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強きもの、未だ遠く 1


 ――固有種。

 原典種、神格種と並ぶ三大種の一つ。超越種や変異種と違い、単独で()()し、個として完成している存在。

 彼らはシステム上の血縁を持たない。自然発生し、最初から最後まで個であり続ける。

 その強さは桁数で表され、二桁という強さは下から二番目。

 だが、下から二番目だからといって侮ってはいけない。二桁だろうが一桁だろうが固有種であるだけでそれは強い。

 まして、相性差があるならなおさら。





「で、どうする?」


 二人に質問する。

 俺は役に立たない。これはもう職性能とか関係ない。超越種のときと同じで、根本的なスペックが違いすぎて役に立てない。

 情けないが、丸投げするしかないのだ。

 

「……やるしかない、か。ヨツバちゃん、お願い。シーは雑魚が出てくるようなら露払いを」


「任せて」


「わかった」


 剣を抜いたヨツバがセンカを庇うように立ち塞がり、俺は後方に下がる。先手を打とうとセンカが呪術を発動する。

 水晶独角獣の足元から黒い文字の鎖が沸き上がり……


「っ!」


 角の水晶が輝き、その文字が吹き飛ばされた。


「呪術耐性……? ってまずい、ヨツバちゃん!」


 警告は一拍遅かった。

 目にもとまらぬ速度で突っ込んだ水晶独角獣は認識すらできない間にヨツバを吹き飛ばす。


「――っ!」


 突撃を喰らったヨツバが高々と宙を舞う。


「やっば……っ! 死霊召喚(サモン・キルソウル)!」


 センカの叫びと同時に、黒い靄のようなものが周囲に溢れていく。 

 その靄から、中身の見えない騎士鎧が出現した。

 一体、二体、三体、四体、五体……

 ……いや、多くね?


「おおぅ、マジか」


 現れた騎士の姿は優に三十を超えていた。

 一体一体の強さは俺程度では測れないが、少なくとも俺より強いのは確実だろう。これだけいればタンクの代わりに――


 水晶独角獣の突撃で五体が吹き飛ばされ、靄となって消える。


 ――ならないのかー。これでも無理か―。

 五体でこの様。これじゃ肉壁になるかならないか程度だ。

 となると、前衛がいてくれないと困るんだが……ヨツバは?

 さっき吹き飛んだ方を見ると、ちょうどヨツバが突っ込んでくるところだった。とりあえずは無事だったらしい。

 剣を小脇に抱えるような体勢――突撃でもする気か? しかも全身に黒い光が纏わりついて……


「"積み重なるは(えにし)の呪い"!」


 黒い輝きが大地を伝って水晶独角獣に纏わりつく。ほんのわずかに動きが鈍った。

 お、効果あり?

 しかし儚い希望は一瞬で砕かれた。

 水晶独角獣が嫌そうに首を振ると、水晶の角が輝き始める。


 放たれた光が黒い輝きを消し飛ばした。


「そんな!?」


 ヨツバが悲鳴混じりの驚愕を漏らす。


「相性最悪……っ」


 忌々しそうに吐き捨てるセンカ。もはや小動物の雰囲気は欠片もない。


「……」


 それを手持ち無沙汰に遠目に眺めていた。やることないんだよ、マジで。取り巻きいるタイプのエネミーじゃないし、雑魚も出てこないし。

 もういっそ逃げようかな。でも、逃げたらあとでこいつらに殺されるよな。死ぬ気で戦ってるのに自分だけ逃げ出されたら俺なら殺す。

 となるとここにいるしかないんだが、何もできないのにただ巻き添えになるしかないとか究極につまらない。


「おぉ、ストライク」


 水晶独角獣の突撃でさらに十体の騎士が吹き飛ぶ。

 圧倒的じゃないか敵軍は。一体だけど。

 突撃が止まった隙にヨツバが黒い輝きを纏った剣を叩き込んでいるがあまり有効には見えない。

 薄々察してはいたが、まさかこいつら両方とも呪術系か? 見た感じ水晶の角が輝く度に呪術っぽいものが無効化されてるし、もしかしなくても絶望的なのでは?


「これは、無理ゲーか……」





「ああもう! 面倒くさい!」

 

 普段なら絶対見せない荒れた声色でセンカが叫ぶ。

 フラグメンツのメンバーしかいないということもあるが、それ以上に戦況がまずいのだ。


(想定外がすぎる……なんでこんなところで固有種と戦う羽目に)


 無駄と知りつつ呪術を叩き込む。即座に水晶独角獣の角が輝いて無力化される。


(割に合わない!)


 呪術は一回一回何らかの代償が必要になる。代償が軽いもの、代用できるもので回しているが、それにしたって出費は高い。一瞬時間を稼ぐ効果しかないにしてはぼったくりがすぎる。


(本来、私とヨツバちゃんがいれば二桁の固有種くらいなら十分勝てる。少なくともここまで苦戦はしない。LV750オーバーの、しかもプレイヤースキルもそれなりにある最上級職が二人がかりで倒せないほど二桁は強くない)


 呪術で一瞬を稼ぎ、ヨツバが立ち回る隙を確保しながら頭を回すセンカ。

 センカの見立ては正しい。時間はかかるだろうが、二桁程度なら今いるメンバーで倒せない相手ではない。

 問題は準備がなかったこと。

 彼女達は低レベル帯に行くということで大した用意もしていない。ポーション類はある程度あれどアイテムや武器などは完全ではない。全部が全部自身が持てる最高のもの、というわけではなく、直前にいたエリアに特化した今この場では舐めプに分類される装備もある。

 そして、もう一つ――


(私達と水晶独角獣の相性が最悪だってこと。私の『呪霊将』もヨツバちゃんの『天呪騎士』も呪術系の職業。対して水晶独角獣はまず間違いなくかなり高い呪術耐性持ち。事実上私の攻撃は通じない上に、ヨツバちゃんの手札もかなり制限される)


 センカが唇を噛む。

 

(クラスBの呪術も通じない以上、呪術耐性は最低でもクラスB相当。……いや、違う。水晶が輝くまでは通じてるってことは条件発動の呪術耐性。本体に耐性はないと考えていい。なら角を切り落とす? 方針としては悪くないけど、可能かというと微妙……)


 システム的に可能かもわからない。システム上は可能だとしても硬さがわからない以上、現在の手札でできるのかは不明のまま。試してみるしかないが、試すのもかなり無理しなければならない。蘇生アイテムも持ってきてない以上、ヨツバが脱落すれば詰みといっていい。

 現状、賭けに出ざるをえないほど追い詰められてはいないのだ。決定打に欠けるとはいえ、ヨツバの近接攻撃によるダメージは少しずつ蓄積している。時間がかかり出費が増えていくことさえ無視すれば現状維持で問題ない。少なくとも水晶独角獣がなにかしてくるまでは。

 

死霊召喚(サモン・キルソウル)


 盾代わりの騎士を再度召喚する。

 この呪術に必要となる代償は『プレイヤーキル』

 今までキルしたプレイヤーの数だけ召喚数をストックし、それを消費することで中身のない騎士を召喚する。

 召喚された騎士の強さは

 ①キルしたときの自分と相手の相対的レベル差

 ②キルした総数から①の平均値を算出

 ③算出された②の値を今の自分のレベルに照らし合わせる

 ④照らし合わせた③の値と同等のレベルの平均的な騎士の性能がそのまま適用される。


 という計算で決定する。

 仮にレベル10のときレベル12のプレイヤーとレベル14のプレイヤーをキルした場合、②の値は13、当時の自身のレベル×1.3になる。

 そのままレベル100になると、召喚される騎士の強さはレベル130相当になるわけだ。 

 つまり、自分のレベルが高くなるほど強化される。反応やスキル、技術などは召喚者のプレイングを参照する部分もあるため、そう単純にスペックだけで測れるものでもないのだが。ここでは例えとしてレベル10を出したが、実際のところこの呪術習得以前のキルはストックとして扱われないという問題もある。

 また、PKをすれば意思に関わらず自動的にストックされるため格下をキルしすぎると騎士は弱体化する。一定数以上PKしようと思えばどうしたって格下の方が多くなってしまう以上、自分より強い騎士を召喚するのはほぼ不可能だ。事実、センカが召喚した騎士一体一体の強さはなったばかりの最上級職にすら及ばない。

 ちなみに、センカがPKをしているのはこの呪術を習得する以前からである。別にこの呪術のためにPKをしているわけではない。

 

「また……っ」


 水晶独角獣による一度の突撃で十体近くの騎士が消し飛ぶ。 

 召喚された騎士は30体。普段から街を落としたり虐殺を仕掛けたりとPKしまくっているセンカにとって百や二百では消費としても痛くも痒くもない。だが、五百、六百となれば少しずつ痛くなってくる。一度召喚した騎士は戻すことはできず、時間で消える。普段からこの呪術を多用しているためストックは無尽蔵とはいかないのだ。

 一分持たずに十体が消えていく現状は決して歓迎できるものではない。


「……どうしよ」


 別に一章のラスボス戦ではないです。ラスボス前の中ボス戦的なアレです。……いやほんと、中ボス戦なんですよね。もう40話なのに。うん、巻きます。

 予定では一章は50話で終わるはずだったんだけどなあ……(絶対無理)

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