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予行演習(チュートリアル)

 チュートリアルの相手はゴブリンだった。

 音声による指導を受けながら、さらっと魔法で倒す。

 詠唱系初級風魔法『エア・エッジ』二発分。

 風の刃が意外と速かったため上手く当たらなかったが、急所にさえあてれば一撃でどうにかできそうだ。

 チュートリアルを終えたタイミングで音声ガイドが最後とばかりに仕事する。


『あなたは面白い動きをしましたね』


「!?」


 おっとぉー?(テンション爆上げ)

 ガイドにしてはおかしなセリフだ。

 戦闘タイムか、場所か、よくわからないが何かフラグ立ったか?

 落ち着け、返答をミスるなよ。


「そうか?」


『はい。なので、一つお話をします。お聞きになりますか?』


「もちろん」


 運営とのフラグ、逃してたまるか。

 ……この時邪悪な気配を察知していればあんなことにはならなかった。そう、これはチュートリアルなのだ。カルシナ運営がどういうものかを知るための。

 そんな未来の知識は当然このときには反映されない。

 チャンスとばかりにそれに乗る。


『ゴブリンは基本的に集団で行動します。しかし、運が良ければ(・・・・・・)一匹でいるゴブリンを狩ることができるかもしれません』


 それだけ言うと沈黙する。

 しばらく待ったがガイドは何も言わなかった。


「どういう意味だ?」


『戦闘チュートリアルを終了しますか?』


「なにか他には?」


『戦闘チュートリアルを終了しますか?』


 なるほど、これだけか。

 情報が少ない気がするが、何をすればいいかはわかりやすい。

 これはゴブリンに会いに行けということだな。

 まあ、探す必要もなさそうだし楽でいい。ゴブリンなんて最初のエリアにいるだろ。

 狩ってから考えよう。


「終了する」


『了解しました。続いて世界観チュートリアルを開始します。完全版、短縮版、スキップから選んでください。注意、途中でのスキップは不可能です』


「ちなみにどれくらい違うんだ?」


『短縮版は2分です』 


「……」


 何故完全版の長さを言わない。

 普通両方言うだろ。百歩譲って片方だとしても長い方を言うだろ。


「完全版は?」


『短縮版より長くなっております』


 だから何故ぼかす……っ。

 怪しい。怪しすぎる。

 あれだ。FPSで不自然に敵に出会わずに進めているときみたいな、まるで特定の選択肢を選ばせようといわんばかりの罠的な気配を感じる。

 この手の勘に引っ掛かる以上、疑ってかかるにこしたことはない。何もないならそれでいいわけだし。


「具体的に」


『30分です』


「バカじゃねーの!?」


 長すぎんだろ! 仮に聞いても覚えらんねーよ! 何を考えてその設定にしたんだよ!

 これ、情報集めを優先して時間を確認せずに完全版を選ぶ奴いただろ。今ならまだいいけど、サービス開始直後だったらスタートダッシュで大怪我だぞ。

 バカなの? それとも嫌がらせなの?


「……短縮版で」


『本当によろしいんですか』


「短縮版で」


 逆によろしくないと思う理由を知りたい。

 運営は何考えてんだ。30分とか朗読劇じゃねーか。


『短縮版はこのゲームの概要を示すだけのものです。よろしいですか?』


「いいよ」


『完全版に比べ情報量は劣ります。よろしいですか?』


「いいよ」


『メタ視点もあり雰囲気を壊す可能性があります。本当によろしいですか?』


「いいっつってんだろ」


 しつこい。

 何が何でも30分聞かせたいという謎の執念を感じる。

 そんな長いならネットで探すか解説書読むわ。聞くより読んだ方が早いし確実だ。


『了解しました。解説を始めます。

 カルテット・シナジー・クエストは大きく四つの大規模シナリオで構成されています。

 予め設定されたストーリーを進めてラスボスの打倒を目指すゲーム的要素の強いメインクエスト。

 フィールドなどの自然領域を開拓していくことで進行するハント要素の強いワールドクエスト。

 遺跡や迷宮など人口領域を踏破し、旧支配者たる旧時代文明の秘密を探るSF要素の強いグランドクエスト。

 現実の出来事や神話と繋がった謎を解き、この世界の秘密を探る謎解き要素の強いカーディナルクエスト。

 どのシナリオも並行して進めることができます。当然、シナリオに関わらないで自由に過ごすことも可能です。

 また、レベル表記のないエネミーとして固有種(ユニーク)原典種(オリジン)神格種(マイソロジー)が存在します。

 独自の分類方法がありますので、興味があれば探ってみてください。

 なお、固有種はワールドクエストに、原典種はグランドクエストに、神格種はカーディナルクエストに深く関わっています。

 以上で説明を終わります。完全版をお聞きになりますか?』


 なに? そんなに話したいの?

 そこまで話したいなら何故短縮版を作った。二択にすれば聞いた奴もいただろうに。

 とりあえず短縮版に目新しい情報はなかった。解説書に載っているレベル……それ以下だ。解説書がわりと厚め(単行本とまではいわないがフリーペーパー並み)だったせいもあるんだろうが、短縮版だけあって情報量が少ない。

 ていうか、この情報量から察するに完全版って解説書の内容喋るだけだろ。

 30分あれば朗読できそうな量だったし。


「いや、いい」


『本当に――』


「いいから。解説終了で」


 その芸風はもう見た。

 しつこい誘いを食い気味に切り捨てる。


『了解しました。では最後に、キャラクター名を決めてください』


 あ。

 やべ、何も考えてなかった。

 んー、名前か……。まあ本名捻ればいいか。

 戸原冬希だから――いやめんどいな。いつもの名前流用しよう。


「シー・フォーで」


『シー・フォー、でご登録でよろしいですか?』


 しつこ――くない、これは正常な確認だった。

 まずいな、わずか数分で完全版の後遺症が出ている。よろしいですか三連発のインパクトが強すぎた。


「シー・フォーで登録する」


 由来は爆薬のC4だ。なんでそんな名前なのかは……まあ、いつか話すこともあるんじゃないかな。なんのゲームかは言わないけどC4突撃祭りがあったとだけ言っておく。


『了解しました。それではこれで全チュートリアルを終了します。楽しいゲームライフをお送りください』


 その声と共に視界が切り替わっていく。

 そして、ゲーム世界に身を投げる。


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