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一時間あれば英気は養える


 とりあえず宿屋でセーブした。これで死んでもフォウアに戻れる。

 そして一度落ちる。少し調べたいことがあったのと、少し早めの昼食にしようと思って。あと頭使って疲れた。


「さて、最終職、だったか」


 そんな情報初耳だぞ?

 カルシナを始める前の情報だと最上級職が現状最高位の職級だったはずだ。

 

「……やっぱりない」


 掲示板を巡っても一切出てこない。

 知っている人間はいるかもしれないが、表に出てこない程度には秘匿する価値のある情報ということか。もちろん誰も知らない情報を先んじて得た可能性もある。

 どういうことにせよアドバンテージだ。アドバンテージだが……


「まだどうしようもないな……」


 名前の響きからして最上級職のさらに先、もしくは先の先とかそういう職級だろう。

 俺はレベル51の下級職。最上級職への転職にはレベル500が条件になる。現状では役に立たない。使い道といったら高レベルプレイヤーとの交渉材料とかだが、交渉もなにもまともに関わったプレイヤーがいない。世捨て人プレイとかするつもりなかったのに。関わったプレイヤーって俺を殺すか俺に殺されるか見殺しにされるかだぞ。なんでこんな血生臭いんだ。


「誰か誘うか……? いや、パーティー組めないのか」


 選択肢なんてなかった。

 数千万のプレイヤーがいるオンラインゲームで誰とも関わらないとか、なんだそれ。フレンドリストとか埋める以前に開いてすらいないぞ。悲しすぎる。


「……なんか本気で悲しくなってきた」


 昼食だ、昼食。腹を満たせば気分も変わるだろう。

 パソコンを閉じて階下に向かった。





「あー、今日誰もいないんだっけ」


 しまった、忘れてた。

 父さんは仕事、兄貴は部活。母さんも友達と会うとかで出かけている。

 昼どうしよう。


「カップ麺……怒られるな。買いに行くのも面倒だし……」


 出前? 母さんが帰ってから処刑されかねないから却下。

 炊飯器に米はあるから適当に肉焼いてもいいんだが、作るってのもなあ。別にいいんだけどあとで洗い物するのすごい面倒くさいんだよ。

 そう思いながら冷凍庫を開ける。

 肉はなかった。


「……買いに行くしかないじゃん」


 しゃあない、行くか。





 三月もそろそろ終盤に差し掛かるとはいえ、まだ暖かいといえるほどの気温ではなかった。


「うわ、寒っ」


 すぐ行ってすぐ帰ろうとしたため適当な服装を選んだのを後悔する。もっと厚着してくればよかった。でもわざわざ着替えるためだけに戻るのも面倒くさい。

 自転車に乗ろうとし、しかし向かう先の駅には止める場所がないことに気づく。歩いて十分程度だし、まあいいか。軽く走れば暖まるだろう。

 ジョギングくらいのペースで走り始める。すぐに駅前についた。

 小さい駅だが、それでもいくつか店はある。パンでも買って帰ろう。

 駅に併設されているパン屋に入る。


「……お」


 広くもない店内には先客がいた。

 いや別に知り合いではないんだが、うちの学校の制服を着ている。春休みなのに。部活か?

 新品みたいにみえるし、新入生が慣らしで着ているとかかもしれない。

 肩にかかる程度の髪に活発そうな顔立ち、結構人目を引く容姿をしている。見たことあったら覚えてそうだが、どうだろう。一個下……いや同い年か? わからん、さすがに学年の女子全員に見覚えあるかと聞かれれば否だ。ていうか男子でも会ったことない人はいる。そもそも同じ駅を使っている時点で見覚えがあってもおかしくはない。

 でも、この駅使ってる人いたんだな。特に探したわけじゃないけど今まで俺だけだと思っていた。

 まあ、新入生なら知らなくても当然なんだけど。


「……」


 あ、凝視しすぎたせいで不審そうな目で見られた。

 会釈だけしてパンの陳列棚に向き合う。

 やばいな、今の俺完全に不審者だった。せめて制服を着ていれば不審度が下がったのに。

 ただ、少女も特に気にしていないようだった。助かった。

 俺も適当にパンを見繕っていく。三つもあればいいか。……もう一ついるか? んー、迷う。

 ってなんだこれ? 新商品、アルファベットクッキーって……それ体積普通のクッキーより小さくね? Cとかスカスカじゃねーか。これで全部値段同じってどうよ。

 スルーして別のパンを吟味していると、小さな声が聞こえた。


「BFTE……ふふ」


「!?」


 見ると、少女はクッキーを買うつもりのようだった。

 B、F、T、Eを一つずつ。

 ……それって『Battle field on the Earth』のことか? 四大ゲームの?

 まあ、全く関係ない略語の可能性もあるけど。実は最近流行りの雑誌とかかもしれない。

 そもそも知り合いでもない女子に話しかける気とかないけど。仮にBFTEやってても話しかけるのはない。カルシナならちょっと迷うかもしれないが。

 会計を済ませた彼女が出て行き、俺も会計に向かう。

 785円。三つに絞ったのにわりとするなあ。

 支払いを終え、家に帰る。





 家に着き、お茶を取り出して食事の用意をする。用意も何も冷蔵庫にあるお茶を入れてパンを並べるだけだが。

 

「いただきます」


 ログインしたら何するかなー、とか考えながらパンを食べ進める。

 とりあえず、いい加減装備はなんとかしよう。下級職まできて初期装備はない。何ならレベル10になったあたりで更新してもよかったくらいだ。

 金はないが、狼の素材だけは豊富にある。昨日も含めて三桁近くキルしたからな。売ればそこそこの金になるだろう。

 ただ、選ぶなら杖以外の装備だ。回避主体敏捷特化のスタイルに杖は邪魔だし、武器スキル習得にマイナス補正がかかるから杖のスキルも期待できない。そうなると邪魔にならない、短剣くらいの大きさのもので済ませたいが……


「そんなもんあるのかね。ごちそうさまでした」


 手を合わせ、立ち上がる。包装捨ててコップ洗う程度だから楽でいい。

 後始末を済ませて部屋に戻る。

 ヘッドギアを装着し、ベッドに横になる。

 カルシナ、ログイン。


 現実サイドの話なんでここにいれるしかなかったんですよね……

 露呈する無計画

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