牛娘になった
ここは壮大な草原。
そこにひとりの制服を着た少女がすやすやと寝ている。彼女の傍には紺色の学生バックが放り出されたかのように落ちている。
雲ひとつない青い空。そよ風が青々とした芝草を揺らし、彼女の肌を撫でる。
んっ…
彼女は目覚めて、ゆっくりと目を開けた。彼女は身体で気持ちのいいようなくすぐったいような芝独特の感触を感じとり「えっ!?」と鳩が豆鉄砲を喰らったようなそんな反応をしてガバッと上体を起こした。
青と緑の絵の具で描いたような、そう、まさに絵に描いたような草原の景色が彼女の目に入った。
「ここ、どこ…」と呆気にとられる。
なぜこんなアルプスのハイジの世界にてでくるような場所で自分が寝ていたのか彼女は全くわかっていなかった。
「えっ?えっ?えっ?」
状況が掴めない彼女はちょっとしたパニック状態だ。自分の存在を確認するかのように自身の顔、身体をぺたぺたと触りはじめた。
もにゅっ…。
上頭部の両側に両手をポフっと置きちょうど『頭を抱えるポーズ』になった瞬間、彼女のふたつの掌がそのもにゅっとした何かに触れたのだ。頭を手を置いてそんな感触を感じることなど本来あり得ないことだ。
「えっ?えっ?何これ?」
もにゅ。もにゅ。もにゅ。
頭についた得体の知れないふたつの物体を彼女は執拗に握る握る握る…。彼女はそのわけのわからなさにもにゅもにゅと握り続けながらあたふたと辺りを見渡す。
その流れで目線を下に落とす。
すると、また見慣れないものがあった。ゴボウぐらいの太さの、柔らかそうな紐状の、薄ピンク色の何かだ。その紐の先には意識が一瞬にして頭の物体からその見慣れない太い紐にシフトした。もにゅもにゅから手を離し次はその紐を引っ張ると…
ビン…!!!
手の動きに連動して全身に電流が走るような感覚がした。特に衝撃を受けたのが、尾骨だ。
「ひえっ!?」
なんとその紐は彼女の尾骨あたりに繋がっていた。
恐る恐る彼女はその尾骨あたりに手を伸ばす。そして、その付け根を手で直接確認する。
「う、嘘でしょ…?」
彼女の顔から血の気がひいた。恐ろしいことにその謎の紐は彼女の体から直に生えていたのだ…!尾骨から生えてる紐…、それは紛れもなく尻尾でしかなかつた。
これが尻尾だということは…、頭についてるのは…。嫌な予感が彼女の頭をよぎった。もう一回、頭のもにゅもにゅを触る。そして、本来の耳があるところに手を移動させた。
ない。
耳があるべき場所に、ない。
ということは彼女の嫌な予感は当たってしまった。人間の耳がなくなり、代わりに別の耳が生えている。このもにゅもにゅは耳だったのだ。
「ええええええええええ」
彼女の叫び声が壮大で静かな草原で響きわたりそこで夢から覚めた!
わけでもなく、ただただ心地の良いそよ風が吹くだけだった。