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赤、青、白、黒、緑

 

 さあ、心機一転、観光タイムだ。

 買えない本は買えない、わからないものはわからない。切り替えていこう、今は素直に観光を楽しむべき。

 なにせ、右も左も素晴らしい装飾品と建造物だらけなのだ。楽しまないのはもったいない。

 というわけで店を出て通りを歩いているわけだが……


「おぉ……」


 全然進めない。いい意味で心に刺さるものが多すぎる。

 うわ、あの壁すげえ。水晶の壁の中に紫水晶を埋め込んで紋様を描いてる。

 右側の店に掲げられている水晶と大理石を組み合わせた看板も綺麗だし、その隣の店のショーウィンドウにある水晶のラッパも見事な造形美だし、ショーウィンドウに並んでる五人の小人も本物みたいに動いてるし、その奥にみえる水晶のピアノも……


「……ん?」


 今なんかおかしなものがあったな?

 ショーウィンドウに視線を向ける。

 小人と目が合った。


「いや、なんで?」


 どうして? 何故に小人? しかも五人も。水晶何にも関係ないじゃん。

 百歩譲って、檻とかに入れられて見世物にされてるならまだわかる。それはそれでどうなのと思わなくもないけど、まあ理解はできる。

 でも、こいつらどうみても自由に動き回ってるんだが。

 赤、青、白、黒、緑の五色の服ととんがり帽子をかぶった五人の小人達。

 ショーウィンドウ越しで声は聞こえないが、なんかわちゃわちゃ動いている。

 あ、落ちた。

 一人が棚から落ちて、助けようとしたもう一人も落ちて、そのまま流れるように全員が落ちていった。コントでもやってんのか。


「……」


 まあいいや。

 関わると面倒事になりそうな気配がビンビンにする。時間もないし、見なかったことにして観光に戻るとしよう。

 とりあえず水晶と紫水晶で描かれた大きな紋様を見に行くとしよう。

 ありがたいことに人もそこまでいない。人込みをかき分けたりする必要もなく近くまで来れた。

 時間帯的には陽が沈んで少しくらい。空はわずかな明るさを残しているものの、それだけで見学するのは難しい。

 足りない光源を補うように街を照らす水晶の街灯がいい感じに紋様をきらめかせ、その神秘性を増していた。なんなら水晶の街灯自体も綺麗に輝いている。

 描かれている紋様は……なんだこれ、迷路? 少なくとも同じ絵柄の繰り返しじゃないな。何かしらの意味はありそうだが……


「これだけじゃわからないなあ」


「なにがです?」


「なにがわからないので?」


「ああ、この紋様がなんか意味ありそうだなって……ん?」


 さらっと答えかけて、言葉が止まる。

 今、誰に聞かれた?


「……」


 振り向く。

 誰もいない。


「……」


 周囲を見回す。

 誰もいない。


「……」


 足下を見下ろす。


「こっちみてます?」


 いた。

 赤、青、白、黒、緑のとんがり帽子。わちゃわちゃとせわしなく動き回る小さな体。

 間違いない、ショーウィンドウにいた小人達だ。


 わあ、ファンタジーだあ……(思考放棄)


「…………はっ」


 危ない危ない、意味不明すぎて思考が止まりかけていた。

 空に飛ばしかけた視線を下ろすと、小人達が相変わらずわちゃわちゃと動き回っていた。

 思わず呟く。


「……いや、どうしろと?」


 どう対応すればいいんだ、これ。

 何? 何が正解なの?

 無視して移動……却下、安全策としてはありだが何かのフラグだったらもったいなさすぎる。

 それに、ショーウィンドウにいた小人がここにいることから考えても逃げても追ってきそうな感じがする。

 となると会話が一番よさそうに思えるが……


「……」


 周囲を見回し、顔を伏せる。

 ちらちらと周りの人がこっちを見ている。プレイヤーかNPCかはわからないけど、とりあえず小人達は俺にしか見えないとかそういう類のものではないようだ。

 まあ、小人が見えるならそりゃ注目もするわな。人通りがそこまで多くないことと周辺の明るさが昼ほどではないためまだ人垣はできていないが、囲まれて移動できなくなるのも時間の問題だろう。

 このままだとかなり目立つな。話すにしても場所を変えるべきだ。

 ウィンドウを操作し、初期装備のローブを取り出しながらしゃがむ。


「おいで~」


 手を差し出し、できる限り柔らかい声で呼びかけた。気分は幼児を集めるときのあの感じ。


「なんです?」


「なにかごようでして?」


「たのしいこと?」


 小人達はあっさり集まってきた。手のひらを向けて乗るように促すと、一人二人と乗ってくる。

 ははは、バカめ!


「確保!」


 そのまま両手で五人を拾い上げ、ローブでくるんで完全に捕らえる。

 しゃがんだ体勢からクラウチングスタートの姿勢をとり、


「さらば!」


 全力ダッシュ。

 こっちを見ながら囲み始めた人の間をすり抜けるようにして駆け抜け、その場から逃げだした。





 シトラスの拠点まで駆け戻り、ログアウトに使っていた部屋に入って扉を閉めて一息つく。

 机の上に置いたローブの中で蠢く小人達を見る。

 あー、やっちゃったよ、やっちゃいましたよこんちくしょう。

 うん、今の行動ね、客観的にみるとやばいよね。ていうか拉致だね、言い訳のしようがないね。


「やらかした……」


 いやでも仕方なくない?

 思いっきり間違った対応をした自覚はあるけど、あのまま会話するのもそれはそれでありえないし。普通に注目されてたからね? 逃げ出せなくなるのは困る。そうじゃなくてもそこそこ大事そうな情報がばらまかれるわ。

 大事な情報が出てくる保証はないって人もいるかもしれないけど、小人だぞ? 何かのフラグになりそうな気配がビンビンする。可能な限り情報を秘匿するに越したことはない。

 あと、注目されること自体を避けたいのもある。フラグメンツに入ったとはいえ恨み買いまくったことに変わりはないわけだし、下手に目立って居場所を特定されれば復讐されるかもしれない。


 ……今さ、ニューウェルが修羅の国と化しているらしいんだよね。元々修羅だろって思わないでもないけど、どうもそれどころじゃなくなっているらしい。元がアマゾンの生態系とするなら、今はあらゆる生物が銃で武装しているアマゾンの生態系状態だとか。

 なんでも、どこかの誰かが発見したコンフュージョン・ラビットを使用したPK手法が広まって、レベルが上だろうが数で勝ろうが等しく混乱して殺されるというこの世の地獄が顕現しているとの噂だ。

 そして、その元凶としてコンフュージョン・ラビットを使ったPKを生んだどこかの誰かにヘイトが向いているらしい。


 いやー、どこかの誰かって誰だろうなー。酷い奴もいたもんだなー。

 ……はい、俺ですね。勘違いとか冤罪とかの線もない、完全な黒ですね。

 いや、(犯人)であることは認めるけどさあ……俺が殺った分はともかく、他のプレイヤーの分まで恨まれる謂れはないでしょ。方法だって誰にも教えてないし。まあ、状況から推測できるとは思ってたけど。あ、そういう意味では責任あるな。

 ていうか、脱法じみたPK手法編み出しといて自分に責任ないっていうのは我ながら無理がある気がしないでもない。つーか、うん、普通に無理があるね。俺が一般プレイヤー側でもこいつが悪いなってなるよ。

 自己弁護、失敗。


「……」


 まああれだ、今はおいておこう。もうこうなった以上どうしようもないし。崖から転がり落ちた岩は底に着くまで止まらないのだ。そして修羅の国と化したニューウェル周辺も行き着くとこまで行き着くまで止まらないだろう。


 他人事みたいにいったけど俺のせいなんだよな……いや、だからおいておけ自分。それ以上考えてはいけない。『俺は悪くない。よしんば悪かったとしてもだからなに?』の精神が大切だ。

 ちなみにこれ、センカから習ったフラグメンツの基本精神である。性質悪いなんてもんじゃねえ。開き直るな。前半部分が無意味と化してるじゃねーか。


「さて」


 パンと手を叩いて切り替える。

 とにかく今は目の前の小人……というかローブの中でもがいているものへの対処をすべきだ。


「まず最初にすべきなのは……」


 まあ、ローブから出してやることだな。


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