中で話しましょうか」


 ヴィルマー様にエスコートされて馬車へ乗れば、何故か並んで座る事になっています。普通は向かい合うものですが‥‥どうされたのでしょうか。


「それで、何を聞いたのかな」

「聞いた、というよりはフィオーレ様の言葉から推察しただけですわ?」

「ではそれを聞かせて?」

「‥‥私が王女宮の侍女となったのは、ヴィルマー様の手筈ですね?」

「うん」

「では、商会のお嬢様のマナー講師となったのも‥」

「そうだね」

「なるほど。食堂の女将さんと商会を繋げたということですか。でも、何故?」

「うん?」

「何故、その頃から私を?もしかして、その頃からヴィルマー様はあの国で王位継承者の問題が発生することを分かっていらっしゃったのですか?」

「‥‥‥そこは分かっていないんだね」

「?」

「教えて欲しい?」

「はい。ですが、無理強いはしません。立場は弁えているつもりです。」


 私は今、人質のようなものである。私を餌に、今は国の間で様々な交渉が進んでいる。私の故国はもう後がないような状況らしく、戦争をするぞと脅しをかけているが、戦争になったところでこの国が圧勝なのは目に見えている。


「リリー」


 ヴィルマー様に手を握られました。いつの間にか下がっていた視線をあげれば、黄金の瞳と目が合います。カーテンの隙間から差し込む夕日が映り込み、キラキラしていて、目が離せません。


「ヴィルって呼んで」

「ヴィル、さま」

「呼び捨てがいいな」

「ヴィ、ル‥‥」


 結婚して、夜も共にしたというのに。名前を呼んだだけで熱くなるとは、生娘のようではないですか。と思っていると、視界が暗転し、ちゅっと音がたちます。キスをされたようです。


「実は君を知ったのは、ずっと前なんだ。」

「え?」

「君の故国に偵察に行ったことがあって。」

「はあ」

「丁度君の領地の港町でね」

「‥‥」

「大型船を常駐させるっていうのをやってた男衆に紛れ込んでいたんだけど」

「は?」

「その時に一目ぼれしたんだ。毎日君に花を渡していたんだけど」

「ちょ、ちょっと待って下さい。で、では、えっと‥‥どこから、あなたの‥‥」


 混乱していると、馬車が止まりました。屋敷に着いたようです。御者が扉を開けてくれましたが、私は固まってしまいました。


「また会ったな、お嬢様。やっぱり掴まっちまったか。」

「あなたは‥‥あの時の黒ずくめの‥」

「お!覚えて下さってましたか」


 この軽い口調とこのやり取り。間違いなく、あの時髪を一房渡した黒づくめの男性です。でも、彼は‥‥カルロス様に雇われて私を殺そうとしていたところを私が倍の金額を出して雇った、はず。ここにこうしているということは、あの時から全部‥‥。


「ずっと、どうやって君をこの国に連れてこようかと考えてたんだ。」

「お、お待ちになって、ヴィルマー様。あなた、そんなずっと前から‥‥?どうして‥‥」

「ヴィル、だよ」

「ヴィル‥‥」

「一目ぼれだと、言わなかったかな?」

「本当ですの‥?」

「貴女とのデートが褒美というのは本当だと、あの時も言ったでしょう?」

「‥‥‥」

「分かっていたけれど、これまでの表現では伝わっていなかったようだ。」

「あ、の?」

「覚悟しておいて、リリー。」


 そんなに甘い顔で言うのは反則ではありませんこと?私、ヴィルマー様のお顔もお声も、身体も好きですのに。そんな方に一目ぼれと言われて、ときめかないなんて無理ですわ。


 先に馬車を下りたヴィルマー様が私に手を差し出します。いつものように手を添えて、馬車を下りる時、ヴィルマー様のお顔が、私と同じ高さになりますの。だから、耳元でこう言ったわ。


「私、ヴィルのことお慕いしておりますのよ?」


 分かってらっしゃらないのは、あなたもですわ?


 次の瞬間には横抱きにされて、一刻も早くといわんばかりに屋敷へ連れていかれました。

 


 穏やかで平和に平民として生きる覚悟をしていたはずですが、これも仕方がありません。穏やかな生活はまだ来そうにありませんが、結婚した夫とは互いに想い合っているらしいので、この方と一緒に頑張ろうと思います。



最後までお読みいただきありがとうございました。


ヴィルマーはリリシアの領地潜入中は前髪伸ばして目が見えないように隠していました、っていう設定。

リリシアの元婚約者が婚約破棄する流れに持って行ったところからヴィルマーが噛んでるので、リリシアちゃんガチ勢のストー○ーでした怖い。っていうのは裏話。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 重くはあるが絶対に裏切らない盤石さがそこにはある
[一言] そこまでやるとは 怖い
[気になる点] で、元の国は何がどうしてどうなったのでしょう。 [一言] この話、ぜひ連載で読んでみたいですね。無理ならせめて後日談を読みたいです。星5つ献上しますので、ご検討くださいませ。
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