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婚約破棄? 本気ですの?

作者: 晶良 香奈

初めての投稿です。つたない文章ですが、よろしくお願いします。

 今日は学園最後の日。そう、卒業記念パーティなのです。

本来なら着飾った紳士淑女の卵たちの嬌声…もとい、晴れやかな会話や笑い声が響いている、はずなのですが。

この、お通夜のような雰囲気はいただけませんわね、ええ、本当に。

その原因の一端となっているわたくしが言えることではありませんが。

心ならずも、ですけれど。

その、もうひとつの原因が、目の前の一団にあるのです。

まったく、嫌になってしまいますわ。

あまりにも予想通りで。


「アリューゼ・フォン・バーデントラスト!今、この場で婚約を破棄する!」


あらあら、第一声まで予想したままとは。

何か、台本でもあるのでしょうか。

それはそれでひとつのやり方なのでしょうけれども。

思わずため息をついても許されますわよね。


「なんだ、その態度は!何とか言ったらどうだ!」


取り巻き連の癇にさわったようですわね。

それにしてもなんとまあ、品のない言葉遣いでしょう。

ここはケルストン国内での最高学府だと思うのですが。

いつの間に場末の酒場じみた…コホン、素行のよろしくない場所に変わったのでしょう。


「一国の王族とその近習がたが発するお言葉ではありませんわね」

「なっ…なんだと!」

色めき立つ一団に向かい、背筋を伸ばして対峙します。

「ケルストン王国第一王子、マクスウェル・ハイランド・ケルストン様」

表情筋を動かさず、一語一語を明瞭に発声して。

「今しがたのご発言の真意をお伺いしてもよろしいですかしら?」


「真意も何もない!婚約を破棄する、それだけだ!」


襟元を正しながら彼、マクスウェル様は声を荒げる。

王位継承権第一位、まさに王子様です。

それなりに教育はされていると思うのですが…今の発言を見る限り、怪しいものですわね。


「その婚約破棄の件ですけど、国王様からの許可はいただいておいでですの?」

「…っ、そ、それは」

「これは王族と我がバーデントラスト辺境伯家、双方の合意で結ばれた婚約ですのよ?解消もありうることとは思っておりましたが、国王様から何の通達もないとはおかしな話。

マクスウェル様、お一人の決断でなされましたの?」

「そ、そうとも!わ、私は王太子だ!その横に立つ伴侶を自分で選んで何がいけない!」


これはいけません。何をトチ狂ったのか、とんでもないことを言い出しましたわ。

もっともその原因は分かりやすいものですが。


「そうよ、マクスは次期国王なのよ!自分のやりたいことをやって何が悪いの!」

原因が口を挟んできましたわ。

シルヴィアラ・カルナ。一般庶民の娘ですが、今はランドール男爵家の養女という身分だったはず。

貴族社会のルールは真っ先に叩き込まれるのですが…この様子ではそれも期待できませんわね。


「要するに、許可を得ておられませんね、マクスウェル様は」

「……っ」

「それがどういうことか、理解もしていらっしゃらない、と」

「ちょっと!私を無視して何言ってるのよ!!」

「でも、ご意見を変えるつもりはない。そう受け取ってよろしいんですのね?」

「と、当然だ!」

「もう!!聞こえないの、あなた!!」

「お黙りなさい、シルヴィアラ・カルナ・ランドール」


キャンキャンほえるのはみっともなくてよ?


「男爵令嬢が上位爵位の話に割り込むなど、許されませんのよ。

それとも、ランドール家ではそのように教育されているのでしょうか」


そのような新しいルール、いつ出来たのでしょう。

視線とともに威圧を向けた先には固まった一団。

あらあら、面白い状況ですのね。


「そ、そんなことより、アリューゼ、貴様を断罪する…」

「呼捨てにされるいわれはありませんわ、マクスウェル様」


ちょっとどこまでアホの子に成り下がったのでしょう。

いくら恋に目がくらんだとはいえ、一国の王族が何をやっているのでしょうか。

礼儀をここまで振り落とすとはおつむの状態を疑いたくなります。

呆れかえった視線の先には、真っ赤になったマクスウェル様。

咳払いでごまかして態勢を取り直していますが、情けないこと。


「改めて告げる。アリューゼ・フォン・バーデントラストをこの場で断罪する!」


まだ続けるつもりなのですね、この茶番劇を。

それも、側近まで巻き込んで。

醒めた目で見るうちに、マクスウェル様の横に出てきたのは茶髪のイケメン。

彼はサイモン・デルラウト・ミュラス、宰相子息でしたっけ。

手に数枚の紙を持ち、唇をゆがめて…まあ、せっかくのお顔が悪人顔ですわよ。


「ここに、あなたがシルヴィに対して行った悪事があります。

まず第一に水の月13日。廊下にてシルヴィを突き飛ばし、けがを負わせた。

同じく水の月18日。魔術実践の教習中、シルヴィに向かって攻撃魔法を放った。

幸いにも私がかばってけが一つなかったがな。

さらに、木の月7日、シルヴィのノートがずたずたに切り裂かれていた。

11日にはダンス練習用のドレスや靴が焼かれていた!

17日は机の周りにあろうことか動物の死骸をまき散らして!!

どれも貴様のやったことだろう!!」

「そのほかいくつもやった嫌がらせをすべて調べてあるよ」


これは後ろの緑髪。財務大臣子息のエリオット・グラウ・トーランスですわね。

かわいらしい丸顔がもうはちきれんばかりに輝いてますが、何なんでしょう?


「こんなのはほんの一部でしかない。まったく、辺境伯令嬢ともあろう人が何をやっているのだか。恥を知れ、みっともない!!」


頭から湯気を出さんばかりに真っ赤な顔と髪の殿方はキースタル・ベルルシン・フォンタナズル。近衛師団団長子息でしたわね。


「極めつけは5日前、星の月20日だ。貴様、教習室の移動中にシルヴィを大階段から突き落として殺そうとしたな!俺が下にいたからよかったが、ひとつ間違えばシルヴィはどうなっていたか…腹黒女め!!」


これはもう駄目ですわね。ほんとのお馬鹿さんですわ。


「マクスウェル様、婚約の破棄については了承いたしましたわ。お好きにどうぞ」

「ふん!やっと認めたか。貴様のいやらしさには反吐が出るわ!」

「ですが、そのほかのことには異議を申し立てますわ。わたくし、やってもいないことをそのまま受けるわけにはいきませんの」

「何を言う!こちらにはシルヴィの証言があるのだ!貴様に反論などできるか!」

「できましてよ?」

「は?」

「なに?」

「うそを言ってもすぐにわかりますよ、みっともなくなるだけですが」

「潔く罪を認めるのだな、そのほうが引き際がいいぞ」


この方たち、こんなにアホ…こほん、話の通じない人だったでしょうか。

なんだか質の悪い呪いでもかけられているようですわね。

仕方ありません、目を覚まさせてあげましょうか。



「ネリー、例の物を」

「かしこまりました」

いつもそばに控えている侍女に指示を出します。用意していた甲斐がありましたわ!

廊下側の扉からワゴンを押してネリーが入場してきますわ。そこには…


「な、何だ、その、本の山は…?」


ウフフ、王子様の顔面が崩れていますわよ?痛快ですわね。


「これは日記…というよりも行動記録書ですわ」

「行動、記録、書?」

「マクスウェル・ハイランド・ケルストン様とわたくしアリューゼ・フォン・バーデントラストの婚約が公に成されたのは今から3年前、そして1年前にこの学園に入学して接点を持ち、将来を共にする伴侶として交流するようにと伝えられたのではありませんか?」

「ふん、確かにそういうことは聞いていた。それがどうした」

「では、それと同時に見極めが始まったこともご存じですわね?」

「見極めだと!?何を言い出すかと思えば馬鹿なことを。そんなことなどあるはずがない!」


あらあら、これはまたなんというお気楽な王子様ですこと。


「第一王子様と辺境伯令嬢の婚約、これほどの重大な出来事がなぜ突然成立したのか、お考えになったことありまして?」

「そんなの、そちらからのゴリ押しに決まっている!大方、身分を笠に着て押し付けてきただけだろう!その癖、俺に媚びもしないとは高慢ちきな女だ!」


この人の脳内はお花畑ですかしら。困ったものですわね。

話が進みませんから、無視しましょうか。


「婚約が成立したときに、お互いのところへ一人ずつ観察者が入りましたの。その意図は言うまでもなく、マクスウェル様とわたくしの適正確認ですわ」

「適正…?」

「国王と王妃、その適正を見極めるためですわ」

「さっきから何をごちゃごちゃと。言い逃れにしても下らん言い訳を繰り返すな!

さっさと罪を認めて出ていくんだな!」


いい加減イライラしてきましたわ。やっちゃいますわよ?


「やっていないことは認めませんわ。これが証拠ですのよ。ネリー、始めなさい」

「はい、姫様」


一礼して、本の山から1冊取り上げ、おもむろにページをめくるネリー。

もともと無表情が基本のネリーですけれども、何やら抑えきれない感情があるみたいですわね。怒り…ですかしら。


「まずは、水の月13日。シルヴィアラ・カルナ・ランドール男爵令嬢が姫様とすれ違う際に体勢を崩して姫様の足元に転がり込み、医務室へ運ばれている件ですが」

「そら見ろ、貴様が何かしたんだろうが!」

「その時、姫様と男爵令嬢の距離は2メルトル空いております。さらにあいだには私ネリーと護衛騎士が存在し、姫様とは触れ合うことすらできない状況でした」

「なっ…!」


「次、水の月18日。姫様は礼儀作法のイルーシャ教授と個人レッスンを行っており、学園には足を運んでおりません。レッスンは王宮の蔦薔薇の間において行われ一日中籠もられておいででした。したがって魔術実践のトラブルには関りがございません」

「な、バ、馬鹿なっ!」

「その女の痕跡が魔法陣から出てきたのに、そんなことがあるか!」

「それにつきましては、水の月5日、生徒の魔法適性を確認する魔力譲渡室に何者かが侵入いたしまして、姫様のファイヤーボールを納めていた器が持ち去られております。

これについては後日、構内掲示板で伝えられていたはずですが?」

「……っ!」

「ついでに申し上げますと、魔力譲渡室の入退室記録簿は現在学園長自ら調査を行っておいでになります。まもなく仔細が判明することを付け加えさせていただきます」


ネリーの言葉を聞いて、青ざめたのが約1名。あら、やっぱり。

それにしても、今日のネリーは容赦がないですわね。言葉のひとつひとつがまるでダガーみたいに鋭いですこと。


「続けます。木の月7日は王妃様との会食を兼ねたマナーチェック、11日は近隣地域の砦への激励、18日は南西地域の孤児院慰労へお出かけになっておられます。当然ながら、わたくしと護衛騎士、近衛騎士団から常時3名同行して御身の安全を図っています」

「そ、そんな……!」

「最後に、星の月20日。大階段での出来事とのことですが、これも姫様には無理でございます。

この日は隣国ヘッケルからおいでになった大使一行を歓迎するため、前日から王妃様と行動を共にしておいでです。王妃候補としてすべきことを真摯に学んでおいででした」


まあ、ネリーが褒めてくれるなんて、めったにないことですわ。うれしいです!


「確かマクスウェル様も出席予定でしたわね。でもお顔を拝見してませんわ。どこか具合でもよろしくなかったんですの?」

「……くっ、そ、その行動記録書など、嘘っぱちだ!証拠になどなるか!」

「これはネリーが毎日記録して、写しを2部作製したうえで王宮とわたくしの家へ送っておりますの。ここにあるものだけを書き換えても、ほかのものと突き合せればすぐに真偽がわかりますのよ」

「そのネリーはお前の侍女ではないか!お前の有利になることしか書かないに決まっているっ!」

「あら違いましてよ。ネリーは王室付きの者ですわ」

「な、に…?」

「先ほど申し上げた観察者。それがネリーですの」


本当にネリーは優秀ですわね。所作ひとつを見ても品があって、ほかの者の手本となりますもの。


「という事で、マクスウェル様」

「な、なんだ?」

「念のために再度申し上げます。婚約破棄の件、承りました。今後、一切、マクスウェル様とは関係ございませんのでよろしくですの」

「ふ、ふん!何を言うかと思えばそんなことか。ああ、貴様の顔なんぞ見たくもないわ!」

「それと、今のお話でわたくしが何もしていないという事も了承していただけたと解釈してもよろしいですわね?」

「う…むむっ」

「お返事は?」

「くっ…わ、わかった!」

「ご理解いただけたようで何よりですわ」


ふふっ、それだけは分かったみたいですわね。まだ知性は残されていたようで安心ですわ。


「では、最後に一つ。婚約破棄を受けまして、わたくしバーデントラスト辺境伯が一子アリューゼ・フォン・バーデントラストが宣告いたします。

ここに、ケルストン王国とバーデントラスト辺境伯は決別し、バーデントラスト辺境国と名乗らせていただきます」

「な、な、な…!」

「これ以降、両国の交友は一度白紙に戻して国交を断絶いたします。

同時に、ケルストン王国の防衛線も解除となりますので、皆様、これから頑張ってくださいませね?」

「「「「!?!?!?!?」」」」

あらまあ、会場にすごい衝撃が走りましたのね。

意味の分かっている方もいない方もいらっしゃるみたいですけど、大丈夫ですかしら。



「ま、待て、い、いや、お待ちくだされ、アリューゼ殿……!」

あら、国王様と王妃様。ちょっと息が上がっておいでのような。

随分と急がれたようですが、間に合わなかったという事で、お気の毒様です。


「父上っ…ぐがっ!?」

「この大バカ者っ!!」


あらぁ、国王様のストレートがきれいに王子様のあごへ入りましたわ。

かなり重かったんじゃないかしら。ふらついてましてよ、マクスウェル様。


「ち、父上…なに、を…」

「いつかは目が覚めるじゃろうと期待しておったが、無駄だったか。もういい。

黙っておれ」

ため息ひとつこぼして気分を切り替え、わたくしを見据える。それはまさに王の視線。国の命運をかけて事に当たらんとする最高権力者の覇気が輝いてますわ。

どう動かれますか?


「言い訳はすまい。此度は愚息が迷惑をかけたことを詫びよう」

そう言って深々と頭を下げられますか。さすがですのね。

「へ、陛下っ!」

「何をなさいますかっ、父上!」

「おやめくださいっ!!」


一瞬で会場は悲鳴と怒号の渦の中。まあ当たり前ですわね。


「こ、この腹黒女めっ!父上に頭を下げさせるとは何という…あがっ!?」

「お黙りなさい、このもの知らずは!」

「は?はは、うえ?」

「あなたのしたことがすべての原因なのです。これ以上口を出してはなりません!」


あの我慢強い王妃様が真っ青になって涙ぐんでいらっしゃる。あ、その扇子で打ち据えられたんですのね?確か、防御用として鉄芯が入っていると伺ったことが……え?今もギリギリと音がしている、ような、気が…


「この愚か者は再教育を施すゆえに、婚約の破棄は今しばらくの猶予をもらえぬだろうか?この通りだ」


この方は決して暗愚ではありません。むしろ賢王ですわね。

どうしてマクスウェル様みたいなのができたのでしょう?謎です。

ですが、ここは譲れませんわ。父からの許可も得ていますから。


「国王様の誠意は受け取りました。ですが、マクスウェル様がご自分の立場をもって宣言されましたことですもの、わたくしも相応の礼儀として宣告したことは撤回できませんわ」

「そこを何とか…!」

「婚約成立の際に申し上げましたわよね?」

「う…むう」

「今までの記録書もご覧になっているのであれば、正当な主張だと考えますけれど」

「そ…それは…」


「ひどいですっ、アリューゼ様の人でなし!!」

「「「な…っ!?」」」

「わ、私がマクスに愛されたからって、それをいじめの原因にするだけじゃなく、独立するなんて……人の心を持っていないんだわ!!」


この人、本当にわかっていませんのね、ここで声を上げる意味が。

一体何様と思っているのでしょうか。しかもなんと的外れなことを。

どこをどうすればこういう論法になるのでしょう??

これにはさすがの国王様も黙っていられなかったようで。


「娘、控えよ。そなたには口を出すことを許してはおらぬ。下がっておれ」

「あ、私、シルヴィ…ひっ」

「黙れといったのだ」


じろりと睨まれて身をすくませながらも再度口を開きかけたところを、マクスウェル様が慌てて自分の腕の中へと引き込み黙らせる。

そのほうがいいでしょうね。でも、やらかしたことは取り消せませんわよ?

それにしてもマクスウェル様も取り巻きの方たちにしてもこの反応とは…わたくしの宣告の意味、その裏の歴史を知らないという事なのでしょうか。

これはいけません。一言申さねば。


「国王様、マクスウェル様は国の成り立ちをご存じなのでしょうか?」

「む?それは一番最初に家庭教師が伝えておることだが…ま、まさか…?」


何やら顔色を変えて振り返る王様、その先のマクスウェル様は…不思議そうな、顔つきで。

あら、取り巻きの何人かが真っ青になりましたわ。まあ、普通ならそうなりますわね。変わらないマクスウェル様とシルヴィアラ様がおかしいんですもの。普段の授業態度がどのようなものか、はっきりとわかってしまいましたわ。


「マクスウェル様、王族と辺境伯は同格であること、ご存じではありませんの?」

「は?ど、同格?そんなこと、は…」

あら、やっと思い出したようですわね。お顔の色が悪いですわよ?

ですが、やっぱりこの方は無理でしたわ。


「どうして辺境伯が王族と同格なのよっ!馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!!」


シルヴィアラ様、その物言いは子供みたいでしてよ。もう少し気を付けませんとご自分の首を絞めることになりますけど…遅すぎますわね、この忠告は。


「…我が王国が建国した当時、周辺の国に比べて兵力が格段に劣っていた。そのことを憂いたバーデントラスト領主が、辺境伯として境界付近の防衛を担うことを約束してくれたからこそ、今日の繁栄に結び付いたというのに、何をしでかしてくれたのだっ!」

「え、え、だ、だって、辺境伯なら、王族より下、だと…」

「我が国の爵位に辺境伯は組み込まれておらん!表に立つことを嫌ったバーデントラスト殿の意向に沿って辺境伯とはしたが、王家と同等の格付けであり…しかも!しかもだ!!今回の婚姻を機として王国に統一するよう建国時から申し合わせておったと言うに……この、痴れ者どもがぁっっ!!」

あらあらまあまあ、国王様がついに切れましたわ。


ここに至って会場は大惨事ですわね。せっかくのパーティが台無しですわ。

マクスウェル様は国王様にぼこぼこにされてうずくまってますし、取り巻きの方たちもそれぞれの家の方に氷点下の視線をもらって固まってますわ。シルヴィアラ様だけがわたくしをにらんでいらっしゃいますけど、それはやめた方がよろしくてよ?

そんな中、マクスウェル様の背後に控えていた騎士がひとり、わたくしに近づいてきてますけど…あら、そうでしたわね。うっかりしてましたわ。


さっそく…え?シルヴィアラ様、何をなさるの?


「あっ、ゴードお願い、あの女をやっちゃって!引きずり倒して、あのすました顔を滅茶苦茶にしてやってよ!」


…この方、お花畑ではなくて現実を見ていらっしゃらない方だったのね。ここでそんなことが言えるのはある意味英雄でしてよ。

精悍な騎士がわたくしに近づき、そして…膝をつく。


「え…?」

「姫様、そろそろお役目を完了したく思いますが」

「そうですわね。バーデントラスト辺境伯改め辺境国黒騎士団副団長ゴード・イル・ハイラント。長きお役目ご苦労様。今この時をもって、黒騎士団への復帰を認めます」

「お褒めの言葉ありがたく。承りました」


そのまま深く一礼し、立ち上がる動作とともにケルストン王国の襟章、肩章、腰の剣を一挙動で外してその場に放棄。さらに、インベントリから取り出したハルバードを背中へ斜めに装備して、やっといつもの表情に戻りましたわ。


「あ~、この重さが懐かしいですよ、姫様。こうでなくっちゃ、黒騎士団とは言えませんって」

「あなたは現場第一ですものね。よく我慢できたと感心してますわ」

「それはないっす。お役目ですよ?殿様からの直々のご下命に逆らう黒騎士団員がどこにいるんですか」

「あら、それはお見それいたしましたわ」


「ゴード?黒騎士団…って、なんのこと?」


呆然といった感じですのね、シルヴィアラ様。ふらふらと近寄ってこようとしてますが。


「尻軽女が姫様に近づくんじゃねぇよ」


ペイッと振り払ってますわね。よほど我慢の限界にあったみたい。


「なっ!」

「お分かりになりませんの?ゴードはネリーと同じ立場でしたのよ」


ええ、3年間本当に大変でしたわね。あの戦闘命、魔獣滅すべしのゴードが演習も掃討作戦にも参加しなかったんですから、そのうっぷんが溜まりに溜まっていたんじゃないかしら。これからしばらく黒騎士団の訓練状況が心配だわ。


「姫様からお言葉を頂戴しましたので、これにて失礼。ちなみに今までの日付の行動はすべてケルストン王国とバーデントラスト辺境伯、ではなく辺境国へ報告済みですので。まあ、そこのあばずれとベタベタしていただけですな」

「あばずれですって!?」

「王子のみならずそこにいる子息すべてとベタベタするのはあばずれって言いませんかね?」

「……!!」

「その辺もすべて報告してますんで。ま、オレには関係ありませんが。さて姫様、戻りましょうや。オレたちの国に」

「そうね」


再度ぐるりと見まわせば、国王様と王妃様は肩を落として残念そう。お付きの方たちも慰めようがないみたいでおろおろしておいでだわ。マクスウェル様は腑抜けた感じで取り巻き達も似たり寄ったり。唯一元気なのはシルヴィアラ様ね。暴れすぎて騎士に取り押さえられているのは貴族子女としてどうなんでしょう。

まあ、わたくしには関係ありませんものね。


「それでは失礼させていただきますわね。皆様ごきげんよう」


ゴードを連れて会場を後にします。廊下へ出たところにネリーがいましたわ。


「お疲れ様でございました、姫様」

「ネリー、あなたも3年間ご苦労様。もう王宮に戻りなさいな。お役目は完了していますわ」

「いえ、実は、昨日のうちに職を離れる許可をいただいております。故に今はどこにも勤めてはいませんし、戻るところもございません」

「え?王宮をやめてしまったの?どうして?」

「このうえは姫様に雇っていただきたく、お待ちしておりました。叶わぬのであれば、このまま野たれ死ぬ覚悟にございます」

「えええ…?それって…」


あきれて顔を見直してしまいましたわ。

いつものとおり無表情ではありますが、どこかやり切ったような清々しさを感じますわね。

後ろについていたゴードが思わず噴き出しています。


「姫様の負けですな、これは。なかなか思い切ったことをするもんです」

「…そうね、思いもしなかったわ。相変わらず突き抜けた方法をとりますわね、ネリーは。わかりましたわ。今この時からわたくし付きの侍女としましょう。よろしいですわね」

「姫様の御意のままに。ネリー・バーガンディア、心からお仕えさせていただきます」

きっちりと礼を返し、ゴードと共にわたくしの後ろに付き従う。まったく優秀ですこと。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] えっと、王子たちの後日譚は?
[良い点] 誤字脱字が目に付かず話はよくまとまっている [気になる点] 本作に限定すれば目新しさがなく、無難にまとまりすぎかも [一言] ほかの方の作品を見ていただくとお分かりかもですが、多くの作品に…
2020/06/21 02:21 退会済み
管理
[一言] 奇麗に終わっていますが、その後が語られていないのがちょっと寂しいです。 まぁ、ざまぁ少々とタグにもあったので、致し方なし、なのですが、愚かな選択が愚かな結果をもたらす、そこまで読まないと収ま…
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