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【完結済】26歳OL、玄関先でイケメン執事を拾う  作者: こうしき
第一部 owner&butler

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第十四話 【勘違い】

 タッタッタ──


──だん。


 わたしの目の前でぴたりと足を止めたセバスチャン。こんなにも距離が近いのに、まだ詰め寄ってくる。否応なしにわたしの背中は壁際に追い詰められた。


「……セバスさん?」


「恋人、なんですか?」


「……え?」


桃哉(とうや)、というのは……ほたるさんの恋人なんですか?」



──どうして。



 セバスチャンの必死な顔がわたしの眼前に迫る。両手で肩を掴まれ、とうとう背中は壁にぶつかってしまった。


「セバス、さん」

「……お願いです、答えて下さい」

「セバスさん!」


 肩が痛い。それに怖い──セバスチャンが怖い。思い出してしまう、昨夜ベッドに押し倒され、手と口を塞がれたあの時のことを。


 何故セバスチャンがこんなにも必死なのか、わたしにはわからなかった。わたしに彼氏がいると、何かしら不都合があるのだろうか。



──ひょっとして……。でも、そんなまさか。



「桃哉は、彼氏なんかじゃないです。ただの幼馴染です」

 

 言った刹那、安堵するセバスチャンの顔。


「本当に、本当ですか?」

「嘘なんてつきません。というか、あの、セバスさん」

「はい?」

「痛いです……それに、怖いです……」


 わたしの両肩はセバスチャンに掴まれたままだ。それに背後は壁──身動きが全く取れない状態なのだ。


「も、申し訳ありません!」


 手を離し後退するセバスチャンの顔は青い。とうとうわたしと反対側の壁に背がぶつかってしまった。

 

「申し訳ありません……その……恋人のいる女性に……私は……」

「だから……そんなのじゃないです」

「嘘じゃないですよね?」


 本当に、何故セバスチャンはここまで必死なのか。

 ……まあ確かに、だ。わたしに彼氏がいるのであれば、セバスチャンの昨日からの行動は完全にアウトだろう。きっとそれを気にしてのことなのだろうな。

 というか、流石のわたしも彼氏がいれば、セバスチャンを家に上げることなんてしなかったからね。


「仮に、その桃哉さんが恋人だったらとんでもないことですよ。お風呂も一緒に入ってしまいましたし、同じ布団で一夜も共にしました。それに、おっぱ……失礼しました……も、見てしまったわけですし」


 セバスチャンが言葉を途中で止めたのは、わたしが睨みを利かせたからだ。性欲は捨て置いたとか言いながら、おっぱいなんて言おうとするんじゃないよ! と突っ込みたくて堪らない。


「はあ……とにかく、です。あいつは本当にそういうのじゃないんです。親が不動産屋だから将来はそれを継げば安泰だって言うような、ちゃらんぽらんな奴ですし」


「そう、ですか……」


 本当にあいつはちゃらんぽらんだ。一応県外の大学は出て、親の手伝いはしている。けれどあいつの性格というか──何というか……は、問題があるのだ。


「ちょっと顔が良いからって調子に乗るような奴ですよ。そんな男──」


「好きなんですか?」


「はあ?!」


 思わずすっとんきょうな声が出てしまった。何を馬鹿なことを言っているんだ、とセバスチャンの顔を見るも、その表情はいたって真剣。本当にこの人は何を考えているのかわからない。


「どうしてそんな答えが出てくるんです?」

「だってほたるさん、楽しそうでしたよ──桃哉さんの話をしている時」

「それは、」


 言葉に詰まる。確かに楽しかった頃の記憶はあった。密な関係だった時期もあった。でも、今のあいつは、()()()()じゃない。わたしたちはただの幼馴染に戻ったんだ。


「そんなことよりセバスさん」

「はい?」


 話を無理矢理反らされて、セバスチャンは不満げだが、しかしそこは執事と言うべきか、その不満を口から漏らすことはなかった。


「今日はお休みなんですし、わたし、お買い物に行きたいのですが」

「でしたら、私が」

「部屋の掃除も済ませて、」

「ですから、私が」


 胸に手をあてて頭を下げる、燕尾服姿の長髪執事。


「ほたるさんはゆっくりお休みになっていて下さい。掃除は今から私が済ませます。そうですね、買い物は一緒に行きますか?」

「そうですね! そうしましょう!」


 パジャマ姿のままのわたしは、なんだか嬉しくなって笑顔を浮かべてしまう。それを見てセバスチャンも、にっこりと微笑んだ。




──あれ、なんでわたし。




 なんでわたし、こんなにも嬉しいのだろう。


 セバスチャンと二人で買い物に行くことが、こんなにも嬉しく思えるのは、どうしてなんだろう?



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