悪酔強酒、見て見ぬふりをする
評判は不安だが、どうしようもないので今はスルー。それより装備を揃えたい。しかし金がない。ならどうするか。
「素材を売ればいい」
幸い、クソ狼の素材は豊富にある。これを全て売ればそれなりの金になるだろう。
というわけで売ってみたら、驚きの仕様発覚。
殺し方によって素材の量と質に違いが出るらしい。
ハンティング・ウルフでいえば胴体をズタズタにしたりしてしまうと肉や毛皮の量や質が落ちる。炎系魔法もあまりよくない。一方、頭に一撃でキルすればかなり良い状態の素材が多く手に入る。
後半に殺したハンティング・ウルフは半分以上が頭に一撃だった。それもあって買取価格も高く、約百匹分のハンティング・ウルフの素材を全て売ったら29600クロンになった。大金だ。
これだけあればそこそこの装備が買えるだろう。
ホクホクしながら歩いていると隣のヨツバから質問が飛んでくる。
「それで、どんな武器がほしいのかしら? 人を殺しやすいもの? 街を潰しやすいもの? 国を落としやすいもの?」
あなたは魔王か何かで?
……ああ、それだ。さっきからSキャラロールにしては違和感あると思ったら、発言と実績が悪の総帥っぽいんだ、こいつ。基本的に不慣れでたどたどしい上、心配そうな顔で言うから気づくのが遅れた。
んー、指摘するべきなのかもしれないけど、ロールプレイって自己満足の部分も大きいしなー。本人が満足してるならそれでいい気もする。ついでにいうなら放置した方が面白い気もする。
それとなく聞いてみよう。
「話変わって悪いんだけど、Sキャラロールで気をつけてることって何?」
「? 人を傷つけることだよ?」
返答が素だった。メタ発言みたいなことされると素に戻るのか?
あと発言単体で聞くと怖すぎる。完全にイっちゃってる人だ。
「それは、どうして?」
「Sキャラって人を傷つければいいんでしょ?」
発想が悪の組織の幹部とかそういう感じですね、これは。この認識で突っ走ったから無差別キルとかしたんだろうなあ。とりあえず面白いから放置決定。
たぶん気づいた人も俺と同じような結論に至ったから放置したんだろうなあ。フラグメンツにはクソ野郎しかいないのか。
「ああ、その通りだよ。よくわかってるじゃん」
まあ、俺も全力で乗っかるけどな!
嘘もといお世辞を本気にしたヨツバは少し自信を持ったように何度も頷く。
「そう、そうだよね。最近なんかおかしいなって思ってたけど、大丈夫だよね」
大丈夫じゃないです。あなたは単なるやべーやつです。言わないけど。
指摘しないままさらっと話を戻す。
「それで、ほしい武器だっけ? 回避主体にしたいから動きの邪魔にならない大きさで、詠唱短縮がついてる武器。あと物理防御が高くて動きやすい服と軽い靴、Eランクのカード二枚」
下級職になったことでカードが二枚セットできるようになった。これは結構大きい。
「……うーん、それだと杖はダメだよね。いや、短くて小さい杖なら……? とりあえず見てみようか。……あ、私をエスコートさせてあげるわ、光栄に思いなさい」
「……」
うん、もういいや。
突っ込み放棄。
魔法系の武器を売っている店をいくつか回ったが、いいものはなかった。21世紀前半に世界的に大人気だったイギリスの某魔法学校の杖的な武器もあり、長さも取り回しもいい感じだったのだが……細すぎて割と簡単に折れるんだよ。どれも木製だし、耐久に不安が残る。
そうなるといい感じの魔法系の武器という物もなく、さてどうしたものかと悩んでいるのだが……
「もう武器は諦めて指輪とかにした方がいいかもしれないね……あ、いいわね、全く飛んだ無駄足だったわ」
「指輪?」
「武器じゃなくてアクセサリーの類よ。普通は杖と合わせて使うものだけど、いっそ指輪だけでもいいかもしれないわ。多少貧弱にはなるけど動きやすいでしょう。羽虫には合っているんじゃないかしら」
「ちょっと見てみるか」
そのままアクセサリー店へ移動。もう言動に突っ込みはいれない。『これで合ってる?』みたいな不安そうな視線も『傷ついてない?』みたいな心配そうな顔もスルー。ていうか後者に関してはそんなこと気にするくらいならSキャラロールなんてやろうとするな。できてないけど。
ヨツバがフラグメンツのメンバーだって知ってるプレイヤーは近づいてこないからいいんだが、ちょくちょくそういう事情を知らないプレイヤーがヨツバに絡んでくる。顔が整ってるから気持ちはわかるんだが、やめてほしい。いや、絡んできた相手に悪の総帥ロールで対応するせいでいちいち喧嘩が勃発しそうになるんだよ。本当にトラブル製造機だった。
普段なら放置するところだけど、今は時間を取られたくない。装備をさっさと決めて放浪魔法使いの職性能を試しに行きたいんだ。
というわけで仲裁、場合によっては話しかけること自体を防ぎつつ店を回る。
逆鱗に触れたら……いや、ロールプレイの琴線に触れたらフォウアごと壊しかねない。さすがにそれは困るので、止めてるこっちも結構必死だったりする。
「効果は詠唱短縮だったかしら?」
「ああ、そうだよ。それが最優先」
店内で飛んできた質問に応える。
ソロ魔法職なんてやる以上、とにかく攻撃回数を稼ぐことが重要だ。MPを増やすより威力を上げるより詠唱時間を縮める方が優先される。
コンマ一秒だろうと縮められるなら縮める。コンマ一秒でも十回魔法を撃てば一秒だ。その一秒で勝負が決まることもありえる。
「可能ならカードも詠唱短縮にしたい」
「徹底してるね……」
呆れたように素で言われた。
どうでもいいけど言い切ったあとに『やばっ、素で話しちゃった』みたいな顔するのやめない? 突っ込みいれないといけない気分になる。そんな義務ないのに。
「ソロだから、とにかく詠唱時間が致命的なんだよ。できる限り短縮するに越したことはない」
「ええと、ま、精々頑張ることね。愚民は泥臭く這いまわるのがお似合いよ」
言葉に詰まるくらいならやらなきゃいいのに。趣味に口出しする気はないけど。
はっ、突っ込んでしまった。
いや別に突っ込んだら負けみたいな勝負はしてないが。
「いくつかあるけど、もう少し回ってみた方がいいかも……しれないわね、愚民」
「んー、回ってみるか」
でも、思ったより時間食ってるんだよなあ。色々トラブルが起こりかけたりしたとはいえ、アルフェンとの遭遇から数えれば二時間は超えている。いい加減決めて外に行きたい。あと一時間くらいでどうにかするか。
というわけで一時間と少しで決めた。
詠唱短縮のみに特化した指輪に、適当に見繕った革装備の服、敏捷上昇効果の靴、そしてMP回復速度上昇と敏捷上昇のEランクカードで総計27300クロン。余った金でポーション類を買い漁りデスペナ対策も済ませる。
それにしても、あの食あたり治療薬がどれだけぼったくりかがよく分かる。ちなみに詠唱短縮効果のEランクカードはなかった。
準備を終えただけでまだ試してはいないのだが、現段階でも言えることがある。
見た目から魔法使い要素がなくなった。
ローブもない。杖もない。商人プレイでももう少しましだわというほど身軽。短剣すらも身につけていない。グローブもないし、知らない人が見ればこいつはなにで戦うつもりなのか目を疑うだろう。
そりゃ、オワタ式の魔法使いなんていないよなあ。魔法職なら普通はパーティーに参加するものだ。威力を上げる方向で杖やローブを用意するのが定石といえる。
誰だよ、身一つでフィールドに出ようとしてる馬鹿は。俺だけど。
「魔法使い感ないね……」
普通に指摘された。まあ、ですよね。
「短剣ぐらい身につけた方がいい……と思うわよ。武器が何もないなんて思われたら小蠅がたかってくるわよ」
隙だらけに見えて襲われる、と。それはその通りかもしれないけど、短剣は短剣でそこそこ重いんだよな。ハッタリとしてグローブでもつけようかと思ったけど、システム的な重量は無視できない。軽ければ軽いほど敏捷は上がりやすいらしいし、着けないに越したことはなさそうなのだ。
隠密もスキル上がってるし、カモ扱いされても最悪逃げ切れるんじゃないかという予測もある。
「いや、これでいいわ。やるだけやってみて、駄目だったら替えるさ」
「そう。ならいいわ。勝手にすることね」
さて、そろそろ行くか。無駄とはいわないが、さすがに時間かけすぎた。
「付き合ってくれてありがとう。ここらでいいよ」
「別にもうしばらくついていってもいいわよ? 適当にプレイヤーをキルしてれば暇潰しもできるわ」
魔王かな?
このセリフには関しては不安そうでも何でもなくきょとんとして言っているのが恐ろしい。
ていうか目立つからやめて? 俺も共犯扱いされるから。
「いや、いいよ。元々ソロだし、ソロで動かないと意味がない」
それに、下手についてこられると味方判定されてしまう。放浪魔法使いは完全ソロでなければ役立たずだし、そうでなくとも職業は何とか聞かれると困る。
「ならいいわ。また今度会いましょう。それまで精々生きていることね」
「ああ、また今度」
ヨツバと別れ、俺は街の外へ出た。
悪酔強酒……望んでいることと実際の行いが食い違っていること
いや、誰とは言いませんが。




