断絶からの大混乱
時はわずかに遡る。
アインホークが編隊から離脱した直後、四機が飛ぶ空域に突然電磁攻撃が仕掛けられた。
「――っ!?」
慌ててセンカがディスプレイに指を走らせ、ステラリウムの電子防御を強化する。
元々電子戦を本領とするステラリウムだ。電磁攻撃に対する耐性も相応に高い。システムを操作して対電子防御を固めてしまえばそれこそこの機体ほどの超特化カスタマイズを施していない限りまずシステムダウンは起きない。
だが、他の機体は違う。
『……――ぁ……ぁ……』
雑音のような声が通信から響き、ぶつっと途切れた。
ディスプレイを見る限り完全にシステムダウンを起こした機体はいないみたいだが、何故か通信だけは死んでいる。
「通信機能だけ潰された……? いやそんなわけ……」
呆然としかけたセンカがはっと我に返る。
「っ!」
ブレイクして降ってくる機関砲弾を回避。
とりあえず上にいる電子戦闘機に向かって急上昇する。
戦闘行動を取れる距離に迫るまでの短い間で思考を回す。
(受信システムも送信システムも異常はない。送信自体も問題なくできる。となると他の四人の通信機能が死んだと考えるべきだけど、そんな都合よく通信機能だけ潰されるとは思えない。まして、アインホークは電磁攻撃を受けてないはず。今の電磁攻撃は威力を犠牲に広域に拡散させてたけど、いくらなんでも編隊を離脱した機体まで攻撃範囲に捉えられるとは思えない)
つまり別の原因がある、とセンカは考える。
(たぶん、通信機能が死んだわけじゃない。もっと単純な原因、恐らくは通信妨害。全帯域ジャミングなんてしたら自分達も通信できなくなるはずだし、そもそも出力の問題も出てくるからまずありえない。どこかに通信が通る穴があるはずだけど……)
飛んできた機関砲弾を回避。そのまま急加速して上から追随してくる敵機を振り切りにかかる。
(探る余裕はない、か。仕方ない)
敵機をどうにかするのが優先だ。
この距離までレーダーに映らなかったということは、ステルス性能の高い電子戦闘機だということ。センカのステラリウムほど突き抜けたカスタマイズをしているとは思えないが、似たような方向性のスペックなのは間違いないだろう。
「まず、君から墜とすとしようかな。電子戦闘機相手に負けられないからね」
電子戦闘機は私のフィールドだ、と好戦的な笑みを浮かべたセンカがディスプレイに指を走らせた。
一方、残りの三機は大混乱に陥っていた。
「ロックオンアラートだと……!? どこから狙って……!」
フィッシュベッドが額に汗を浮かべながら回避機動に入る。
アインホークへの攻撃から始まった一連の奇襲によるダメージは見た目以上に深刻だった。
「ちぃっ……!」
出力こそ低めだったとはいえほとんど無防備な状態で電磁攻撃を受けたダメージは無視できるものではなかった。
ウィンドシューターの出力制御システムに狂いが発生している。即墜落となるほど致命的なものではないが、戦闘機動に明確な悪影響が出るレベルではある。
(せめて応急処置をしたいところだが……)
しかし、悠長に処置をしていられる戦況ではない。
「……っ!」
チャフとフレアを惜しまず展開、アフターバーナーを焚いて全速力での離脱を狙う。
横から敵機が迫っていた。
GF-L-26、フレッシュファルコン
スカイハンターと同じ、典型的な高機動型戦闘機。スカイハンターよりステルス性能が高く、その分レーダー射程が劣るなどの違いはあるが、機動能力自体にそこまでの差はない。プレイヤーの操作能力がダイレクトに現れるタイプの機種故に下手なプレイヤーではカモにしかならず――上手いプレイヤーが使えば暴れる猛禽と化す。
(強い……!)
単純に相手が上手い。ここまで勝ち上がってきた以上当たり前といえば当たり前なんだが、今このときに限ってはそれを呪いたくなる。
(こいつもプロゲーマーか? 少なくとも下手なプロゲーマーより……いや、レート後半で当たってきたプロゲーマーより上手いぞ。特定は……無理か。フレッシュファルコンは使い手が多すぎる)
今主流となっている高機動型の使い手はプロゲーマーにも多い。実戦レベルで扱えるだけならほとんど全てのプロゲーマーが該当するといっていい。エースにしているものに限っても相当数に上る。そもそも、WWRの一周年イベントに参加しているプレイヤーは世界規模だ。フレッシュファルコンの使い手がプロゲーマーだったとしてもそれが知っているプレイヤーとは限らない。
(わからないならいい。それより、今重要なのはこいつが強いということ。俺でも一対一では勝てない)
一対一ならチーム内で最も強いのはフィッシュベッドだ。ウィンドシューターというドッグファイトに向かない機体であってもスカイハンターやアインホーク相手に勝ち越している。
そして、フレッシュファルコンの操縦者の腕は低く見積もってもフィッシュベッドと同等。それがドッグファイト向きの機体を使用しているのだから、まともにやりあっても勝ち目はない。
(だが、現状連携は望めない)
フィッシュベッドが歯嚙みする。
通信が通じないのは痛すぎる。敵の数も場所も曖昧、味方機の被害にいたってはほぼ何もわからないというこの混乱した状況下で無言の連携をとるのは不可能に近い。
既に編隊行動も崩壊している。組織的な抵抗もできず、各々がばらばらに対応している状態だ。
敵は連携をしてくるため、事実上狩られるだけと化している。
(敵は二機。ステラリウムが片割れの電子戦闘機まで到達すればマシな戦況になるだろうが、それまで持つのか……)
そう考えた傍からディスプレイの味方のマーカーが一つ消えた。
「テン……!?」
(よりにもよって、スカイハンターを……! 一機しかいない高機動型を墜とされた!)
何でやられたのかすらわからない。通信が通じない、データリンクも死んでいる状態では自機からの情報しか頼れない。
そして、敵機の情報云々よりスカイハンターが墜ちたことがまずい。アインホークがこの空域から離れている以上、ドッグファイトが苦手な機体しかこの場にはいないことになってしまった。
このチームの弱点であるドッグファイト担当の戦闘機の少なさと先制攻撃失敗時の冗長性のなさがダイレクトに出てしまっている。
控えめにいって最悪の戦況だった。
「せめてエンジンさえまともなら……!」
たしかに、電磁攻撃による被害がなければウィンドシューターが自力で戦況を打開することも可能だっただろう。
しかし、現実はそうではない。出力制御に被害が出ている以上普段の機動は行えない。そして、ただでさえドッグファイトに向かない機体、それもさらにダメージが蓄積した状態でどうにかできるほど今向き合う相手は弱くない。
(どうする……どうする……! ――!?)
後方から追随するフレッシュファルコンを振り切ろうとしている中、真上から大気を切り裂いて機関砲弾が襲いかかってきた。
急旋回し、どうにか回避したタイミングで今度はフレッシュファルコンから機関砲弾が放たれる。
「しまっ……!」
右主翼が貫かれる。
コックピット内にビープ音が響き、ディスプレイに表示されているエンジン出力に致命的な悪影響が出る。とてもではないが戦闘に耐えられる機体状態ではなかった。
一気に高度が下がり、地面に向けて墜ちていく。
(まずい……! ここで俺が墜ちれば……!)
その予想は正しい。
ほどなくステラリウムが敵の電子戦闘機の相手をするだろうから、ヘヴィーライナーが一対二で攻撃されることにはならない。
しかし、一対二でなかろうとヘヴィーライナーでは高機動型の敵機を相手にできない。ヘヴィーライナーを墜としたフレッシュファルコンは残り二機へと襲いかかるだろう。そうでなくとももう一機がどこかにいるはずなのだ。
ここで何もせず墜ちれば待ち受ける結末は敗北しかない。
(だが、どうすれば……!)




