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お前はやりすぎた


 とりあえず、進むことにした。

 MP回復ポーションはほぼないとはいえ、HP回復ポーションはある。相性から考えてもガードナーも倒せないわけではない。時間はかかるかもしれないが。

 夕飯は……まあ、諦めようか。今更だし後で素直に怒られよう。

 それより今は――


「グルル……」


 嗅ぎつけてきやがったクソ狼どもをどうにかするとしようか。

 何回目だよこいつらの相手するの。あれだけ逆襲したのにまだカモだと思われてんのか? まあ、今のレベル帯的にソロで動いてればそう思われても仕方ないんだが。 

 同レベル帯で18匹。数少ないMP回復ポーションは使いたくない。となると、いつものように当たったら終わりの綱渡り式狼狩りをするしかない。

 ははっ、クソゲー。


「おらあ、換金材料落とせやあ!!」


 追剥みたいな声を上げて戦闘開始。似たような台詞がプレイヤー相手でも平然と飛び交っているのがこのゲーム。『金落とせやあ!』とか『死ね貯金箱!』くらいなら始めてから日の浅い俺ですら聞いたことがある。ほぼ罵声とはいえモンスター相手に躊躇するわけがない。どうでもいいけどプレイヤー相手に貯金箱はひどすぎませんかね。

 とりあえず発光魔法で視界を確保、続けて詠唱しつつとりあえず距離を――あ、やべ。囲まれてた。もしかしてこいつらシャドー・オウルとの戦いのときから遠巻きにしてた? それで疲労したプレイヤーを殺すと? いや、思考ルーチンが悪辣すぎるだろ。野生動物でもなかなかしないレベルだぞ。


「ダブル・エッジ」


 二本の風の刃がニ匹の狼の胴を切り裂く。

 まず二つ。素材を考えると頭だけを潰して胴体はそのままにしたいんだが、囲まれてるという地味にピンチな状況なので切り抜けることが優先だ。


「アクア・バレット」


 またニ匹の狼が吹き飛ぶ。順調、ではあるがこのペースだと全部倒し切る前にMPが尽きる。

 んー、MPは自然回復に任せるしかないし、時間かかりそうだなー……って危なっ!


「ウィンド・アクセル」


 左右斜め前と後方から飛びかかってきた狼三匹を躱すために身を屈めつつ前方に急加速。普通にあぶねえ、魔法がなければ死んでいた。移動系魔法の詠唱時間が短くてよかった。

 しかし、囲まれてる以上急加速した先にも狼が待ち受けている。


「っ! ウィンド・サークル!」


 円形の突風で一時的に安全圏を作り出す。ほんのわずかな時間だが、精神的な余裕を取り戻すには十分だ。

 これだから囲まれてるのは嫌なんだ。どこに向かっても敵がいるとかオワタ式にとって最悪の状況だ。正直避けきれる自信はない。

 まあ、死んでもいい状況ではあるし殺れるだけ殺って死に戻りしてもいいんだが、というかシャドー・オウルに挑んだ時点でそのつもりだったんだが、気が変わった。

 だってさあ……


こいつら(クソ狼)に殺されるのは腹立つ!」


 飛びかかりを避けつつ風の刃を叩き込む。

 フォウアへの道を数十回邪魔された恨みはまだまだ残っている。ハンティング・ウルフに殺されるのは死ぬほど嫌だ。こいつらに殺られるくらいならモンスタートレインしてでも逃げる。

 というわけで全部狩る! 時間がかかる? 上等、時間かければ勝てるってことだろ!


「アクア・バレット!」


 二匹を潰す。これで半分。

 間合いを保つように立ち回りつつ先読みして移動系魔法を詠唱。飛びかかってきた狼を潜り抜けるように走りつつ発動し、一気に囲みから抜け出す。

 MP的にはあと1発が限度。そこからは回復待ちの逃げ回りタイムになる。囲まれないように捌きつつ逃げ切ってやろうじゃねえか。


「エア・アロー」


 俺を追い抜いて回り込もうとした一匹を潰し、木を利用してさらに距離をとる。MPポーションは使わない。使うとなんか負けた気がするから。

 そんなもんに頼らなくてもハンティング・ウルフごときどうにでもできる。たぶん。いやできないかもしれないけど。さすがにやばいんじゃないかと思い始めてきた。

 突撃してくる狼を躱し、囲まれないように全力で走り回り、詠唱を……しても意味がなかった。MPがない。

 やばいな、魔法が、というか攻撃手段がなくなった途端に危機感を覚えてきた。魔法撃てるようになるまで逃げ続けるとか無理ゲーすぎない?

 一度に二匹殺るにしても四発分。MP回復速度に補正が入っているとはいえ、これは……

 放浪魔法使い便利だーとか思ってたけど、MP切れると完全に役立たずになるな。手のひら返すようだけど近接職になりたい。せめて普通の魔法職に。物理攻撃がまともにできるならここからだって打開できるのに、物理攻撃威力が半分になるとかどうしろというのか。ナイフもどうせ無駄と思って買ってないし、現状は文字通り徒手空拳だ。

 やばいなー、マジでやばいなー。


「ぶねっ、っと」


 跳んでくる狼を受け流し、追撃とばかりに蹴りを叩き込むが威力が出ない。まったくダメージが出ていないわけではないが、カスダメだ。一応急所っぽい顎に叩き込んだのに。これ、徒手で倒すには一匹につき数十、下手すれば百発以上の攻撃が必要になりそうだ。

 いや、無理でしょ。ってかまずい、回り込まれそう。このままだとまた囲まれ――仕方ない。

 MP的にダブル・エッジやアクア・バレットなんかは厳しいが、エア・アローならギリギリ撃てる。これだと一匹しか殺れないから溜まるまで待ちたかったんだけど……


「エア・アロー」


 回り込んできたハンティング・ウルフの頭が弾ける。さすがにリアルそのままではないけど、でもグロいよ。前から思ってたけどもう少しマイルドに表現しろよ。このゲーム全年齢対象だろ。

 死んだ狼の横を駆け抜け、完成しかけた囲みを突破する。

 この繰り返しが一番確実っぽいな。立ち回り一つミスれば囲まれるし、そうでなくとも一撃でも喰らえば畳みかけられて死にかねないのは変わらないが。





 数分後。


「しつこい……」


 残り三匹。どうにかここまで来た。

 ハンティング・ウルフと数十回戦ってきて、残り三匹まで追い込んだことも何度もある。そしてその度に思うんだが、逃げろよ。普通ここまで仲間が殺されたら逃げるだろ。最後の一匹になっても襲ってくるとかこいつら殺意高すぎない?

 運営のリアリティを追求するところとしないところの基準がわからない。……いやごめんわかるわ、どうせプレイヤーを殺せるか否かとかそういうところだ。こいつらが最後まで逃げないのもギリギリで生き残ったプレイヤーを相討ちでもいいから殺したいとかそういうことだろ。やっぱカルシナの運営は思考回路がぶっ飛びすぎている。そのまま大気圏から飛んでいけばいいのに。

 溜まっていく運営へのヘイトはとりあえず脇において、こいつらを狩り尽すとしよう。数が減って囲まれても問題が無くなったのでMPも貯められているのだ。今ならアクア・バレットでも撃てる。

 ばらけていて射線が確保できないから一匹ずつやった方がよさそうだけど。


「エア・アロー」


 頭に直撃、良質の換金素材確保。ついでに襲ってくる二匹を身を屈めて躱す。

 まあ待ってろ、お前らもすぐに狩って……ん?

 狼が動きを止めた。


「……?」


 怯えたように周囲を見回し、身を縮めている。

 なんだ? 初めて見る様子だ。なんとなくやばいことはわかるが、しかし本当にやばい相手ならハンティング・ウルフとはいえ逃げ出すはずだ。それが動きを止めて小さくなるだけという中途半端なことしかしない理由が理解できない。

 まあ、休憩できるし時間も稼げるからラッキーといえば――っ!?

 ガサガサという音が聞こえた。いや、聞こえ続けている。


「なんの音だ?」


 かなり遠くからの音だった。それが凄まじい速さで近づいてきている。

 正体はわからないが、かなり大きい。たまに木が倒されたような音もしている。でも、この森にそんな大きなモンスターが出るなんて情報はなかったはず。一体何が?

 その答えはすぐにやってきた。


「はあっ!?」


 ()()を見上げて思わず叫ぶ。まさしく『はあ!?』だ。意味がわからない。なんなんだこいつは。

 見た目は毛の長い狼。長毛種というのか? 目元まで覆われていて視界があるのか心配になってくる。全体的にモフモフしていて可愛いといえるんじゃないだろうか。

 

 ――体高5メートル前後の巨体でなければ、だが。


「……いやいやいやいや、ないだろ」


 でかいよ、本当にでかいよ。

 ハンティング・ウルフの体高が個体差はあれど1メートルない程度。毛の長さも違うし、同じモンスターには見えない。

 しかし、ログに表示されているのはハンティング・ウルフの名前だ。目の前にいるのは周りで縮こまっているのと同じ種類であるとシステムが告げている。

 唯一違う点はレベルが表示されていないこと。これはバグっているわけでもレベル差がありすぎてわからないわけでもない。心当たりがある。

 超越種(レベルオーバー)。各種別に設定されているレベル上限を突破した存在。ハンティング・ウルフのレベル上限は知らないが少なくとも200はあるだろう。それ以上でもおかしくない。

 そんなもんがなんでいるのかは知らないが、ありえそうなのは一定期間に一定以上のハンティング・ウルフを狩ることを条件に出現、とかか? 偶然って可能性もないではないが、超越種なんてある意味固有種以上に激レアな存在に偶然出会えるとは考えにくい。

 まあ、理由が何であろうと結末は決まっている。

 え? 勝ち目? あるわけないじゃん。掲示板で見かけた以上の情報は知らないけど、超越種っていうのは元々のモンスターとは比べ物にならない強さを持つそうだ。種としての限界を突き抜けた性能を発揮するとか。

 もう絶望しかない。徒歩で戦闘機とレースしろとか言われてる気分だ。

 ははっ、無理ゲー。


 同一種のモンスターを一定期間に狩りまくるとその種の超越種が出現しやすくなるのは主人公の推測通りですが、しかしパーセンテージにしてコンマ以下の単位でわずかに上がるくらいのものです。さらに今まで殺したモンスターの割合が一定以上偏っている場合にも出現しやすくなりますが、いずれにせよ一万分の一が九千分の一になる程度の話です。つまり、シーが超越種と遭遇したのは純粋な不運です。

 もうこの主人公はハンティング・ウルフに呪われてるんじゃないですかね(適当)


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