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第七話 【遠退く意識】

ほたるもセバスチャンも、実はちょっと阿呆な子です。

 彼のそこから顔を上げる。恥ずかしさと申し訳なさで顔に火が付いたように熱い。


「ご、ごめんなさい! 決して、わざとじゃ……」


「………………ッ」


(あれ?)


 セバスチャンは鼻から下を手で覆い、恥ずかしそうに眉を寄せていた。真っ赤な顔は完全に横に背け、わたしの方など見ていない。


「せ……セバスさん?」

「す、すみません」


 彼は照れていた。性欲など捨て置いたと言いながら、流石にこれには堪えたらしい。耳まで真っ赤にした姿は、一言で言えば可愛らしかった。


「あの……」

「す、すみませんもう大丈夫です…………ささ、体を洗ってしまいましょう」


 湯船から出たセバスチャンは、わたしに背を向けて湯船の淵に座る。


「ほたるさんは椅子にどうぞ」


 言われるがまま、わたしは風呂椅子に座りメイクを落とし始めた。

 大丈夫と言われた以上深く追求することが躊躇われるが、本当に大丈夫なのだろうか?男性は()()()()()()()に慣れているってこと?後ろを向いてセバスチャンの顔色を伺いたかったが、生憎そんな勇気は持ち合わせていない。


「もうひとつ椅子を買わなければなりませんね」


 そう言ったセバスチャンの声はいつも通り、落ち着いたものだった。


(まあ、いっか……いいのかなあ……?)


 多少の疑念を残しつつ、わたしはクレンジングミルクを流した。













 なんと言うかセバスチャンの気配りは素晴らしかった。誰かと一緒に入浴したことのある人なら分かると思うが、なかなかタイミング──というか、息が合わないものだ。こちらが体を洗い、シャワーで流そうとすると、あちらはシャンプーを流そうとする。お互いに譲り合いながらだと、どちらかが長時間湯船に浸かっていなければならなかったりと……色々と問題が発生するのだ。


 しかし、だ。


 セバスチャンはその配慮が絶妙であった。どちらも上手い具合に体を洗い、頭を洗い、シャワーを使い、そして──


「汗が流れると、気持ちいいですね」


──湯船に並んで浸かってた。


 三角座りで。


 対面ではない、横並びだ。肩と肩が触れ合いそうな距離……というか、もう触れている。


「ほたるさんは、気持ち良かったですか?」


 こてん、と首を傾げわたしを見るセバスチャン。上気した顔にこの台詞、とてもいらやしく聞こえるのは、わたしの心が汚れているからなのだろう。


「……さっぱりはしました」

「さっぱり『は』?」

「ううう……こっち見ないで下さいってば……」

「どうして?」

「近い近い近い! よ……寄らないで下さいっ……!」


 この人は何を考えているのだろう。入浴中だ、わたしたちは何も身に付けていない。狭い湯船の中、体は密着している。にも関わらずセバスチャンは横向きだった体をこちらに向け、わたしとの距離を更に詰めてくる。


 セバスチャンの右手が、浴室の壁に届く。壁ドンというやつである。体に張り付いた黒髪、暑い胸板、綺麗な顔が今、わたしの視界に入るもの全てだ。


 緊張──羞恥──そして恐怖。わたしは自分の膝をいっそう強く引き寄せ、身を縮込ませる。胸は見えていないはずだ。


「……ほたるさん?」


 ひょっとして、この人はわたしを試しているのか……?


「なっ……な、んですか……」

「お顔が、赤いです。大丈夫ですか?」

「だ……だ……大丈夫じゃないッ!」


 セバスチャンの肩を掴み、押し退ける。勢いよく立ち上がったわたしは、湯船の外に出た。


「あなたみたいな綺麗な人に……は、裸で……迫られて、大丈夫なわけがないです!」


 足がガクガクしている。なんだか頭もふわふわするが、折り戸に手を掛けて、わたしは、


(あ────れ──?)


「ほたるさん!」


 ああ、やってしまった。暑いお湯から一気に立ち上がったら、そりゃ立ち眩みしちゃうよね。何やってんだ、わたしは。


 ぐわん、ぐわん、と目が回り、次の瞬間──わたしの視界は真っ暗になった。



セバスチャンは正体を偽るためにカラーコンタクトを入れていますが、実際ちょっと視力が悪いんですね。度ありのカラコンです。

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