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出雲神話  作者: いつる
序章
1/5




かつて、この国の人々は神と共に在ったという。




原作:出雲神話(二〇一二)





 今よりむかし、ずっとむかし。その暮らしの(かたわ)らには当たり前の様に神様が居て、すべてのものに命が在った。


 この国には獣の姿を纏った憑神(つきがみ)と呼ばれる神たちが居たという。天界より授かった不思議な力を秘めた彼らは、いつしかまことの神となるべく、世に渦巻く災厄を払い、その力と品格を磨きながら人と暮らしていた。この憑神と契りを交わした人間は憑主(つきぬし)と呼ばれ、人々から敬われた。


 そんなある日、出雲地方の町外れ。ここに、高天原に仕えていた一人の神様が堕とされた。


 白銀にたなびく(たてがみ)に獅子の頭、山のように大きな身体は筋骨たくましく、その右胸に在るは業火の如くあかい紅烙印(べにらくいん)。神としての力を失っても尚、その咆哮は地を揺るがせ、ひとたび駆け出せば風のように速く、刀を引き抜けばそれは美しく舞うような太刀筋を描いたという。この猛る武神を従えたのは、武家の少女であった。


 二人は世にはびこるありとあらゆる災厄を払い続けた。ついには、町を襲う大蛇のもたらした天災までもを討ち取ると、その活躍はあまねく国中に知れ渡った。そしてこの国は災厄の脅威に苛まれることのない平和が訪れたという。


 しかし、彼らによってもたらされていた平和はそう長くは続かなかった。


 いつしか憑神の力は、人間同士の戦に用いられるようになっていった。人間を凌駕する圧倒的な力の前に、滅びた国も在った。


 やがて戦が激すると、戦場に駆り出される憑神たちの心は蝕まれていった。多くの人間を殺し、心を失った憑神は祟り神となった。あろうことか武器も持たない人々に襲い掛かかった祟り神たちは、災厄となっていった。


 憑神が憑神を狩る、地獄の様な光景が広がっていた。獅子と少女は戦を拒み続けたが、災厄となった憑神たちから国をを守るべく、その刀を手に取る他無かった。


 獅子の振るう刀はかつての戦友を、同胞を、そして愛弟子までをもその手に掛け続け、やがて心を蝕まれていった。獅子は身を削り、心を削り、その空よりも青かった瞳はくすむも尚、立ち向かい続けた。彼の心の闇がよりいっそう深みを増さんとしていた時、この狂乱の世に極彩色の光が差し込む。


 光は災厄となった憑神たちを包み込み、その闇を晴らし、彼らを深い眠りへといざなった。静かに、まるで夜明けの様に、混沌の時代は収束していった。


 光の正体は、獅子の憑主である少女だった。自ら人柱となり、一筋の希望の光となったのだ。


 光にまどろむ獅子はその光の向こうに消えていく彼女の姿と共に静かに人々の前から姿を消し、二度と姿を現わすことはなかったという。


  こうして多くの犠牲と悲しみを残し、長い戦がようやく終わった。凄惨なその戦いの記録は誰も書き残すことなく、やがて憑神という存在は時と共に人々の記憶から失われていった。


 しかし、かつてこの国には平和のために尽くし、最後まで人を愛し、その身を滅ぼさんと戦った憑主と憑神がいた。彼らの活躍は古来よりこの地方に伝わる神話になぞらえ、こう呼ばれたという。


 出雲神話と――




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