仮面を被りあった男女の戦い
ハッピーエンドで終わるはず。多分、きっと、おそらく、maybe…
人生を程よく悠悠自適に過ごすためには、限りなく普通に近い生活を送ることが重要である。昔いたイカロスのおじさんが普通以上を求めて焦げ落ちてしまったのが最たるソースであるからだ。なので私は普通な生活を送るためには適度に良い塩梅で努力するであろう…
by丸善 翔
「なに朝からキモいこと言ってるの、キモいんだけど」
「二回もキモい言わなくていいの、最愛の妹の言葉でも兄は傷つくぞ。大体お兄ちゃんのエッセイはこれから先咲ちゃんが生きていく上で役立つことだらけの啓発本みたいなもんだし咲ちゃんが路頭に迷わないように」
「あ〜、はいはい。朝からそんな高カロリーな演説はお兄様の有難いお言葉でも勘弁です」
「咲ちゃんひどい…憂鬱な朝を吹っ飛ばす気付の一杯になればと思ったのに…じゃあ気分が上がるお兄ちゃんの昨日の出来事でも」
「いやお兄ちゃん昨日ずっと日曜日なのに家にいたじゃん、日曜日なのに。これ以上乙女の貴重な時間を浪費させたら骨削るよ」
「えっどうやって」
そんな妹との微笑ましい談笑を楽しみながら妹特製の朝ごはんに手をつける。全品インスタントながら妹の手にかかればどれもが一流の品に変わりどれも美味だ。妹による付加価値によって高みまでのぼらせてくれたインスタント食品さんは感謝すべきだろう。この付加価値を例えるのであれば、おっさんが握るおにぎりとアイドルが握るおにぎりでは後者が勝る法則のようなものだ。もちろん俺はアイドルよりも妹が握ったおにぎりをダッシュで買いに行く
「ねぇお兄ちゃん、今日何時に帰ってこれるの?」
「ん、大学行ってバイトもあるから多分9時過ぎかな」
「あっなら丁度いいから帰りにアイス買ってきてね」
「いやそれ俺がどういってもその文ぶつけてきたよね、回避不可能だよね」
「うふふ、朝から妹の機嫌を損ねたお兄ちゃんに挽回のチャンスを与えてるんだよ〜逆に慈悲深い妹に感謝してほしいぐらいだよ!」
「逃げ道塞がれてトドメ刺されて感謝しろなんて初めての体験だわ…まぁ妹に振り回されるのは兄の特権だしいいか」
やったー!と喜んでいる可愛い妹を目に焼き付けながら食べ終わった食器を片付け、朝の支度をする
〝……もう死にたい…〝
(あれから2年か…もう大丈夫そうだな)
両親と離別してからもう2年経つ。最初は妹との二人暮しには不安しかなかったが案外なんとかなっている。お金はアルバイトや奨学金などで事足りているし、妹の精神状態もあの親から離れたこともあり徐々にではあるが明るさを取り戻している。
(やっぱり普通が一番だな…)
「私もバイトしたいな〜」
センチメンタルな気分で考えにふけっていると妹は制服を着ながら言ってくる
「いやまず咲ちゃん中学生だし…お小遣い足りないなら渡すぞ」
「そういうことじゃくてさ、まぁお小遣いはたくさんあると嬉しいけど。私も稼げばお兄ちゃんにもゆとりができるかなって」
「そんな気をつかわんでもいいぞ、お兄ちゃんの青春はもう屍状態だし。教会にいっても解除されんし」
「それは確定事項だからいいんだけどさ…」
(えっ、ちょっと油断してたら刺しにきたんだけど)
「さすがに忙しすぎっていうか…バイトばっかで友達もいないだろうし…」
「大丈夫、ノート見せてくれる友達はいるから安心して」
「そんな仕様な友達しかいないなんて…」
そう言いながら妹は明らかに可哀想な目を向けてくる
(うっ…マゾ寄りな俺でもこれは効く…)
「それに暇な時間は女の子達に囲まれるゲームやってるし、妹ながらそんなゲームしている兄を見ていると泣けてくるよ…」
「待ってくれ、ギャルゲーのことを言ってるならそれは違うぞ。知ってるか分からんがギャルゲーはカテゴリーの上ではアドベンチャーゲーム寄りなんだぞ。つまりRPGをやってるのとそう変わらんのだよ。お兄ちゃんはちょっとだけ女の子が多めのドラ○エをしてるんだよ。そもそも」
「お兄ちゃんが顔はいいのにもてない理由がよーく分かったよ」
「はいはい、どうせ私はモテないギャルゲーの親友ポジションですよ」
顔が良いとのリップサービスを受け取りつつ、戦略的撤退のため玄関に向かう
(第一イケメンなわけがないんだよなぁ…顔が良ければ道行く美少女からlineを聞かれたり、隣の家に可愛い幼馴染いて、毎朝起こしにくるような運命を作り出せるはずだしな…)
(まぁモテたとしても、今の俺に彼女を作る余裕はないが)
「ちょっとお兄ちゃん!出掛けるなら途中まで一緒に行こうよ!」
ドタバタと支度をしている妹から大声で言ってくる
(冷たい罵詈雑言をぶち込んでくるも、やっぱり咲ちゃんは甘えん坊で可愛い。一生嫁に行かさん)
「お兄ちゃん一人じゃ横断歩道も渡れないんだから、だめだよ勝手に外でたら」
「幼稚園児扱いはやめてね」
…
「んじゃ俺は駅あっちだからここで」
「大丈夫?怖い人にあったら大声で叫ぶんだよ?」
「いや俺女児じゃないから…まぁ俺も適度に頑張るからそっちも頑張れ」
「うん!帰りにアイスとケーキとミルクティー忘れないでね!それじゃ!」
「勢いがあればノルマが増えてることに気づかないとでも思ったのかしら…」
もちろん妹限定の奴隷体質なので買ってやるが。妹が幸せであれば、私はそれで…
(まぁ良い日常っぽいからいいか)
青空の中、妹への愛を滾らせながら駅に向かう。きっと今日も普通に勉強して普通にバイトして、そして妹のいる家に帰るのであろう。この日常が今日も明日も続いていくのだろう…
あの娘に出会うまでは