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【完結済】26歳OL、玄関先でイケメン執事を拾う  作者: こうしき
第一部 owner&butler

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第十五話 【不鮮明で不純な心】

あまやどり先生、ご協力ありがとうございました!

 それにしても、この人は本当に何者なんだろうか。掃除機をかけている姿をスマートフォン越しに覗き見る。冷静になって考えてみれば怪しいところしかないのだ。


 冷静になって──────んんん……?


 今になってよくよく考えたら、わたし本当に馬鹿なんじゃないの?


 一人暮らしの女が、見ず知らずの男をいきなり部屋に上げて同棲を始めた。おまけにお風呂も一緒に入って……裸も見られて……わたしも見ちゃったんだけど……同じベッドで寝て。


 やだ、顔が熱い。それに体がムズっとする。昨日のセバスチャンのあの裸体──思い出しただけで────わあああ……駄目だ。


 多分わたしが男でセバスチャンの立場だったら、絶対に()()()()()()自信がある。本当に女でよかった。



(どんな自信よ……)



 先程も抱いた彼への恐怖心は、どこへやら。本当に欲の前では人間って馬鹿で愚かだ。



 落ち着くために、ベッドの上で「小説家になろう」のページを開く。地雷を踏まぬよう、気を付けながらブックマークページを漁る。



 あまやどり先生著“魔女たちの夜宴”



 この作品を読みながらセバスチャンの掃除が終わるのを待つとしよう。この作品なら()()()。展開に引き込まれて夢中になって読み進めるも、掃除機をかけるセバスチャンの背中が気になって仕方がない。


(セバスさん……いつまでうちにいてくれるんだろう)


 執事になるといっても、まさかずっと一緒に住むつもりでもないだろうに。彼がどういうつもりでいるのか気になるも、それを知るのがなんとなく嫌だった。


(どうして、なのかな……?)


 自問自答するも明確な答えには辿りつけなかった。



──ブオオオオオォー。


 

 当然の異音にわたしが顔を上げると、目の前にセバスチャンの腕があった。掃除機のスイッチを止め、ベッドの下を覗こうと屈み込んでいる。


「だ……だめぇッ!」

「何事ですか?」

「ベッドの下はだめですっ!」

「……思春期の男子高校生か何かですか?」


 セバスチャンの言いたいことは理解できる。そういった類いのものではないが、見られると困るものが確かにそこには存在するのだ。


「見ちゃだめです!」

「しかし……掃除機が何か吸い込みかけたみたいで」

「わたしが見ます!」


 ベッドから降り、膝を折ってその下を覗き込む。掃除機よ、一体何を吸い込んだというのだ。


「あ!」


 ふわふわで、空色のこれは──


「出でませいっ!」

「出でませい?」

「すみません、読んでいる人にしかわからないと思います」

「読んでいる人?」


 こてん、とセバスチャンが首を傾げたので、わたしは手にしたふわふわのそれを、彼に向かって突き出した。


「チャーリー!」

「チャーリー……?」

「はい! チャーリーです!」


 空色でふわふわなカエルのぬいぐるみだ。ぽけーっとした表情に、白いお腹。それに長い手足。わたしの身長の半分程度の大きさの、細身のぬいぐるみだ。


「やっぱりここにいたんだあっ!」


 ぎゅうっと抱きしめようとしたが、なんだか埃っぽい。ベッドの下に落ちていたから仕方がないんだろうけど。


「えっと……ほたるさん、チャーリーさんとはどういうご関係で……?」

「チャーリーはわたしが寝る時に、ぎゅうーっと抱きしめて寝る関係です」

「……」

「……セバスさん?」


 セバスチャンは額に手をあてて項垂れてしまった。溜め息までついている。何故?


「毎日、ぎゅうーっと抱きしめて寝てらしたのですか?」

「はい。時々ベッドの下に落ちて埃にまみれるので、そういう時は洗ってあげるんですけど」

「そういうことか……」

「何か言いました?」

「ぃ、ぃぇ……」


 なんだろう。



 あれ……。



 まさか……。



「あの、セバスさん」

「何でしょう」

「わたし、ひょっとして……」

「……」

「セバスさんに、ぎゅーしてました……?」

「ゲフンゲフン!」

「う、嘘でしょ……」


 なんとわざとらしい咳なんだ。これは絶対にイエス──肯定の意味なんだろう。


「待って、わたし……」


 思い出さなくてもよかったことを思い出し、カッと顔が熱くなる。今朝目覚めた時、わたしは全裸だった。ということは──


「──わたし、素っ裸でセバスさんに抱きついていたんですか?」


 頬と耳を真っ赤に染め上げたセバスチャンは、立ち上がり掃除機のスイッチを入れた。そのままスススッとわたしから放れていく。


(ああ、やっぱりそういうこと……)


 場の空気がなんとも言えないものになってしまったが、自爆なのでどうしようもない。両頬に手を添えるまでもなく、わたしの顔は先程よりも熱くなっていた。


「あ……」


 そういえばわたしたち、今から一緒に買い物に行くんだった……。


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