愛機発進
WWRにログインするのはいつぶりになるか。
二週間……もっとか? ここしばらくやってなかったから少し勘を取り戻さないといけない。
とりあえずゲームを開始しよう。
BFTEは都市から転送される、という形を取る。対人FPSではあるものの、一応は明確なストーリーが存在するからだ。ぶっちゃけ必要ないというか、全然重要じゃないが。
一方、WWRにはそれがない。
ストーリーどころか世界観すら曖昧だ。『これはレースゲームだ! 他はいらん!』といわんばかりの潔さである。……いや、潔いというにはレースしてない種目が目立ちすぎてる気がしなくもないけど。
プレイヤーはログインすると巨大な遊園地のような場所にスポーンする。アトラクションにあたる部分が各カテゴリになっているわけだ。もちろん、やろうと思えばウィンドウ操作で移動をショートカットすることもできる。
アトラクション内外にあるスクリーンに公開設定された試合映像が流れているから、普通に歩いている分でも結構楽しめる。
ただ、今回は野良ではないため、歩き回ることもない。
ウィンドウを開き、カテゴリを指定してあらかじめ決めていたパスワードを入れる。
すぐに視界が切り替わる。
飛ばされた部屋は管制室のような内装だった。並んでいる大量の机と椅子がすごい邪魔だ。移動しにくい。いやまあ、移動する必要はないんだけど。
先客は四人……あ、これ俺が最後か。
「悪い、遅れたか?」
「いや、問題ない。俺達もさっき来たばっかだ」
首を振るフィッシュベッドがフレンド申請を送ってくる。それと同時に、センカ、ヨツバ、テンからも送られてきた。
プレイヤーネーム変えてるのもいるな。フィッシュベッドはフェンサー、センカはスリーナイン、ヨツバはフタバか。
全員分受諾すると、早速フィッシュ……フェンサーが提案する。
「実力みたいし、サバイバルでいいか?」
「いいよー」
センカ……スリーナインが返し、残りも頷く。
俺も異論はない。
一緒のチームでやるなら実力は把握しておかなければならない。
「とりあえず五回くらいでいいか」
そう呟いたフィッシュ……フェンサー……ああもうめんどくせえ! フィッシュベッドで統一する!
とにかく、フィッシュベッドが設定したモードが送られてきた。
リアルモード、制限なし。いうまでもなく戦闘機で、レースではなく撃墜勝負。誰か一人になるまで戦うサバイバルだ。
わかりやすい。
「久々のやつもいるみたいだし、開始は二十分後でいくぞ」
「了解」
よかった。
さすがに直で戦闘はキツイ。少し時間がほしかったところだ。まあ、二十分もやればとりあえず動かす程度の勘は取り戻せるだろう。それ以上となると実際に戦わないと戻せない部分になってくる。
次々と姿を消していくメンバーに合わせ、俺もウィンドウを操作する。設定は模擬戦モード。
再度視界が切り替わった。
同じリアルモードでも戦闘機ごとに操作システムは大分違う。そのため、ある戦闘機をリアルモードで操作できたとしても他の戦闘機まで操作できるとは限らない。
WWRの戦闘機は全部で100種近く存在するが、そのうち俺がリアルモードで操作できるものは20もない。まともに戦闘機動ができるとなるとその半分、それなりの自信があるとなると三機しかない。
これは決して多い方ではない。リアルモードを扱えるかどうかの壁は大きいが、逆にその壁さえ越えてしまえばハードルは大分低くなる。
さすがに全種扱える人は珍しいが、飛ぶだけなら10や20使える人は珍しくもないし、4、50って人もそれなりに聞く。実戦レベルで10種以上扱える人もちょくちょく見かける。プロゲーマークラスならそれが当然でもあるのだろう。
本番では他の四人の機体に合わせてどれかを決めようとは思うが、とりあえず今は一番得意な機体を選ぶとしよう。
俺のエースはこれだ。
E-SG-16、通称アインホーク
双発式エンジン、変形デルタ翼の制空戦闘機。数多くのプレイヤーが愛用する汎用性高めの機種だ。
人気でいうとトップクラスではないけどね。ピーキーじゃない代わりに派手さもないし。
ただまあ、比較的使いやすい部類に入るため触れたことのあるプレイヤーは多いだろう。自分のエースとして使ってるプレイヤーは少数派だろうが。
「これに乗るのも久しぶりだな」
コックピット内の操縦席に着き、軽くシステムを動かしながら呟く。
二週間程度だけど懐かしい。持ち込んだ装備も『こんなのあったわー』みたいに感じてしまう。
WWRでは機体自体の改造と持ち込む装備という二つの手段を使って同じ戦闘機でもある程度のカスタマイズが可能になる。無論、限度や元々の機種との相性もあるためある程度止まりではあるが、どちらも使えば同じ戦闘機でもそこそこの性能差が出る。このあたりは個人の趣味が強く出る部分だ。極振りレベルのカスタマイズを施すプレイヤーもいれば、汎用性を重視するプレイヤーもいる。どちらかというと俺は後者だし、アインホークも同様のカスタマイズをしている。
アインホークは機体性能が『墜ちない』方向に向いている。
安定した機動と高い耐久性を軸にしたこの機種は機関砲やレーザー程度なら直撃しようがそうそう墜とされることはなく、返す刀で相手を叩き落とす。それがアインホークのコンセプトだ。
俺もそれを生かすような装備を優先して詰みこんでいる。消火設備とか、予備の機体制御システムとか、生き残るのに有利な装備だ。
まあ、いくら耐久力が高いとはいえさすがにミサイルが直撃すれば一発なんだが、それはもう仕方ない。というか、ミサイル喰らって墜ちないとかそれはもう戦闘機じゃなくて空中要塞か何かだろう。いくらゲームとはいえミサイルの直撃に耐えうる機種は存在しない。
逆にいえば、ミサイル以外ならやり方次第でどうにでもなる。そして、そういった耐久に向いた戦闘機こそアインホークなわけだ。……耐久特化でもないあたり中途半端ではあるんだけど。どこかに特化した結果墜ちない、ではなく、全体的にバランスがいい結果墜ちない、という機種だ。
よくいえば堅実、悪くいえば地味。『別にどこが劣るというわけではないけど面白みがない』と評されることの多いなんともいえない戦闘機だったりする。
今の主流って慣性制御を強化した高機動型の戦闘機だから仕方がないといえば仕方がない。高機動型って速度がなくても派手だし、回避性能も高いから強いんだよね。
慣性制御とかいうゲームならではの機能もついているし、そりゃ人気も出る。そうでなくとも普通に強いし。
なお、高機動型は速度そのものよりも機動性――G対策を重視した戦闘機のことを差す。単に速いだけなら高速型と呼ぶ。
「さて、いくか」
システム周りを確認し、行動を開始する。
発進までは問題なし。今さらオーバーランなんてしない。
席に押し付けられる感覚を覚えながら離陸、高度を上げていく。
うん、いける。というか、戦闘に達する前に問題が起こったら目も当てられない。
「さて、と」
レーダーを確認。接近する敵機は一つ。
模擬戦相手であるAIの機体を設定しなかったため、今回はAI専用の凡庸な戦闘機になる。
設定してもよかったけど、最初は弱い相手の方が勘を取り戻すにはいいし。
「っと」
右旋回し、ブレイク。
機関砲弾を回避、そのまま敵機とすれ違う。
大量の情報が氾濫しているディスプレイに目をやり、自機の状態を確認。
問題なし。今度はこっちから仕掛けるか。
大回りで旋回し、再度敵機と向き合う。
ロックオン。
「FOX2」
コールする意味はないけど、まあ、気分で。
優に音速を越える赤外線誘導短距離空対空ミサイルが放たれ、数キロの距離を瞬く間に詰めていく。
所詮は接待用に等しいAI機、回避機動を取るも反応が襲い。
命中。
「よし……次」
既にレーダーには二機の追加が見てとれる。
左右から迫ってくる敵機……右からいくか。
旋回。
特に問題なくロックオン、発射。
普通に命中した。
……AI相手だと味気ないな。予定調和というか、まともに攻撃を受ける気がしない。
「お」
ビープ音。
ロックオンアラートが響く。
タッチパネル式のディスプレイに手を滑らせ、チャフをばらまく。
そのままアフターバーナー点火。危険空域から一度離脱。
振り切ったことを確認してピッチアップ。
高度を稼ぎ、下方にいるはずの敵機を探す。
「……発見」
上方を確保し、そのまま距離を詰める。
途中で気づかれたのか回避機動を試みているが、遅い。
ロックオン。
「これで3つ」
直撃。
機体が爆散して落下していく。
「まあ、こんなもんか」
勘を取り戻すというか戦闘機動の確認みたいになってしまったが、仕方ない。
不満がないわけじゃないけど、AI相手では勘を取り戻すにも限度がある。これ以上となると実戦しかない。それについてはすぐにサバイバルをやるわけだし、そっちで取り戻せばいい話だ。
もうそろそろ時間になるし、一旦戻るか。




