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たらい回しの行き着く先は

 前回までのあらすじ

 所持金ZEROになったので校長先生の話を聞いてきた。

 

 というわけで露店だ。

 あの見習い魔法使いの杖を売っていた店かなとも思ったが、そんなことはなかった。俺には運命力がないらしい。カードゲームでもすれば鍛えられるかね?

 なお、店で扱っているものもカードだった。カードゲームはできないけど。そもそも無一文だから買えないけど。

 ……心が折れそうになった。運命力もお金にはかなわないらしい。

 長話と今の自爆で精神を削られたのでもうさっさと済ませようと思う。


「店主、ちょっといい?」


 露店の棚の向こうにいる、中年くらいのひょろいおっさんに話しかける。


「ん? なんだい?」


「あんた、ウィリアムさんで合ってる?」


 名前の確認――これがNPCに必要なあたり面倒くさい。無駄にリアリティを追求するからプレイヤーもNPCもどちらも名前が表示されないなんていう面倒な仕様になる。

 発売から半年が経過したビッグタイトルである以上、この手の改善要請は絶対に来ているはずだ。にもかかわらず直さないということはそういうことなんだろう。

 何が何でも嫌がらせしたいという強い意志を感じる。


「ああ、合ってるよ」


「親父さんから依頼を預かってきた。絵本の結末が納得いかないから変えたいんだと。今絵本出せるか?」


「また親父は……何度目だ、これで」


 あの爺さん何度もこんなことしてんの? マジでボケてんの?

 危うく口から出かけた暴言を呑みこみ、クエストを進めるための言葉を発する。


「んで、どう? 出せる?」


「いや、ここにはねえよ。うちにあると思うが……行ってもらってもいいか? 結構遠いが」


「おっけー、場所教えてくれ」 


「ああ、うちはな……」





 教えてもらった場所は街の中心から見て爺さんの家の反対側の隅だった。

 確かに遠い。なんだってそんな離れた場所に住むかね。

 とはいえ、行かざるをえないので教えられた家に向かう。

 遠いといっても同じ街。街の反対で面倒だったが二十分くらいで着いた。

 着いた場所は普通の一軒家。といっても中世風だし、周りの家との隙間もないので狭い印象を受けるが。

 ノックすると奥さんらしき人が出てきた。

 なんだろうな、気が強そうというか、肝っ玉母ちゃんというか、そんな感じの空気を感じる。


「はい? どちら様で?」


「あー、反対に住んでる親父さんの依頼で、絵本を受け取りに来ました」


 我ながら雑すぎる気もするが、さっき露店の息子が何度目だ、とか言ってたし通じるだろ。

 というか、通じた。ふんふんと頷いている。

 敬語になってるのはなんでだろうな? 雰囲気?


「そりゃ悪いねえ。すぐ渡したいところなんだけど、うちのが他の子に貸しちゃったみたいでねえ」


 ……なんか嫌な予感がしてきたぞ。

 ちくしょう、もう何度目だこの感覚。もうなんとなく読めてきたよ、そうか、初めてのおつかれとか言われてる理由はそれか。

 これは、このパターンは……


「今から行くなら誰に貸したか聞くけど、どうする?」


「今から行きます」


「わかった。ほいじゃ、ちょっと待ってておくれよ」


 一度引っ込んだ奥さんを待つこと数分。長い。無駄なリアリティやめろ。ゲームなんだから五秒で戻ってこいや。


「悪いね、遅くなって。地図書いてきたから持っていきな」


「ありがとうございます」


 扉が閉まるのに合わせて歩き出す。

 地図にはかなり入り組んだルートが示されており、距離が近い割には時間がかかりそうだった。

 一応ウィンドウで地図を開いて照らし合わせてみるが、精度以外に差はなかった。これが最短らしい。

 こまめに場所確認した方がよさそうだし、またニ十分くらいかかるな、これ……





 そしてニ十分後。


「ごめんねえ、うちの子が他の子に貸しちゃったみたいで。場所説明するかしら?」


「あ、はい」


 そして別の場所へ。

 またもやニ十分後。


「悪いわね、他の子に貸しちゃったのよ」


「お兄ちゃんに貸しちゃった!」


「近所のお姉ちゃんに渡しちゃったよ」


「ああ、他の子がほしがるから……」


「うちの子が集会所においてきちゃったみたいで……」


「ああ、あれ? 本棚に入れといたんだけど……あ、中身ごと本棚あげちゃった」


「読み聞かせに使ったんだが、どこにやったか……ああ、まとめてあげた本の中に紛れてるかもしれんな」


「あれか? よくわかんないのが混ざってたから近所の子にあげちゃったよ」


 エトセトラ、エトセトラ、etc……





 死ぃぃぃねええええええええ―――っっっっ!!!!


 なんとなく予想してたけどやっぱりたらい回しクエストじゃねーかああああああああっっっっ!!!!


 しかもいちいち遠いんだよ、街中回ったわ! ふざけんな!

 五時間だぞ、五時間! 何カ所回ったとかもう数える気すら失せたわ! 途中から駆け回ったのに五時間かかるっておかしいだろ!

 大体人から借りたもの無許可で貸してんじゃねーよ! そういうことするから今どこにあるかわからなくなるんだろうが!

 

「お嬢ちゃん、もらった絵本どこにあるかわかる?」


 内心の苛立ちを薄皮一枚で覆い隠し、好感度を意識した笑顔で幼女に話しかける。

 この幼女、十分前にもどこだっけと繰り返していた。辛抱強く聞いていたのに途中でおやつとかいって一度消えやがった。危うくふざけんなクソガキって怒鳴りかけたわ。

 そして今、おやつからようやく戻って来たところなのだ。

 これでわからないとか言われたら俺が自制できるかわからない。魔法乱射しながら運営を罵倒するテロリストになるかもしれない。

 しかし、返ってきたのは想像の真上を突きぬけた衝撃の答えだった。


「んーとね、一昨日おじいちゃんが自分が書いたって言ってたから返したよ」


「……………………は?」


 え、なんだって?

 聞き間違いだよね? ていうか聞き間違いだろ? まさか五時間、うち四時間以上駆け回った俺の時間が全て無に帰すような答えはないだろ?


「向こうに住んでるおじいちゃんだよー。カード屋さんのお父さんなんだって」


 はい確定。

 完全に校長先生のことです本当にありがとうございました。


「それは、本当に?」


「私嘘つかないもん!」


 頬を膨らませるクソガ……幼女。


「はは、ごめんごめん。教えてくれてありがとね」


「ううん、いいよ。バイバイ」


「はい、バイバーイ」


 笑顔で手を振って走り去る絶望の使者もとい幼女を見送る。

 よく笑顔を保った、俺。おかげで幼女泣かせるルートは回避できた。

 不自然な笑顔を顔に貼り付けたまま、人気のない路地裏に向かう。

 ……さて。 


「ふっざけんなああああああああ────っっ!!」


 プレイヤーおちょくんのもいい加減にしろやクソ運営があああああああああああああああっっっっ!!!!

 何がしたいんだよ! もう何回言ったかわかんないけど何がしたいんだよ運営は!

 街中駆け回って結局元の場所にあるとか、クエストの意味皆無じゃねーか! つーかじじいもなんで覚えてないんだよ! 痴呆か! 一昨日のことくらい覚えとけや!

 今日だけで何度叫んだと思ってんだクソが!

 あああああ、もう!

 地団駄を踏みまくり、内心の怒りを吐き出す。

 

「ふぅー……ふぅー……」


 路地裏で荒げた息を整える。

 傍から見たら不審者だ。


「……いくか」


 じじいに痴呆を指摘してクエストクリアだ。
































 ニ十分後、じじいは会うなり謝ってきた。もう見つけていたらしい。

 指摘すらさせてくれないのか……


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