見えない敵、見えない攻撃
さて、どこにいるかな。
ディスプレイに表示される情報を精査しつつ二人の居場所を探る。
……全然見つからない。
フィッシュベッドもセンカもどこに……
ふと、視線が止まる。
ディスプレイに出てきた数値に違和感を覚えた。
あ、これ──
「上──っ!?」
ディスプレイを操作して全力で旋回、左に回避。
くそ、いつのまに……ステルスか?
わずかに遅れて上空から降ってきたレーザーが左翼を掠め──レーザー?
ステルスにレーザーって……
「まずい……!」
ビープ音が響く。直後にディスプレイに示された数値が滅茶苦茶に狂いだした。
「んな……っ! くそ、電子戦闘機か!」
またいやらしいもの使いやがって! これもう絶対センカだろ!
くそ、わずかに遅れた数秒が惜しい。ステルス性能、レーザー攻撃って時点で気づくべきだった。
相手の機体は電磁攻撃に特化した電子戦闘機。場合によっては電磁攻撃だけで機体制御システムを壊して墜としてしまう、こと初見時においては厄介極まりないタイプの機種。
瞬殺されるほど致命的な影響は受けなかったが、このままだとシステムが落ちて機体も墜ちる。時間との勝負だ。
「間に合え……!」
勝手に動きだして発射寸前まで進んでいたミサイル制御システムを手動で叩き切り、同時に機体制御のメインシステムを予備システムに移行、メインシステムには修正プログラムを走らせる。
そのままアフターバーナーに点火、全速力での空域離脱を選択した。
機体状況を走査、被害を確認……あ、ちくしょうやられた! 消火システム落とされてる! 消火装置結構良いの積んでたのに!
「あのやろ、覚えとけよ……」
というか、何だ今の。
アインホークは墜とされないことに重点をおいた戦闘機。特別何かが得意でもない代わりに弱点らしい弱点も存在しない。
当然、電子戦に弱いなんてこともないし、この機体もカスタマイズするにあたって電磁シールドや耐電流、耐電圧などの電子戦対策を積み込んでいる。その対電子防御がたった一秒足らずでぶち抜かれた。
特別固い防御ってわけじゃないとはいえ、そんなあっさり抜けるほど薄くもないぞ。どんだけピーキーな機体使ってんだあいつ。
「やっぱあいつ頭おかしいな……」
「対処早っ……」
驚きを隠そうともせずセンカが呟く。
完全に墜としたと思ったタイミングだった。レーザーでダメージ、そのままシステムジャミングで終わらせたはずだったのに、数秒とかからずに持ち直して離脱しようとしている。
ここまで追い詰めたにもかかわらず速攻で立て直されたのはあまり記憶にない。
「……やめておくかな」
追撃も可能だったが、センカはアインホークと離れるように旋回した。
どこまでダメージを与えたかはわからないが、わからないからこそ深追いは避けるべきという判断だ。乗っているのは元々ドックファイトが苦手な戦闘機であるため、堅実な選択だといえよう。
SJ-DOF-1、ステラリウム
ステルスと電磁攻撃に全振りした特化型電子戦闘機。
巨大な電磁攻撃用機器を複数搭載しており、さらに短距離空対空レーザーとミサイル妨害用レーザーを組み込んだ最新技術を詰め込んだような戦闘機。
その代わり機関砲やチャフ、フレアはかなり少なめ、ミサイルに至っては搭載不能という電子戦闘機のなかでも突き抜けた特化ぶりを誇る。というか、突き抜けすぎていて使い手がほとんどいない。
ドッグファイトを投げ捨ててステルス奇襲からの電磁攻撃&レーザー攻撃に全てをかけたような機種だ。
第七世代戦闘機で採用が検討されている電磁攻撃による制御システム破壊はステラリウムに限らず大半の電子戦闘機が持っている機能だ。そして、その対策となる対電子防御もポピュラーな機能である。
表面塗装や耐電仕様などのハード面での防御強化、ソフト面での電子制御補強といった機体の改造から、電子制御機構や電子防御装置、サブシステムの積み込みといった装備面での補助まで防衛の種類は豊富だ。ゲームだからこその防御手段も多く、他の部分の性能を多少犠牲にすれば対策を取るのはそう難しいことではない。
そう、電磁攻撃を防ぐことそれ自体はそこまで難しくないのだ。
電子戦闘機のなかでも特に攻撃手段が電磁攻撃に偏っているステラリウムにとって、防衛策を突破する手段を用意するのは絶対条件になる。
センカの場合、その手段としてただでさえ電子戦に特化したステラリウムをさらに電子戦強化する方向でカスタマイズしている。その分火力、速度、機動性、限界高度などが犠牲になっているものの、はまれば相手を圧倒できるタイプだ。
なにせ、電子防御に優れる電子戦闘機を相手にしてすらシステムダウンを起こせる能力を持っている。
この機体の電磁攻撃を防ごうと思えば、同じように電子防御に特化するしかない。そしてそんなことをすれば耐久性が落ちる上にドッグファイトも苦手になってしまう。
当然、バランス良く防御性能を割り振っているアインホークでは防げるわけがない。
(んー、どうしよ。ここで決めたかったんだけど)
センカが内心でぼやく。
ステラリウムの戦術は基本的に初見殺しだ。機能がばれていれば警戒されるし、ドッグファイトに持ち込まれてしまえばほぼ確実に負ける。
一回目の遭遇で墜とせなかったのはかなり痛い。
(フィッシュベッドを探すのもあり……でも、シーと一対一になるのは避けたい。アインホークはダメージ受けてるはずだし、ほっとけばシーが墜ちるか)
ステラリウムは特化型電子戦闘機。
ステルス機能も相当高い。逃げ隠れは本領だ。
(なら、それまで隠れておいて、あとでフィッシュベッドに奇襲するのが一番か)
方針を決定したセンカが何気なくディスプレイを確認し──
「……え?」
顔を引きつらせた。
既に回避が間に合わない距離までミサイルが迫っていた。
(チャフ、フレア……間に合わない! 赤外線妨害……無理、今からじゃ避けきれない……っ!)
もはや手遅れ。
この状況で逃げる術はない。直撃するまでの残りの数秒をただ待つ以外何もできない。
(ていうかいつのまに……!? レーダーには何も……ステルス? でもステラリウムのレーダーから逃れるなんて……ってまさ)
凄まじい振動が伝わり、センカの思考が途切れる。
そのまま足場が崩れ、視界が暗転していく。
──ステラリウム、撃墜。
「は?」
ディスプレイに映った情報を見て、呆けた声が漏れた。
ステラリウム撃墜。誰がやったかは考えるまでもない。最後の一人、フィッシュベッドだ。
でも、おかしい。
ステラリウムとはまだそこまで距離はなかった。もしドッグファイトしていたならこっちのレーダーにも映っているはずだ。
大体、あのセンカがそう簡単に敵機の接近を許すとは思えない。ステラリウムはレーダー性能もそれなりに高いし、索敵距離から攻撃を受けたとは考えづらい……
「……レーダー範囲外からミサイルでもぶつけたか?」
……んなバカな。
レーダー範囲内にすらいない位置からミサイル飛ばしてきたってか?
それもステラリウムの索敵距離外から、ステルスを突破して?
できるわけないだろそんなもん。もしできるとしたらレーダー性能と誘導に全振りした遠距離特化の戦闘機……
──レーダーが迫り来るミサイルを発見した。
「うわきったねえ!」
ありかよそれ!
ロックオンアラートが響く。
迷わずチャフをばらまく。出し惜しみはしない。
「普通それ使うか!?」
くそが、ステルスミサイルだ!
現実でやると巨大化しすぎることから一部の例外を除いて実用化を見送られたタイプのミサイル。
しかし、ゲームであるWWRなら設定するだけで実現できる。搭載するためには特殊な装備が必要になるが、特化させれば何の問題もない。
レーダーと誘導に特化した戦闘機に遠距離空対空ステルスミサイル。典型的な、そして希少なタイプである遠距離特化型戦闘機!
遠距離特化型戦闘機。
それは、レーダーとミサイルの射程、そして誘導性能を突き詰め、敵射程圏外から先制攻撃を加えて墜とすことをコンセプトとした、もう一方的に撃墜することしか考えてないある種超攻撃型なストロングスタイル。
ぶっちゃけ、ロックオンして撃たれたらその時点で半分負けと評されるWWRの戦闘機戦において、希少ではあるもののそれなりの結果を出してきたスナイパースタイル。もうロックオンすら投げ捨ててミサイルを叩き込もうという一点突破タイプの戦型。
こういう手合いの対処は厄介を極める。
距離さえ詰めてドックファイトに持ち込んでしまえば九割方勝てるが、自機が相手を発見する前に、つまり先手を打たれてしまえば九割方負ける。いい意味でも悪い意味でも初見殺し性能が高すぎる。
根本的な問題として、ミサイルは人間の反応速度で対応できる速度ではないのだ。ゲーム故に多少はプレイヤー有利になるような調整がなされているものの、限度がある。
既に相当詰められているし、この距離は無理だ。というか、このタイプは最終誘導段階に至るまでは自機で誘導するため、ロックオンアラートが響いた時点で詰みといえる。
一応あがいてはいるがチャフもフレアも赤外線妨害も今さら間に合わない。確実に墜とされる。
「くっそ!」
というか、プロゲーマーが一般人相手にそれ使うか!?
初見殺しの極致みたいな戦闘機じゃねえか!
センカといいフィッシュベッドといい、こいつらひねくれすぎ……!
「っ!」
爆音が響き、機体が崩壊していく。
浮遊感と共に視界が暗転する。
──アインホーク、撃墜。




