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その誘い、受けるか否か


 ハンティング・ウルフ、残り6匹。

 距離は十分、奴らも気づいているだろうが直前までタンクを攻撃していたあいつらに即座に俺を狙う余裕はない。

 というわけで先制の一撃。とりあえずダメージを受けてた個体を狙う。


「エア・アロー」


 一匹の頭を直撃、クリティカルでキル。再度詠唱開始。

 狼どもが駆けてくるが、遅い。


「エア・アロー」


 はいさようなら。

 当たったのは胴体だったが、元々ダメージを負っていたせいかあっさり死亡。

 これで残り4匹。


 飛び掛かってくる狼を躱し、前へ。

 残りの3匹のうち2匹は左右に分かれ、俺を取り囲む。

 普通なら良い手だが、その時間が命取りだ。文字通りな。


「エア・アロー」


 三発目。

 正面から飛び掛かってこようとした狼の頭に直撃、キル。

 即座に反転し、後方から襲い来るハンティング・ウルフを躱す。左右の狼の攻撃も凌げないほどではない。

 というか、昨日はこの五倍以上の狼相手にしてたんだ。勝ててこそいないがある程度は耐え凌いだ。それに比べれば攻撃があまりに薄すぎる。


「エア・アロー」


 もう何も考えずに同じ魔法を連発する。思考を放棄した脳死作業だ。

 宙にいるところを狙い、見事にクリティカル。あと2匹。

 この期に及んで前後で挟んで戦う姿には感銘を覚えるが、野生動物としては失格だ。プレイヤーを見てみろ。さっき全滅したパーティーだって逃げられるなら迷わず逃げたと思うぞ? それも仲間を放置して。厳しい生態系を形成しているプレイヤーはその辺りの判断に甘えはない。実際、トリフィル周辺でPKしてるとき似たような光景見たし。それも何度も。


「エア・アロー」


 さっきと全く同じ、飛び掛かってきたタイミングで風の矢を叩き込む。

 はいラストー。

 作業化してきてやる気が少々怪しいが、あと一匹くらいならモチベーションも持つだろう。というか、無くしたとしても失敗する気はしない。


「エア・アロー」


 そして、戦闘は終わった。





 四つ目の街、フォウアは遠目に見ても巨大な街だった。

 ここからは明確な街道はない。三方向に分かれたフィールドを自力で開拓し、進んでいく。進むその先でも分岐はあるため、最終的な道筋は本当に千差万別といえる。

 そして、それらの源流となるフォウアは常時万単位のプレイヤーが存在する超巨大都市だ。

 フォウアが重視される理由はそれに対してもう二つ。

 まず、プレイヤーとしては初級職から下級職への転職が可能になるということ。

 ここ以降の街でも可能なのだが、そもそも次の街までが割と遠く、さらにわざわざ初級職を維持する理由がないのでここで転職していくプレイヤーがほとんどだ。

 そして、世界観的には王様がいるということ。

 一応ここは王国らしく、王都フォウアには王城と王族がいる。騎士団や貴族といったそれっぽいNPCもいるらしい。一部のNPCは最上級職に相当する強さだとか。王族がいることから上層プレイヤーもフォウアを訪れることは多いとか。

 フォウアは、世界観的にもプレイヤー的にも重要な都市なのだ。


 そう、重要な都市なのだが……


「なに、あれ」


 正門からフォウアに入ろうと思い、街道を進んでいたところ。

 なんか正門に変な影がかかっているのが見えた。

 いや、穴というかSF的なワープゲートというか、異常空間ですよと全力で主張している何かというか。巨大な正門全体を覆うわけではなく、しかし地に着いた中央に確かに存在している。

 黒っぽく、縁もゆらゆらと安定感なく揺らぐ謎のゲートがそこにあった。


「……俺しか見えてない?」


 周りを見てみると、俺以外が謎のゲートに気づいている様子はない。王都近くの街道だけあって割とプレイヤーはいるんだが誰も気づいていないというのは異常だ。でもプレイヤーもNPCも普通に王都に入っていく。

 なに? 王都の正門ってそんな謎のゲート的な何かなの?


「いや、そんなわけない」


 仮にそうだとしても誰も驚いた様子がないのはおかしい。初見だって多いはずなのにリアクションをとっているプレイヤーがいない。

 正門への街道を進み、立ち止まる。周囲のプレイヤーが俺を追い越して街に入っていく中、恐る恐る影に触れる。


"クエスト『魔法唱える者へのリドル』を開始しますか?"


「――っ!」


 息を呑み、ついで周囲に視線を送る。

 どうやらログが流れたのは俺だけらしい。

 ユニーククエスト? いや、それならそうと出るか。しかし何らかの条件による特殊クエストであることは間違いない。


「開始する」


 周囲に聞こえないよう、できる限り小声で呟く。

 同時に、謎のゲートが滑るように移動しだした。


「!?」


 っと、マジかよ!

 慌てて追いかける。

 てっきりこの場でゲートに飛び込むもんだと思ってたんだが、違うらしい。さすがにいきなり消えたら目立つだろうから助かるんだが。

 黒い靄のようなエネルギーのようなよくわからない何かの動きはそこまで速くない。早足で追いつける程度だ。

 人が多い中をするすると進んでいく。何度も明らかに人を呑みこんでいるが、すり抜けるだけで特に何かが起こっている様子はない。

 ゲートを追って街を抜けていく。


「っと」


 ゲートが道を折れた。追いかける。

 ゲートは細い路地へと進み、さらに折れ曲がっては奥へ奥へと進んでいく。

 人目につかないのはいいんだが……


「遠いな……」


 っていうか、これ自力で戻れるか? 路地裏を進み続けたせいでもうどこにいるかわからないぞ。

 ……あ。やべ、思い出した。まだ宿でセーブしてないから今死んだらトリフィルまで逆戻りだ。

 それだけは避けたい。真剣に。

 段々焦りを覚えながらゲートを追っていく。


「まだかよ……どこまで行くんだ?」


 というか、なんかおかしくないか?

 どんどん周囲の建物が高くなってるというか、俺が下に向かってる。両隣の民家もかなり高い。見上げても空が僅かに見える程度。体感的にはビルの隙間から空を見上げているような、そんな感覚だ。

 道自体もどんどん薄暗くなっている。

 不安を煽るような状況。即死系の何かがあった場合トリフィルからやり直し。そもそもクエストの種類が一切掴めない。

 多くの要素が焦りを誘導するようだった。


「……いや、落ち着け」


 謎かけ(リドル)っていうなら焦りは禁物だ。思考こそが重要になる。今のうちに情報を精査しろ。

 魔法唱える者へのリドル、名前からするに詠唱系魔法使いへのクエスト。特殊条件はわからないが、今までのプレイングで特殊な点が関係していると思っていい。

 俺が特殊といえる点……CRPK? いや、やり方があれだっただけでキル数だけなら俺以上なんていくらでもいる。時間当たりのキル数ならあるかもしれないが……それだとするとタイミングがおかしいな。トゥエルについた時点で発生してもいいはず。一要素である可能性はあるがきっかけではない。

 他は……装備、あとはソロか。魔法使いがフォウアまで完全ソロはかなり厳しいだろう。ガードナー・オブ・マジシャンで詰む可能性もあるし、ガードナー・オブ・バーサーカーもかなり大変だ。それを乗り越えてもソロの天敵であるハンティング・ウルフが襲ってくる。

 装備にしたところで俺は未だに初期装備。どころか杖がない分それ以下だ。ハンティング・ウルフを6匹殺ったことで今のレベルは51、ここまで来て初期装備のバカは俺くらいではないだろうか。


「つまり、初期装備かつここまでソロで魔法職がフォウアに到達すること」


 条件として妥当そうなのはこの辺りか。正確なところはわからないが、絞れただけで十分。

 そこまで考えが至ったとき、ゲートが止まった。


「っ! これは……」


 井戸?

 路地のさらに隅にあった井戸に黒い影が覆いかぶさり、入って来いよといわんばかりに止まった。

 ……マジで?


「これ、勘違いだったら死ぬよな?」


 もしロープで降りるべきだったり、もしくはまだ誘導途中で飛び込んだらゲートが動き出す、みたいなことになった場合多分死ぬ。井戸に落ちた落下ダメージを耐えられる気がしない。


「……いくしかないけどさ」


 ええい、ままよ!


 俺は黒い影に向かって身を投げた。



 フォウアへの道に限らず、次の街へ向かう街道自体は大量にあります。そうでないといくらインスタント化してもプレイヤー達がかち合うので。街道の途中でインスタント化し、戦闘終了と共に元の場所に戻ってくる仕様です。

 

 本編でユニーククエストについてもわずかに触れましたが、ユニーククエストは再現性が一切ありません。一度クリアすれば終わりか、もしくはクリアできなくてももう誰も挑戦できなくなる類のクエストです。特殊条件によるものが多いですが、特殊条件というには緩いものもあります。有名なものは王族系の一部ユニーククエストで、これらには一番最初に受けた人物しか受けられない、というものがよくあります。

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