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逃れられない輪廻の輪

 うーん……文字数の調整が難しい……

 

 リスポン地点は草原だった。地面が見える程度の草丈。街近くの草原だ。

 ……街じゃないのか。てっきり最初の広場にリスポンするものだと思っていたが、そういえば最初のリスポン地点については説明がなかった気がする。

 ていうかどこだよ、ここ。壁は見えるから壁沿いに歩けば門につくとは思うが。

 いやもう、この際それはいい。

 ゴブリンにやられた。

 ゴブリンだ。

 これがフィールドボスに倒されたとかならまだ格好もつくが、ゴブリンだ。

 雑魚だ。初期装備でこん棒を何発も耐えられたし、完全に雑魚だった。

 ……………………。


「くっそがあああああああああああああああ!!!!」


 怒りのままに吠えた。

 自分への怒り一割、運営へ九割。あ、あとゴブリンにも少し。

 十割超えたが気にしない。そんなもん今はどうでもいい。

 とりあえずさ、運営。カルテット・シナジー・クエストの運営さんよ。


 素直に言えやああああああああああああああ!


 ぶっ殺す、あの音声ガイド絶対殺す!

 なんだよあの思わせぶりな言葉は! 絶対誰にでも言ってるだろ!

 意味ありげに情報出すなよ! ただの詐欺じゃねーか!

 なんでチュートリアルに罠を張り巡らせてんだよ! 無意味に罠に嵌めてんじゃねーよ!

 プレイヤー騙して何がしたいんだ運営はあああああああ!


「あああああもうっ!!」


 とりあえず地団駄を止める。近くに二人の男が来たからだ。

 目立ちすぎたか。


「初期装備、初心者か。どうした? ゴブリンにでもやられたか?」


 他のプレイヤーが話しかけてきたこのとき、俺はあの心得を思い出すべきだった。

 すなわち"声をかけてくる奴は敵だ"


「わかります?」


「そりゃね。俺達も引っ掛かったし、誰もが通る道さ」


 頭を掻くおっさん達。

 仲間はいたらしい。よかった、俺だけじゃなかった。

 ついでに被害者を量産している運営へのヘイトが上昇する。


「そんで、こっから先も誰もが通る道だ」


 おっさんが笑顔で剣を抜き、当たり前のように俺に突き刺した。

 あまりに自然な動きに反応できなかった。


「……え?」


 視界が回る。

 暗転する直前、俺を殺したプレイヤーの声が届いた。


「カルシナにようこそ、ニュービー君!」


 ――そして、ここから洗礼が始まった。


「え?」


 なぜに? どうしてキルされた?

 ……あ、PKか!

 あまりに突然かつ自然すぎたせいで気づくのが遅れた。

 なんだあの手際。流れ作業みたいだったぞ。


「くそ、やられた!」


 このゲームのデスペナは所持金の半分喪失と経験値の一定時間半減。しかも重複する。

 二回死んでしまった以上、所持金も経験値も既に四分の一だ。

 ちくしょう、無駄に死んだ。騒がず速攻で街に行くべきだった。

 周囲を見回す。同じような場所だがあの男がいないということは、街の近くではあってもまた別の場所なのだろう。

 とりあえず街に向かって一歩踏み出す。

 衝撃を受け、宙を舞った。


「なんで!?」


 油断しきっていたため受け身も取れずに地面に激突する。

 なんだ、魔法か?

 くそ、どこから撃たれ……あっ

 種類すらわからない二発目の魔法が直撃し、俺は死んだ。





 後から知ったのだが、この初っ端のリスキルは初期組を除いて新規プレイヤーの通過儀礼となっているらしい。

 どんなゲームだ。世紀末が舞台のゲームをしているなんて聞いてないんだが。

 ただ、仕組み自体は無駄によくできている。

 運営が最初のリスポン地点について一切説明せず、どの攻略サイトも打ち合わせしたみたいにこういう道連れを作る系の情報は一切書かない。そのため、大概の人がリスポン地点を設定せずに街を出る。

 草原に出た初心者はゴブリンの罠か、他の運営の悪意に満ちたモンスターか、初心者狩りか、プレイヤーが適当にしかけた罠辺りに引っ掛かるかして死ぬ。

 そうしてリスポン地点を設定していないプレイヤーが死ぬと、街近くの草原にランダムにリスポンする。そして周辺でリスキル出待ちをしている初心者狩り達に襲われるのだ。


 ちなみにこの初心者リスキルだが、レベル差がありすぎると意味が薄い。そのため、犯行側は大抵低レベルだったりする。

 つまり、リスキルされた初心者がゲームプレイ中に運営の悪意が詰まったモンスターに苦戦し続けた結果、これ新規勢をキルした方が簡単で効率よくね? という結論に至るわけだ。

 こうしてかつて自分をキルしたプレイヤーと同じことをするようになるわけである。

 なお、こうした初心者狩りは初心者とレベルが離れてしまったが初心者狩りを獲物にするにはちょうどいいレベルの初心者狩り狩りに狙われる。特にリスキル出待ち勢は場所が割れているため狙われやすい。

 その対策に数で自衛したりしているが、初心者ごと味方をキルするといった裏切りも多発するためあまり有効な対策にはなっていない。


 なんでプレイヤー間で食物連鎖じみた関係が出来上がってるんだよ。そういうゲームじゃないだろ。運営は何で止めないの? バカなの?


 ただうまくできているもので、本来初心者がリスポンにはまると抜け出せないのだが、初心者狩り狩りによって間引かれた場所や出待ち勢が少ない場所に上手くリスポンすることで抜け出すことが可能になるわけだ。それまでに十回くらい死ぬことになるが。

 ほんと無駄によくできている。なんというか、あれだ。世紀末とか思ってたけど、自然による循環の仕組みができているということはどっちかというとサバンナなのかもしれない。

 俺の位置は生態系の底辺だけどな!


「くそ、またかよ……あ」


 周りを囲まれていた。

 こっちもまたかよ!

 正面の男が剣を抜く。


「初めまして、さようなら!」


「ちょっ!」


 視界が暗転する。

 リスポン。


「こんにちは、死ね!」


 暗転。

 リスポン。


「歓迎するよ、じゃあね!」


 リスポン。


 リスポン。リスポン。リスポン。リスポン。リスポン……





 ……十五回、実に十五回ものリスキルを経て、ようやくチャンスが来た。

 門が近い。そして理由は知らないが出待ちが近くにいない。


「やっとか……」


 精神的ダメージから急いで動けず、ゆっくりと一歩目を踏み出した――が、近くに矢が突き刺さったことで意識が切り替わる。


「くっそ、来やがった!」


 振り向くと遠めに追ってくる初心者狩り達の姿が見える。

 弓構えてやがる、あいつか!

 まずい、街まで逃げ切らないとまた同じことの繰り返しだ!


「死んで、たまるかあああああああああっっっ!!」


 もう一度リスキル地獄とか全力で御免被るわ!

 ジグザグに門へ向かって駆けだす。

 矢が頬を掠めるが、無視。

 全力で追ってくる死から逃げる。

 戦う? 無理に決まってんだろ、こちとら初心者だぞ。逃げるしかない。


「あと少し……っ」


 もう門は見え……!?

 あ、なんだあいつ、門のすぐそばででかい剣を構えて出待ちしてやがる!

 まずい、あそこは通らざるをえない。今回り込んだりしたら後ろからくる死神どもに追いつかれる。

 抜けるしかない。

 奴をかいくぐって門の向こうに行く、それしかない!

 覚悟を決めて詠唱を始める。

 残り、十メートル。

 飛んでくる矢が明らかに俺狙いではなくなった。

 完全に待ち受けている奴を狙っている。お仲間というわけではないらしい。

 (獲物)を横取りされそうだから八つ当たりしているのか、それとも奴をキルした方が経験値的に得になりそうだからか。

 正確な理由はわからないが、チャンスだ。

 後三メートル。

 奴から門までは十メートルもない。二秒もあれば駆け抜けられる。


「死ね!」


 シンプルかつストレートで結構、わかりやすい罵倒は嫌いじゃない。少なくともWWRのカーレースに負けたときに言われた『いやー、楽しかったよ。ギリギリの勝負ができるっていいね。ほんのわずかの差で勝つのが一番楽しい(ドヤ顔&煽りジェスチャー)』という迂遠かつ無茶苦茶腹立つ煽りよりよほどましだ。

 過去の屈辱を思い出すことで急激に思考が冷静になる。理不尽への怒りが薄れて普段の感じが戻ってきた。

 男の言葉と同じく、振るわれた剣はストレートに真横から迫ってくる。

 悪くない。悪くないが、それじゃダメだ。

 一歩下がってそれを避け、手を突き付けて叫ぶ。


「ファイア・ボール!」


「!」


 男は咄嗟に下がり――何も起きないことに一瞬呆ける。

 悪いな、それっぽいこと適当に言っただけでこんな魔法あるのかどうかも知らないんだわ。

 あるのかないのかはわからないが、こんなそれっぽい状況で効果がわかりやすい名前を叫ばれたら魔法が飛んでくると思うよな。

 あっはっは、バカめ。

 隙だらけの男の横を通り抜け、ついでに手で彼を押すように、意識するように触れながら聞こえるように叫ぶ。


「ハンド・ポイズン!」


「……っ、また嘘か!」


 びくりと一歩飛び退った男は、しかしすぐに見破ってきた。

 お、判断早いな。もしかしてこの魔法はないのか?

 でも一歩下がったのが致命的だ。実在するかどうかはともかく、魔法っぽい名前で(ポイズン)とか言われたらビビるよな。これみよがしに手で触れられてたらなおさら。

 素直すぎだよ、PK。

 その一歩で俺は横を抜けている。門まで後五メートルもない。

 走りながら振り向き、奴の顔に向けて手をかざす。


「エア・エッジ!」

 

「何度も引っ掛かぶはあっ!?」


 残念、これは使えるんだわ。

 風の刃が油断しきった顔面に直撃し、男が見事に転倒する。

 二度の嘘でMP枯渇かなにかで俺が魔法を使えないと踏んだんだろうが、悪いな。そんなこと一言もいってないし仮にいったとしても真実とは限らない。

 お前の敗因は初心者を舐めたこと、自分から近づいて狩りに来なかったこと、そして何より素直すぎたことだ!

 対人で手持ちの札で戦う奴は三流、手持ちの札を組み合わせて二流、手持ちにない札も使って一流よ!

 内心でイキりながら全速力で門を駆け抜ける。ちなみに今のは適当にそれっぽいことを並べただけだ。別に信条でも何でもない。

 もちろん、目を付けられたくないので声には出さない。

 小心者? うるせえこっちは初心者だぞ!

 あと、さすがに知り合いじゃない人にイキるのは気が引けるってのもある。FPSとか格闘ゲームとか多少の煽りは挨拶みたいなゲームならまた別なんだが……。小心者? これに関しては、まあ……ね?

 門を越えてから振り向くと、諦めて外に向き直る男と退散していく追っ手達が見えた。


「よしっ……!」

 

 思わずガッツポーズ。

 時間にして十分もないだろうが、絶望するには十分だったリスキル地獄を、ようやく越えられた。

 俺は、やり遂げたのだ……っ!


 ……まあ、デスペナはしっかり受けてるんですけどね?


 カルシナが煽りは挨拶という世紀末的な意識のゲームであることをシーが知るのはほどなくしてだった……


 というか、初心者リスキルが頻発するゲームに煽りを忌避する意識なんてあるわけがないのです。




 デスペナについてですが、経験値半減の継続時間に関してはそれぞれ死んだ時点から個別に判定されます。二度死んだから継続時間が二倍になるわけではなく、一度目の時点から一定時間、二度目の時点から一定時間、取得した経験値が半減するというわけです。そして、一度目と二度目の継続時間が重なっている間だけ四分の一になります。


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