0話 ―誰も知らない物語
「ふぅ.....ここが拠点か?心元無いな。」
「あぁ、当たり前だろう。俺達死刑囚にはこんぐらいのしょぼい拠点しかもらえないさ」
2041年、10月14日。人類は北極に巨大な穴が開けられている事を感知した。
しかもその巨大な穴から謎の物体や物質が放出されているらしい。
その調査をするために、死刑囚6人と研究者2人で組まれた、D-314軍隊だ。
万が一があった場合でも損害が出ないようにするために。
「で、大層な研究者様はあっちか」
「そんなに悪態をついても仕方がないだろう?そもそも俺達は死刑される身。ちょっと猶予を与えられて清々しい位だ」
「まぁなんとも。少しくらい神秘に触れたってくらいだがな」
現在の時刻は午後6時。移動により死刑囚、研究者共に疲弊感が漂い、みっともない姿だ。
「午後6:00から午後8:45まで休憩、食事後、午後10:00から午前6:00にかけて研究レポートを取ること。だってよ」
「やっと休憩か。ちゃんと荷物とか管理しとけよ」
「わかってるっての」
死刑囚達の荷物には研究者の道具も入っている。いや、入れられた。
中身は、双眼鏡、PC、AIリプライ、だ。
何しろ、AIリプライは国単位で動く程の貴重品であり、選ばれた研究者がきちんと持っていなきゃいけない物なのだが、研究者は賢いのが馬鹿なのか叱り、死刑囚に持たせてしまったらしい。
また、死刑囚達はナイフと食料を常備、戦闘員にのみ銃と防弾服、手榴弾が与えられた。
食事と休憩を行い、午後10:00。研究開始。
「おい死刑囚共、足は引っ張るんじゃねーぞ」
「だまっとけ研究者、失敗はすんじゃねーぞ」
どちらにしろ、きちんと研究レポートを取り、調査を終わらせたいらしい。
午後12:00、巨大な穴に異変が起きた。
「おい、あっちの方にいる、角と翼が生えてる奴はなんだ?」
「報告されていた謎の物体だろう、生物だったのか」
―謎の生物X 命名:オーガ 身長は約3m 鬼に似た形をしており、角と翼があり、爪は長い。牙が生えており、足は鳥によりに幹を掴めるような形をしている。
「研究者、目線は外すなよ。周囲の警戒はきちんとするが相手から行動を起こされた場合逃げるしかない」
「当たり前だ」
「おい、あいつこっちの存在に気づいてないか?いや寧ろこちらに近づいて来ている....」
「........死刑囚、突撃して来い」
研究者は国から選ばれる選りすぐりだ。一人でも欠けると損害が出る。故に死刑囚に殿を務めてもらうしかないのだ。
死刑囚は戦闘、命令、色々な部類が揃っている。だから死刑囚という立場もあり何もされていなくても突撃を命令したのだろう。
「私たちは撤退する」
死刑囚の舌打ちが響く。
既に研究者は舌打ちの音が届かない場所まで行っている。
「なぁ死刑囚番号1745、俺が一人であいつに突撃してくる。俺に孫に"アレ"、頼んだぞ」
「あぁ。死刑囚番号8243。同僚として楽しかったぞ....」
死刑囚番号8243は走り出した。すかさず死刑囚番号1745は他地点にいる4人に無線。
『これから研究者共の殿をする!後方第四地点でもしもの場合の為待機する事!また各々勝手な行動をしない事!!』
死刑囚番号8243は謎の生物に対して攻撃を開始。
まずナイフを手に取り、相手の腕に向かって突き刺した。だが、爪により跳ね返されたのか、ナイフは地面に落ちた。すかさず相手から距離を取り、銃を手に取り脳に向かって撃った。....しかし並外れた防御力により「押し返された」
「クソッ、こうなりゃ最終兵器だ」
手榴弾を手に取り、相手に一気に間合いを詰めて.......
「神様よ、贖罪はこれで良いのか?」
「自爆」した。
謎の生物にとっても生命の危機を感じたのだろう。
謎の生物は、
「人類の核兵器程の被害を齎す、爆発」
を行ったのだ。
北極は一瞬で死の地獄になり、研究レポートは焼け、氷は解け、残ったのは巨大な穴だけになったのだった。