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所持金:0から始める下層生活


 無一文になりました。


 いやね? デスペナは重複するっていったじゃん? しかも短期間に殺されまくったじゃん?

 結果、初期資金200クロンは消え去りました。ついでに経験値の取得効率が2の15乗分の一とかいう数学の世界かな? みたいな数値になってやることがありません。それもう絶対0だろ。

 あ、ゴブリンにも殺されてるから16乗か。まあ0を半分にしたところで0なんだけど。なんという虚しさ。

 ていうか何もやり遂げてないじゃねーか! 街を出た成果が何もないよ! 美味しい餌になっただけかよ!


 ウィンドウを見ても、LV2の文字と初期装備が虚しく映るだけで何も――ってあった! そうだ、素材があった!


 ノーマル・ラビットの毛皮×2

 ノーマル・ラビットの肉×2


 いける、これを売れば――


 ――40クロンになりました。

 ちなみに、一番安いポーションが100クロン。買えねえ。

 結局、空腹値がやばかったので全額使ってパンの耳を買ってしまった。

 空腹値は激しく動けば動くほど、そして死ねば死ぬほど減りやすいらしい。

 そりゃ15回も死ねばそうなるわな。


「どうすっかな……」


 パンの耳をかじりながら呟く。

 味がリアルなあたり切ない。何が悲しくてゲームでパンの耳を食わなければならないのか。心なしか周囲の視線も憐れみを帯びている気がする。

 VRゲームって味とか食感はあっても満腹感は感じないから、それを利用して美味いものたくさん食べるのが普通なんだけどなぁ。なにこの極貧生活。

 理由に関しては肉体が咀嚼してるわけじゃないからとかいわれてるけど正確なところは知らない。おかげでVRで餓死する心配はないので助かっているが。

 もそもそとパンの耳を咀嚼する。

 この硬さといい、パサつく感じといい本当に無駄にリアルに作りやがって。このリアルさはパンの耳とかじゃなくて別の食べ物で感じたかった。せめてパンの白いところがよかった。


「……よし」


 食べ終わった。

 さあ何をしようか……といっても選択肢なんてないけど。なんたって無一文だし。

 今あるものといったら時間(ただし経験値効率絶望的)と死んでもほとんどデメリットがないこの体だけ。

 要するに何もない。

 元手なしでやれることなんて戦闘以外ではクエストと相場は決まっている。 

 本当はリスポン地点の設定したかったんだけど……『宿代250クロン』で察して?

 なおこの街で一番安い宿だ。物価高くない? ていうか騙された人はリスキルのせいで資金足りなくなるし、絶対狩りにいくじゃん。そして高確率でまたリスキルに収束するじゃん。これわざと設定しただろ。

 ……クソ運営すぎる。

 とりあえず、他にやることのない俺はクエストに挑むために移動を開始した。





 はい着きました、街の片隅にあるご老人の家。

 このクエストは有名であると同時に必須のクエストの一つだ。

 通称:初めてのおつかれ

 内容がちょいちょい変わるのであまり前例があてにならないらしいが……もう攻略サイトの情報信じられないんだけど。

 ていうか通称おかしいだろ。あと前例があてにならないのになんでそんな嫌な感じに具体的な通称がついてるんですかね。アレな雰囲気がぷんぷんする。

 帰りたい、けどやらないといけない。

 このクエストをしないと、Fランクカードが使えないのだ。


 このゲームのカードシステムは、カードの使用に資格を定めている。友人から強いカード貰ってパワーレベリングとかされても興ざめなので、あった方がいいシステムだろう。

 カードのランクによって資格は異なるが、以下の通りになっている。


 Fランク……特定クエスト

 Eランク……LV30以上

 Dランク……LV60、下級職以上

 Cランク……LV100以上

 Bランク……LV150、中級職以上

 Aランク……LV250+特定クエスト


 ランクがAを越えるカードはAランクの資格を得るクエストさえクリアしていれば使えるらしい。そこまでいけばパワーレベリングでもなんでも勝手にしろ、ってことなんだろう。

 俺にとっては雲の上の話だが。

 なお、セットできる枚数も成長によって変わってくるが……今は一枚しかセットできないし関係ないか。

 重要なのはFランクの資格クエストをクリアすることだ。

 この資格クエ、結構種類があるんだが街の外に出たり戦闘が必要だったり、ものによっては最初に前金を払う必要があったりするらしい。

 安全性……というかリスポン地点の設定してないので死の危険のあるものは却下。いずれ戦う必要はあるが、経験値無駄になるから今戦うの嫌なんだよ。このゲーム熟練度の概念ないから経験値ないと戦う意味ないし。

 なので、クエストだ。

 どんなに嫌な予感がしても死の危険はなさそうだし、大丈夫……たぶん。





 ご老人の話を聞く限り、クエストの内容は以下の通りだ。

 街の中央で露店をやっている息子に孫に読ませるための自作の絵本を渡していた。しかし、結末を変えたくなったので受け取ってきてほしい。足を悪くしていなかったら自分で行ったのだが、悪いな。全く昔の儂ならこの程度の些事で人を煩わすことなどなかったのじゃが、情けない限りじゃ。怪我にしたところで昔ならばここまで大きなものにはならなかったというのに(この辺で長くなる予感を感じる)、いやはや歳をとるというのは不便なものじゃな。お主のような若者にはまだわからんかもしれんが、若い時間というのは貴重なものじゃ。儂が若い頃は(このワードを聞いてつい面倒そうな顔をしてしまう)……む? なんじゃその顔は? 何を面倒そうな顔をしておる(長くなるフラグを踏んだことが確定。物理的な脱出ルートを確認)。まさかじじいの戯言とでも思っておるのか? 全く、これだから今どきの若者は。礼儀というものを知らん(心の中でスキップ連打)。儂が若い頃は礼儀のなっていない若者は周囲総出で叱ったものじゃが、今はそういうこともなくなってしまったからの(スキップ、スキップ、スキップ!)。いいじゃろう、儂が説教してやろう(スキップコマンドなんてなかった)。


 そもそもじゃな、今どきの若者は生かされているということを認識しとらん。自分が何によって生きることができているかを理解しておらんのじゃ。それでは感謝を向ける対象もわからんし、礼を尽くす意味というものも理解できん(頑張って真面目な顔を保つ)。

 家族、友人、周りの大人、目に見えるものだけで行かされておるわけではない(心の中で短縮版と叫んでみる)。その服を作ったのは誰じゃ。服の材料の布を作った人は誰じゃ。布の材料になる家畜や作物を育てたのは誰じゃ(もう無理だと悟り、食パンを食べていた頃を懐かしく思う)。

 それだけではない。そうしたお主が身につけるものを作った誰かもまた、他の誰かに生かされておる(開始から一時間も経ってないのを承知で回想に入るもリスキル、ゴブリン、武器詐欺と怒りだけがこみ上げる)。自分が食べる食事を作った人に感謝するのは当然じゃ。素材を育てた人間に感謝するのも当然じゃ。糧となった生き物に感謝するのも当然じゃ(回想がチュートリアルに入ったことで怒りのあまり回想をシャットダウン)。

 自分に関することだけではない(聞いてましたよといわんばかりの頷きを入れる)。自分を支えてくれる見えない人々、その見えない人々を支える人にも感謝をささげる必要があるのじゃ(回想中聞いてなかったため話が完全にわからなくなる。もう一回回想に入ろうとするも運営への殺意が沸き上がり断念)。そして見えない人々を支える人々にもまた、彼らを支える人々がおる(ついに小さくスキップと言ってみる)。

 そうやって感謝の輪を広げていけば、最後には世界中の人々が自分と繋がっていることがわかる(奇跡を信じてスキップ連呼)。今だけではない。過去に生きた人にも支えられておる。むしろ過去の方が遡れる分多くの人と繋がっているといってよい(突然スキップを始めたらどんな顔するかなとか考えだす。連想ゲームが始まる)。意識しないだけで人は信じられないほど多くの存在に生かされておるのじゃ(スキップ→ステップ→ジャンプと思考がジャンプ)。これを普段から意識して過ごせば(ジャンプ→プリン。しりとりに移行しかけるも心が死んで一瞬で終了)生かしてくれる存在に恥じることないよう(プリン……プリン……。ついに連想すら成り立たなくなる)、善い行いを心がけて……(意識が飛ぶ。たぶんロールプレイを貫いたんじゃないかな)…………………………





 ……はっ!

 しまった、長話を回想してさらに時間を使ってしまった。

 ちくしょうあのじじいが丸々一時間も話しやがったせいだ。心が乾ききったじゃねえか。 

 いやまあ、割といいこと言ってはいたよ? 後半覚えてないけど。

 でもさ、どんなにいいこと言ってても聞く側にそのつもりがなければ響かないんだよ。理屈じゃないよ、感情だよ。

 つーか話をするタイミングおかしいだろ。初対面かつ頼み事する相手に何一時間も説教かましてんだ。しかも同じこと何度も言いやがって。三回目あたりで痴呆を疑ったわ。五回目に至ってはループ系クエストかと思った。

 チュートリアルの完全版のくだりもあったし、どうせこれも運営の嫌がらせなんだろ?

 回避不能はよくない。

 いや、それ以前に嫌がらせがよくない。


「はぁ……」


 まあいい。精神に深刻なダメージを受けたがもう乗り越えた。さっさとクエスト終わらせよう。


みんな大好き、校長先生のお話。

話が短いだけで校長先生の好感度が跳ね上がるあの現象に名前を付けたいです。

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