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そして共犯へ


「どうするって、なにが?」


 そんな『何言ってんだコイツ』みたいな顔するな。

 俺がしたいわ、その表情。


「いや、この状況からどうやって収拾つける気だっていってんの。大混乱だぞ」


「……?」


 心底不思議そうな顔で首を傾げるセンカ。

 ……表情が微妙過ぎて素なのか演技なのか判断できない。


「なんでその反応? 俺がおかしいの?」


「うん」


 食い気味に肯定された。

 ぶん殴るぞ。


「だって、どうするもなにもないよね? 街落とすつもりでやったんだよ? 後始末なんてするわけないでしょ。やるだけやって放置だよ、そんなの」


「……」


 頭おかしいのかな?

 きょとんとした顔で話してるけど、内容は凶悪犯とかが自供した動機にしか聞こえない。ゲームとはわかってるけどヤバすぎでしょ、こいつ。


「そもそも収拾なんてつけられないし。この状況から立て直す方法とか知らないもん。落として、暴れて、気が済んだら逃げるだけだよ?」


 おーい、運営、見てるかー? ここにBANした方がいい奴がいるぞー。

 むしろなんでBANされてないんだ。思考回路が運営と似てるからか? それとも運営に愉しみを提供してるから?

 ……どっちもありそうだな。もう運営ごとBANされろ。


「それ、フラグメンツは誰でもそうなのか? 街落とすときはやるだけやって放置が基本?」


「うん」

 

 あっさり頷くなあっさり。

 くそ、想定の数倍イカレてやがる。もはや何度目かもわからないフラグメンツに入ったことへの後悔が湧き出てきた。今回は過去最大級だ。

 CRPKの犯人としてしばかれて悪評を背負うより、フラグメンツのメンバーだって知られた方が長期的なマイナスは大きかったんじゃないだろうか。割と真面目に。入ったところでCRPKの犯人って悪評は消えないし。むしろこんなヤバい奴ってことで流布されるし。

 このままだと報復されにくいってメリットに釣り合わないほどイメージが酷いことになりそうだなあ……


「時間は多少かかるけど、それでも数日程度で街も再建されてるし、そこまで問題ないんじゃない? あったとしてもBANされてないってことは許される範囲ってことだよ、きっと」


「……」


 責任を放り投げた発言に閉口する。

 まあでも、センカはともかく、数日で再建してる以上運営の方は頑張ってるってことか? あの運営もやることはやってんのか。

 ……いや、一瞬感心しかけたけど違うだろ。そもそもその仕様直せば済む話じゃねえか。余計な仕事背負ってまで愉悦を優先するのか。やっぱ一回死ぬべきだな。


「一応聞くけど良心の呵責は?」


「ココロガイタムナー」


「よし、よくわかった」


 ないんだな、うん。知ってた。

 最初から期待してなかったし。ノータイムで棒読みが返ってくるとは思ってなかったが。迷わずボケるな。一瞬でいいから葛藤しろ。


「ふぅー……」


 よし、もうこの際諸々どうでもいいや。俺がどうするかだけ考えよう。知らん、俺に責任はない。

 さて、どうするか。

 脱出するのかプレイヤーキルするのか色々考えるところはあるが、そうなってくると気になってくるのがもう一人の居場所だ。


「ヨツバはどうした?」


「ざっと回って目ぼしいの狩ってくるって言ってたよ。この街にそこまで強いプレイヤーとかいないと思うし、そろそろ戻ってくるんじゃない?」


「……希望も残さないってか」


 面倒そうなプレイヤーは予め狩っておく、と。容赦ないな。

 俺はどうしようか。

 ヨツバと合流して混乱中のプレイヤーを狙撃しに行ってもいいんだが、下手に協力すると放浪魔法使いの補正がマイナスになりそうなんだよな。

 ああ、そういえばさっきここに来る直前にセンカに連絡した後も魔法の威力は変わってなかった。放浪魔法使いの補正において、センカが召喚した騎士は何人いようがまとめて一人として判定されるのだろう。つまり、センカの呪術射程の外で、騎士も連れず、ヨツバとも合流せず一人で戦う分には味方なしの判定で補正がかかるわけだ。

 やっぱソロの方がいいな、うん。


「じゃあ俺も行くわ」


「プレイヤー狩り?」


「……」


 いやまあ、そうなんだけど。そうなんだけどさ、もうちょっと言葉をぼかせよ。レベリングとか経験値稼ぎとか、もうちょっと言い方あるだろ。

 やることは変わらないけど。


「待っててもやることないし、戦ってくるだけだ」


「……あれだけ責めるみたいな言い方しながら結局利用するんだ」


「あっはっは、聞こえないなあ」


 ジト目を向けられたがスルー。

 別に俺が街落としたわけじゃないし。状況に乗るだけだし。

 ……まあ、褒められたことじゃないのはわかってるけどね? でも元凶に責められる筋合いはないわ。


「やっぱりシーもフラグメンツのメンバーだね」


 おっと、このゲーム始めて以来最大の侮辱をされたぞ? BFTEなら撃ち殺してたところだ。


「やらかしているのは自覚してるけど、お前らよりマシだわ。主犯が他人事みたいに評するな」


「それもそうだね。そういえば原因作ったの私だった」


 普通それ忘れる?

 どういう思考回路してんの? いやボケだとは思うけど。ていうかボケであってくれ。


「自覚した感想は?」


「ココロガイタムナー」


「聞いた俺がバカだった」


 ダメだ、こいつは良識という回路が思考から抜け落ちている。手遅れだったんだ、最初から。

 会話を切り上げ、センカに背を向けて街中へ向かう。

 しかし、数歩進んだところで呼び止められた。


「待って待って。忠告だけど、適当なところで切り上げた方がいいよ。街が完全に陥落するとリスポン地点の設定が無くなるから」


「無くなるって、その状態で死んだらどうなるんだ?」


「ニューウェル行き。街周辺の草原でリスポン」


「クソすぎない?」


 初期化じゃん。

 いや、リスポン地点って基本的に安全地帯だし無くなることなんてそうそうないからこその仕様なんだろうけど、だからこそ酷い。周辺の街とか直前の更新地点とかにしとけよ。ファビアだからまだいいけど、上の方で落とされたら悲劇じゃねえか。ある程度進んでたのにニューウェルまで逆戻りとか最悪すぎる。ついでに高レベルプレイヤーが突然湧いてくるニューウェルの方から見ても災厄すぎる。

 これ手抜きとかじゃなくて嫌がらせだろ。

 ていうか、お前もお前だよ。そこまでわかってて街を落とすな。大迷惑以外の何物でもないじゃん。理性って言葉知ってる?


「ちなみに、完全陥落の条件は?」


「んー、NPCの数とか職業とか色々要素が関わってくるから結構複雑なんだけど、大雑把にいうならモンスターが街の全体に侵入したら、かな? 例外もそこそこあるけど」


「そこまで分析できるほど経験があるのか……」


「ふふん、十回や二十回がきかないよ?」


 うわー、ドヤ顔。褒めてねえよ。

 ていうか演じてます感バリバリだし、わかっててやってるよなこいつ。いい根性してるわ。


「ここの門以外はモンスターが殺到して詰んでるから、戻ってくるならここね。適当なタイミングで私も脱出するし、あんまり長くこないならおいていくからちゃんと戻ってきてよ?」


 むしろおいていかれた方がいいんじゃないか? 俺の評判的な意味で。

 主犯と一緒に脱出する姿を見られたら終わりだろ。悠長に会話してる時点で既に終わってる気もするが。

 というか、ちょっと意外だ。


「待っててくれるのか? てっきり放置されるもんだと思ってたが」


 センカが頬を膨らませる。

 怒ってますアピールか。本性を知らなければ可愛いと感じるんだろうけど、こんだけの所業をやった上に昨日の水晶独角獣戦で素っぽい姿を見ているおかげで欠片もそういった感情が浮かんでこない。むしろ引く。


「もう、そんな酷いことしないよ! 助けられるなら助けるもん! 同じコミュニティの仲間でしょ?」


「……本音は?」


「今はまだ余裕あるし、見捨てたらヨツバちゃんに怒られる……善意だよ!」


「手遅れだよ」


 本音ボロボロ漏れてたじゃねーか。お前は水を注いだざるか。まだ手の方が零さないわ。


「はぁ……もういくわ」


「いってらっしゃーい」


 呑気な声が背中に届く。

 一見正しいようだけど、今からPKをしようって人間にかける言葉じゃないよな。


 これ、要は犯人に会って共犯になっただけですよね?


 凶悪犯シーはおいておくとして補足を少し。

 ある程度上層のプレイヤーは転移など短縮移動手段を使用できるのでたとえニューウェル送りになってもそこまで苦労しません。

 が、ニューウェルにいるリスキラーは突然現れた高レベルプレイヤーを初心者と思い込んで確認もせずに襲ってしまうことが結構あります。近くにリスポンしたプレイヤーは状況を把握される前に(そして誰かに取られる前に)殺せ、が基本なので無理もないといえば無理もないんですが。

 まあ、突然そこら中から(拠点にしていた場所が落とされるという大迷惑を被って機嫌の悪い)高レベルプレイヤーが出てくるわけですから、一種の悪夢ですね。カルシナの高レベルプレイヤーとか思考が染まりきっている人も多いので、例え襲われてなくとも八つ当たりで周囲の低レベルを殺すくらい普通にします。

 結果、普段とは違う阿鼻叫喚が生まれ、落とされた場所とニューウェル周辺、二カ所を見ながら運営は愉悦するわけです。

 まあ、その後は落とされた場所の再建に労力をつぎ込む羽目になるんですが。自らの仕事を増やしてまで愉悦を優先するこの執念はなんなのか。


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