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離陸直前

 

 WWR、撃墜王への挑戦権争奪戦六日目。

 明日は撃墜王とのエキシビションマッチになるから、挑戦権争奪戦としては今日が最終日になる。

 結局、条件であったレート2500を超えたのは俺達を含めて二チームだけだった。

 つまり、一発勝負の直接対決に勝った方が撃墜王への挑戦権を獲得する。

 相手の詳細は発表されないのでわからないが、恐らくどこかで戦ったことのあるチームだとは思う。ていうか数が少なくなるレート2400前後以上のチームとは大体あたってる。あのへんでわりと長いこと足踏みしてたし。

 まあ、チーム名など存在しないので機体変えられてたらわからないんだが。


 ただ、このあたったことがあるというのが難題で。

 先制奇襲が命であるうちのチームだと手の内がバレるのはかなり厳しい。

 ステラリウムの奇襲攻撃を受けた経験があれば、どこが相手でもそれなりの警戒は忘れないだろう。

 そんな心配もあって『で、どうするよ。奇襲使えると思うか?』とは試合前日の夜に聞いてみた。

 午前中に試合が行われるため、朝には練習時間があまりとれない。新しい戦術を使うなら夜から練習しておかなければ厳しいだろう。

 ただ、これに対する返答は――





「んー、奇襲するだけならいけると思うよ? 警戒はしてるかもしれないけど、私達が相手だって確信持てるわけじゃないし」


 あっさりと言ったセンカがあざとく小首を傾げる。


「それに、ステルス奇襲は私の十八番だもん。多少警戒されてる程度で使えなくなるなら最初からこの戦闘機で参加しないよ。ただ、奇襲はできても墜とし切れるかはわからないかな? 相手の機種にもよるけど」


「墜とす自信はないのか?」


「ちょっとね。どこまで近づけるかわからないし、相手の対応次第ではダメージ与えるのが限界って可能性はあるよ。攻撃しないで偵察だけするって割り切っちゃえば気づかれずに戻ってこられるけど、そっちの方がいい?」


 フィッシュベッドの方に視線を向けながらセンカが問う。

 返答は丸投げだった。


「任せる。ただ、わざわざ安全策を取れという気はないが、一対一交換もできないと判断したなら偵察で戻ってきてくれ」


 相手墜として自分も死ぬ、が最低ラインというだけで、ようするに『自分で考えろ』という内容だ。センカならそれで問題ないとは思うけど。

 先制攻撃しない組としては一機墜として一機引きつけてくれるのがベストなんだが、まあ厳しいよな。レート2500以上ってことで相手も強いだろうし、対応力も相応のはずだ。

 この間みたいに高機動型五機編成とかなら楽なんだけどなあ。


「うん、わかった。今回はさすがにそうなるかもね」


「弱気か? 珍しい」


「んー、どっちかというと予防線? 断言できるほど余裕なさそうだし」


「まあ、そりゃそうか」


 たしかに余裕はなさそうだ。

 それに下手に断言してそのせいで引けなくなって無理をした、とかなっても困る。いや、センカなら断言しても平然と戻ってきそうなところあるけど。明確に宣言したことをあっさり翻しそうな信頼のできなさがある。


「というか、むしろ危ないのはウィンドシューターの攻撃じゃない? 私が先制奇襲しちゃったら確実にうちのチームだってバレると思うよ? そうなったらステルスミサイルも警戒されるよね?」


 そういってセンカがフィッシュベッドに視線を飛ばす。

 まあ、確実に特定されるな。この変態編成のチームを忘れるとかまずないだろう。負け方次第では悪夢に出てくるレベルだ。


「問題ない。ステラリウムの奇襲と第一波のミサイルを同期させればいいだけだ」


「いや、難易度高いよねそれ。しかも私の協力必須じゃないの?」


「頼む」


 巻き添えにされたセンカが天を仰ぐ。


「同期っていってもタイミング難しいんだけど……」


 そのぼやきはもっともだ。

 前提として、ステルスミサイルは最終誘導段階に至ると普通に位置がバレる。

 そのため、ミサイルの着弾と同時に電磁攻撃をしかけようとすればミサイルの方が先に気づかれて周囲への警戒が強化されてしまう。

 電磁攻撃が先になるタイミングを目指そうとすれば最終誘導段階前に攻撃するしかない。しかし、電磁攻撃が早すぎても警戒を誘発してステルスミサイルがバレる。

 求められるのは最終誘導段階直前で電磁攻撃をすることだが……まあ、非常にシビアなタイミングが要求されることになるだろう。

 哀れ、センカ。


「何度か成功してるだろう。あのタイミングでいい」


「いやいや、全部偶然だからね? 失敗した方が多いでしょ? というか、前回思いっきり失敗して落とされたんだよ?」


 あまりの無茶振りに声色も素に近くなっている。

 そんなに大変か。……大変か。大変だな。

 2500に上がった最後の試合、ステルスミサイルの着弾が早すぎて相手の警戒が強くなった。ちょうどそのタイミングでしかけたセンカが集中砲火を受けたのだ。一対一交換にも失敗した苦い記憶である。

 最悪なのは奇襲電磁攻撃と先制ステルスミサイルの両方が失敗することだから、そういう意味ではまだましな結果なんだが。


「できないなら偵察で戻ってくればいい。その判断は任せる」


「わかった。できる限り頑張るけど、限度はあるからね?」


「ああ、わかってる」


「……ほんとにわかってるのかな」


 ぼそっと呟いたセンカが深くため息を吐いた。

 同情はしないでもないが、実際頑張ってもらわないと困る。先制攻撃が失敗するだけならともかく、下手に墜とされて数的不利をつくられると最悪詰む。

 このチームドッグファイト苦手な機体が多すぎるんだよ。


「「はぁ……」」


 センカとため息が重なる。

 勝てるのか、明日……?





 というやりとりがあって本番前である。

 既に機体に乗り込み、発進合図を待つばかりとなっている。

 この試合は負けても取り返せばよかった昨日までのそれとは違う。負ければ終わりの一発勝負だ。

 にもかかわらず立てた作戦は、よくいえば臨機応変、悪くいえば行き当たりばったり。普段の戦い方の延長にすぎない。

 下手に特別な戦術を取り入れて付け焼刃になるくらいならいつも通りの方がいいっていうのもわかるが、上位勢の連携重視っぷりをみているとちょっと不安になってくる。

 安直といってもいいこの方針が吉と出るか凶と出るかはわからないが、ここまで来て負けるのは嫌だし、まあやるしかないか。


「……お」


 ディスプレイの隅にカウントダウンタイマーが出現した。

 試合開始まで六十秒。


『……――準備はいいな』


『……――できてるっすよ』


『……――できてますわ』


『……――できてるよー』


「できてるよ」


 発進準備をしながらフィッシュベッドの通信に応える。


『……――よし。作戦はいつも通りだ、気負わずいくぞ』


『……――一番気負ってるのフィッシュベッド(フェンサー)さんっすよね?』


『……――私達協力してるだけだしねー。そっちこそ大丈夫なの? ここで初撃を外すとか勘弁だよ?』


 からかい混じりの声が聞こえる。

 センカもプレッシャーがかかる役割だろうに、意外と余裕がありそうでなによりだ。

 ただ、協力してるだけってのは建前だろ。最初はそうでも今は気合い入ってるんじゃないか? 割と負けず嫌いっぽいし。


『……――問題な……いや、そうだな。多少固くなってたかもしれん』


 全然気づかなかった、っていったら怒るかな。

 俺だけ一週間程度の付き合いしかないわけだし、まあわからなくても仕方ないんだけど。


『……――え、全然気づかなかった……』


 えぇ……

 ヨツバの声に気が抜けた。

 ヨツバが鈍いのかフィッシュベッドがわかりにくいのかどっちだ。

 本命はフィッシュベッドがわかりにくい、次点でヨツバが鈍い、大穴が実は固くなったというのはフィッシュベッドなりの冗談だった。

 うん、びっくりするほどどうでもいいわ。どれだろうが心からどうでもいい。

 脳内でアホな賭けを開いている間にも会話は進んでいく。


『……――本当に外さないでね? 初手失敗は詰みだよ?』


『……――ああ、わかってる』


『……――頼んだよ、ほんと。このチームのエースってウィンドシューターなんだから。ドッグファイト向きのはずのどこかの二機が弱いせいで』


 よっしゃ、その喧嘩買ったわ。


「おいセンカ、さっさと空上がれ。叩き落としてやる。テン、手伝え。ぶっ潰すぞ」


『……――了解っす。試合前のいい肩慣らしになるっすよ』


『……――えー、ステラリウム相手に二機がかりじゃないと戦えないんだー? こっちは電子戦闘機なのにー? ドッグファイトに自信ないんだねー!』


「はっはっは、お前マジで叩き落とすぞ」


 口閉じろや煽り魔が。なんなら口綴じてやろうか? 誰かホッチキス持ってきて。

 ちくしょう、あいつが語尾伸ばすの死ぬほど鬱陶しい。たったそれだけでヘイトが跳ね上がった。

 ……ほんと、墜としてやろうかな。


『……――こら、そう遊ぶな。もう始まるぞ』


『……――りょうかーい』


「……チッ」


 介入してきたフィッシュベッドに免じて引き下がる。実際そろそろ時間だし。

 くそが、煽られ損だ。

 緊張をほぐすためっていう狙いはわからなくもないけど、それ半分以上建前だろ。絶対煽りたいっていう本音の方が大きいかっただろ。

 試合前に味方から煽られたこっちの気持ちも考えろ。


「……」


 残り十数秒か。

 スカイハンターとの個別通信を開く。


『……――シーさんっすか? なにかありました?』


 さすがに墜とすのは冗談だが……


「ステラリウムロックオンするだけならやってもいいと思う?」


『……――いいわけないっすよ!?』


 めちゃくちゃびっくりした様子で突っ込まれた。

 やっぱだめか。


『……――ほんと、シーさんもわりとアレっすよね』


「ほっほう。なるほど、それはつまりスカイハンターならロックオンしてもいいってことだな?」


『……――なんでもないっす、ごめんなさい』


 テンが個別通信を切った。

 弱いな、おい。


「……よし」


 時間だ。

 離陸作業を開始すると、アインホークは空を目指して動き出した。


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