センカ先生の街落とし講座 座学編
サブタイが物騒すぎる……ん? 座学編?
結局、同行を受け入れた。
条件として案内を頼み、代わりに戦ってもらう。これなら俺が戦う必要がないからバレない。
その代わり経験値を諦める羽目になったが、これはもう仕方ない。下手に一緒に戦えば寄生プレイになってしまう。現状なら俺に経験値も入らない以上案内でしかないし、一応理由もあるからギリギリ寄生でないと妥協できる。
放浪魔法使いについて明かせばまた違ったのだろうが、明かすほどこの二人を信用できない。出会ったばかりな上に裏しかなさそうなセンカはもちろん、善良っぽい……比較的善良っぽいヨツバにしてもまだ会って二日。その上どちらもフラグメンツのメンバー、つまり頭がおかしいプレイヤーだ。掲示板で同じ職業を発見できなかったほどのレア職業、明かすには色々足りない。
で、それはそれとして。
「やることないな……」
暇だ。
ガンガン進めるのはいい。おかげで周囲の崖も低くなっていき、もうすぐ渓谷エリアを突破できるところまできた。それはいい。強い二人のおかげで隠れる必要もなくなって歩きやすい川岸を進めたのもありがたい。
でも、暇だ。
なにせこの二人が強すぎる。
二人はどっちもLV700超えの最上級職だそうだ。そんな最上層プレイヤーがこんな初心者に毛が生えたようなフィールドにいれば、初心者に毛が生えたようなプレイヤーがすることはなくなる。
今もデカいトカゲが出てきたが、瞬殺だ。
職業は教えてもらってない――シーはなに? とか聞かれると困るから聞けない――が、ヨツバが騎士系、センカが呪術系か。まあ、前衛単体でも後衛単体でも何の問題もないほど実力差があるんだが。一撃で終わるので連携とか必要ない。
怖いわー。強すぎでしょこの人達。
せめてカエルを気持ち悪がったりしてくれれば可愛げもあるが、普通に瞬殺だった。たぶんやろうと思えば俺も同じように殺される。
ヤバいプレイヤー相手に自衛手段がないってめちゃくちゃ不安になるわ。隠したいことがあるとなおさら。
一応味方だとわかっちゃいるんだけどね?
「やることないならいいこと教えてあげよっか?」
センカが笑顔で話しかけてきた。
「どんなこと?」
暇すぎるので会話に乗る。『いいこと』とか言ってるしからかうつもりなんだろうが、それをわかってても乗るくらい暇なのだ。
しかし、返ってきた言葉は予想と次元が違った。
「題して、街の落とし方講座! パチパチー」
「……HA?」
発音が狂うほど混乱した。
何言ってんのこの人。テロリスト?
「私達が街を落としたー、みたいな話を聞いても、やり方知らないでしょ? 知ってる人あんまりいないもん。でも、フラグメンツ入るなら知ってて損はないよ?」
何度目の突っ込みかわからないが、それでも突っ込もう。どんなコミュニティだ。
でも、たしかに疑問がないわけではなかった。街の中は安全地帯だ。イベントやクエストでもない限り街中にモンスターが現れることはない。プレイヤー同士にしても、決闘ならともかく、PKは不可能だ。……プレイヤーがNPCに危害を加えるのは一部の場所を除き可能だが。
「種を明かせば簡単な話でね、カルシナの街って『一定以内の範囲に一定以上の量と密度で敵がいた場合、突発的イベントが発動して街中の安全地帯モードが解ける』仕様があるの」
「……最初に見つけた奴はなんなの?」
ようはモンスタートレインとかそういう手法で街の近くにモンスターをおびき寄せると人為的に安地が解けるっていうことだろ?
誰だよ、見つけた奴。
「会ったことあるでしょ? フラグメンツの創設者。アルフェンだよ」
「……」
頭おかしい人しかいないな、本当に。ていうかカルシナ始めてから頭おかしい人以外と知り合ってないってどういうことだ。
「モンスターを集める手法は色々あるんだけど、まあそれは後回しにして。とりあえずそれさえすれば安全地帯は解けちゃうの。その後は当然モンスターが街になだれ込む。あとは火をつけたり適当にPKして内部分裂させたりすれば街は落ちちゃう」
『ね? 簡単でしょ?』とでもいいそうな顔でセンカが言い切る。
「ね? 簡単でしょ?」
言いやがった。
保護したくなるような笑顔を保っているが、ドス黒い何かが見え隠れしている。ダメだ、こいつは完全に邪悪側だ。
救いを求めてヨツバに視線を送る。
「それが一番基本的なやり方ね。集落レベルだと仕込みもいらないから多少は楽にできるわ。まったく、安全地帯さえなければもっと簡単に愚民を間引きできるものを」
あ、こいつもダメだ。
言動が悪の総帥の人に救いを求めた俺がバカだった。
「教えてくれてどうも。絶対使わないわ」
「気にしないで。あとでもうちょっと詳しく教えてあげるね?」
完全に作ったであろう嬉しそうな笑顔で告げられる。
絶対使わないの部分はスルーか。ていうかそれ知ってるだけでまずい情報じゃないよね?
「……絶対使わないからな」
自分に言い聞かせるように呟く。
いや、別に自信が無くなってきたわけじゃない。なんかそのうち良識の基準がフラグメンツレベルまで染まってしまう気がしているわけでもない。大丈夫、大丈夫なはずだ。俺は染まらない。
「やろうと思えばここからでもトレインはできるんだけ……ど……?」
楽しそうに話していたセンカの様子が変わる。
ほぼ同時にヨツバの表情も変わった。
二人が顔を見合わせる。
「これ……」
「うそ……センカちゃん」
「うん。たぶんそうだね。どっちかはわからないけど、ちょっとまずいかも」
おーい、説明プリーズ。
まったくわからん。指示語が多いよ。何が起きてるんだ?
埒が明かないのではっきり聞く。
「何があった?」
「索敵にいるわけないものが引っ掛かったの。いや、いてもおかしくないんだけどまさかいるとは思わなかったっていうか……」
「?」
やっぱりわからん。
しかし、二人は明確に焦っているらしく俺の疑問に答えることなく会話を進めていく。
「見えた。ヨツバちゃん、桁わかる?」
「ううん、遠すぎる。でも、そんなに高くない、と思う」
「だといいけど」
厳しい表情のままセンカが呟く。
ヨツバは素早くウィンドウを開き、いくつかの装備を入れ替えながら口を開いた。
「センカちゃん、勝てる?」
「どうだろ、桁によるけど二人だとちょっとキツいかも……」
「逃げるのは?」
「無理。もう捕捉されてる。今からじゃ間に合わない」
もう完全にSキャラロールを忘れているヨツバ、口調のあざとさが安定しなくなってきたセンカ。余裕がなくなっていることはありありとわかる。
しかし、原因はわからない。
……桁?
桁で判断される存在って、たしか……
「おい、桁ってまさか……」
「正解」
振り向きもせずにセンカが答える。
「このあたりにいるにしては強すぎるモンスター。クエストみたいな例外を除いて、そういう条件に合致する存在は超越種、変異種、固有種、原典種、神格種の五種。でも、超越種は遭遇確率が低すぎる。いない種の方が圧倒的に多いくらいだし、まず遭えるものじゃない」
……昨日遭遇したばっかりなんだが。
やっぱあれって相当希少な事象だったのか。
「変異種もありえない。変異種は元のモンスターより少し強くなる程度。このあたりのモンスターじゃ私達を警戒させるような変異種は生まれない」
まあ、だろうな。
変異種はようするにただの突然変異。強くなるにも限度がある。このあたりのモンスターなら十倍強くなってもこの二人をここまで警戒させることはできないだろう。
なら、残りは三つ。
「神格種もない。クエストなしで神格種が出てくることはほとんどない。となると原典種か固有種。このうちクエストや発生場所といった脈絡なく出現する可能性が高いのは……」
――解答が発されようとした瞬間、疾風を纏ってそれが現れた。
体高二メートルはあろうかという巨大な馬。どこを見ても純白の輝くような毛並みをしている。爪まで真っ白だ。
そして何より、巨大な水晶の角が一本、その額から屹立している。
"二桁級固有種 水晶独角獣と遭遇しました"
カルシナにおける初めての三大種との戦い。
それは、ある意味で超越種以上に苦い記憶となる。
説明が面倒なのでセンカはわかっていながら省きましたが、文中で示した条件は安全地帯モードを解く条件としては正確ではありません。
正確には『その時点で街とその周辺にいるPC、NPCの総戦力』『攻め寄せてきたエネミーの質』『攻め寄せてきたエネミーの数』『攻め寄せてきたエネミーの空間当たりの密度』を考慮して街防衛の突発イベントが発動し、同時にエネミーが侵攻できるように安全地帯モードが解けます。
もちろんこの条件とは関係なく、イベントの一環として安全地帯が解けることもあります。
余談ですが、街中などでのクエストの最中だとクエスト対象者だけダメージを受ける仕様に変わることも割とあるので、街中だからといって絶対死なないとは限りません。




