第十一話 【side:she→side:he】
年内最後の更新です。年明けからはのんびり更新になりますが、来年もよろしくお願い致します。
色々とありすぎたせいか、非常に眠い。
眠い。
「洗濯物は外に干しましたが、よかったでしょうか?」
「ふぇ……せんたく、もの……うん、そとでいいです……」
「……ほたるさん?」
ああ、何故私は壁側にいってしまったんだろう。体の左側を下にして寝たいのにこのまま左を向いてしまったら最後、狭いベッドの上でわたしの体はセバスチャンに密着してしまう。
落ち着かない、落ち着かないけど……駄目だ、ね……む……ぃ。
「……ほたるさん?」
「ス──」
「えぇっ……!? 寝るの、早っ……」
*
(はああああああああ…………)
なんだこれは、拷問か?
俺の背中には今、寝返りを打ってもぞもぞと動き、何故か身を寄せてきた彼女の体が──というか、はっきり言うとおっぱいが押しあてられている。
温かくて柔らかくて、非常に心地よい……じゃなくて!
まさかこんなにも早く眠りに落ちるとは思っていなくて、俺は彼女の方を向いていた。しかし彼女は眠りに落ちた途端、体を回転させてこちら側を向いたのだ。焦って背を向けたものの──
──どうしよう、この状況……。
当初の目的であった執事になると言って待ち伏せ、家に入り込むことには成功した。それだけでも良しとしたいが、明確な目的があることを忘れてはいけない。
「ん……ッ……ぅ」
(ひゃああああああああ!)
何故? 何故なんだ? ほたるさん、何故俺の体に腕を回す!?
「ほ……ほたる、さん?」
「ス──……ス──」
ですよね、寝てますよね!
完全に抱き付かれているんだが、どうしたらいいだろう……って! 手が、手が……お願いですから、臍より下に手を伸ばさないで下さい!
「ぅ……くそぅ……!」
こんなことで挫けてはいられない。彼女に恩を返す──その時まで俺は……俺は……。
「俺は我慢出来るんだろうか……?」
ひとまず、「セバスチャン」なんていう偽名にツッコミが入らなくてよかった。疑われてはいるだろうが、まあそこは良しとしよう。しかし女性の部屋のトイレをいきなり使うのは不味かったかな、と少し反省はしている。あの時のほたるさん、少し様子がおかしかったし。
しかしまさか……風呂に一緒に入ることになろうとは。いや、言い出したのは俺なんだけど。強情な彼女に一緒に入ろう、というと流石に拒否をして先に入ってくれるだろうと考えてのことだったのだが。
まさか顔を真っ赤にして、黙って頷くとは思いもしなかった。ここだけの話、あれは本当に可愛かった。
それにしても、本当に綺麗なおっぱいだった。思わず口に出してしまうほどに、滑らかな曲線美。見ているだけでやわやわとした感触が手に伝わってくるようだった。一旦触れてしまったが最後、止まれなくなる自信がある。今背中に当たってるんだけどな。
とんだ辱しめも受けたが、当然の報いだったのだ、と無理矢理自分を納得させる。
倒れた時にはどうしようかとかなり焦った。洗面台にスキンケア用品が一式、丁寧に揃えてあったので助かった。若い女性の柔肌だ、俺のせいで手入れを怠ったとあっては執事の名折れ。
風邪を引かせてはならないと頑張った結果、なんとか髪も乾かしきることが出来た。しかし……意識のない人間の髪を乾かすのが、あれほど大変だとは。
寝起きのアレも焦ったな。一瞬誘われてるのかと思ったが、寝惚けていただけだったなんて。べ、別に落胆しているわけではない。大ごとにならなくてよかったと安心しているだけ、だ。
「っ……ぃ…………」
(なんだ?)
「ぁ……っぃ……」
俺の背から腰、臍にかけて回されていた彼女の腕がするりとほどかれる。起き上がる気配の後、ごそごそと衣服の擦れるの音がし、ややあって再び横たわる気配。
「ん…………」
「ほたる、さん? 起きられたのですか?」
「…………」
返答はない。寝惚けていただけなのだろうか?
仕方がないので俺は体を180度回転させ、彼女の方を向いた。
向くんじゃなかった。
「なっ…………ぁ……」
一糸纏わぬ姿の彼女が、そこいた。「ぁっぃ」と聞こえた気がしたが、まさか──まさか服を脱いでいた音だったなんて。いくら冷房を入れているとはいえ、そりゃあこの狭さのベッドで俺に抱きついていれば、暑いに決まっている。
「う…………」
先程脳裏に浮かんでいた綺麗なおっぱいが、目と鼻の先にある。
「くぅ…………」
少し顔を近づけて舌を伸ばせば届く距離だ。しかし何度も言うが……そんなことをしてしまったが最後、俺は絶対に引き返せない。今更だが、性欲なんて捨て置いたという嘘なんてつくんじゃなかった。せめて「我慢します」と言った方が良かっただろう……か?
いやいや、良くないわ! 何を考えている。この状況だ、何も考えられない。冷静でいられるわけがない。
「んー……」
(ひゃああああああああ!)
細い腕が伸びてくる。右腕はするりと俺の腰を這い、背に回された。折り畳まれた左腕は、枕と敷布団の隙間を縫うように、俺の首から背へと回された。
「ちょっと、待っ……!」
「ス────……」
足を絡ませる。絡ませるというよりも、絡まれる。俺の両足の間に、彼女の右足がぬっ、と侵入する。俺の触れて欲しくないところに、彼女の太股が──触れた。
「っ…………ん……」
びくり、と跳ね上がる肩。それと同時に体が熱く火照る。
「ほ、ほたるさん?」
こんなことで起きてくれるわけがないと思いながらも、彼女の名を呼ぶ。というか、今起きられたら不味いのではないだろうか。全裸で俺に抱きつているこの状況は、どう考えても不味い。
「えっ……と……」
ぎゅうっ、と体を押しあてられ、これでもかというほど抱き締められる。ひょっとしたら彼女は誰かと勘違いしているの……か?
(彼氏──かなあ)
そう考え始めると、体の熱がすっ、と──冷めるはずがなかった。熱いままだ。彼女の太股は容赦なく俺を刺激し続けているし、衣服を纏っていない生のおっぱいも押し当てられているままなんだぞ?
限界が近い。
落ち着くためにどうすればいいのか、思考を巡らせる。とりあえず、背に回されている彼女の右腕を無理矢理ほどく。続けて左腕。
「ふぅ……」
思っていたよりも簡単に、彼女の腕はほどけた。一呼吸ついて肩を押しやり、仰向けに寝かせてやる。
「ん──ッ……ス──」
しかしよく起きないな、この人。心地良さそうに眠るその顔と体をしっかりと目に焼き付け、隣に横たわる。一枚しかない夏掛けを二人で被り、彼女に背を向け目を閉じた。
これだけ体が火照った状態で素直に眠ることは出来ない。だからと言って、この場でどうこう──できるわけもない。
俺は己を落ち着かせるため、頭の中で素数を数えながら眠りについた。なんと悲しいことか。
翌朝、この寝不足の顔を彼女に指摘されることになるのだが、今はそんなこと知るよしもないのだ。
セバスチャンの一人称は俺です……




