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不穏悪化

 

「んー……どうすっかな」


 小声で呟く。

 相手は一人、それもヒーラー。

 しかし、MPが足りない。ヒーラーの彼女は大剣の直撃喰らってたし、一回当てれば死ぬと思うんだけどなー。

 前衛組が結構音立ててたし、あんまこの場に留まりたくない。

 回復されても面倒だし……

 ガサガサっと大げさに草を揺らす。


「ひっ!」


 怯えてる怯えてる。

 狙い通りではあるんだが、何故か『さっさと回復しろよ』という感想が浮かぶ。

 こう、本人は全然楽しそうじゃなくて、ただただ記録を狙ってやっているのに非効率、みたいなプレイを見たときの感覚だ。


「ひ、あ、ああああ、ああああああああっっっ!!」


 逃げ出した。いや逃がさないけど。追うけど。


 このゲームはレベルが上がるとHPやMPが全快する仕様ではない。ユーザーに対する運営の姿勢を見れば『でしょうね』みたいな感想しか出てこないが。こいつら意地でもプレイヤーに利するような仕様にしないだろ。

 ただし、レベルが上がったことによる限界値の上昇分は加算される。最初に後をつけていたプレイヤーに撃った魔法も含め四発撃ったが、4キルによる加算分もあってあと数十秒で一発分にはなる。その数十秒で回復されると困るから怯えさせたわけだ。

 姿を見られないように、しかし逃がさないように彼女を追う。

 必死に走っているようだが、場所が悪い。人並みの草丈の草原で早く走れるわけもない。しかも直進してるだけ。これで追跡者を撒けるなら誰も苦労しない。

 あ、MP溜まった。


「はっ、はっ、はっ……っ!」


 必死に逃げる背中を視界に入れ、詠唱開始。

 心なしか一々威力にぶれがある気がするこの魔法、外さないよう慎重に狙いを定めて――


「エア・エッジ」


「ぁ……!」


 背中に直撃、HPとアバターが消し飛ぶ。

 パーティーキル成功。完全に棚ぼただけど、ラッキーは素直に受け取ろう。

 ちなみに、経験値は相手が死んだ時点で、同一戦闘に参加したプレイヤーの間で貢献度に応じて配分される。前衛二人は互いに削り合ってたし、他の二人にも攻撃してたのでもしかしたらレベル上がってるんじゃないか? それはそれで揉める材料になりそうだが。


「とりあえず、帰るか」 


 騒いだせいで人が来そうだし、確実に帰ってリスポン地点を設定したい。

 犯行現場からはすぐ離れる、鉄則だ。





 大小含めると街の出入り口は数十存在する。

 始まりの街だけあって大きいし、そもそもそれくらい数がないと初心者狩りが全てを張ってしまうから多い分には助かるが。

 ちなみに、門の近くというのは初心者狩りにも危険な場所だ。一番効率が良く確実に初心者が通る場所だからこそ、初心者狩り狩りもそこにいる初心者狩りを狙ってくる。

 あとこれも昨日掲示板で知ったんだが、リスキル出待ち勢のことをリスキラー、リスキラーをキルすることを収穫キルというらしい。

 なんで協力型MMOでそんな呼称が浸透してるんですかね。世紀末かここは。


 身を隠しながらいくつか門を巡り、 初心者狩りがいないところを狙って街に帰還。早速宿を借りてリスポン地点を設定。これでリスキルは回避できる。ついでにまともな食べ物を買って満腹にした。

 素材も売り、残ったのは1020クロン。いやー、対人キルは実入りいいわ。

 それで今ポーションでも買おうと思ってポーション屋に来たわけだが……


「混乱耐性薬、1000クロン……」


 混乱耐性薬としては最下級のポーションだが、用途が限定的なだけあって高い、最下級のMPポーションが100クロンであることを考えるとその高さがわかる。

 あとこれ絶対初心者に買いにくいように設定してるだろ。コンフュージョン・ラビットは遠距離から撃ち抜く分には問題ないし、高いなら買わなくてもいいって考える層は確実に一定数いる。そして、そうしたアホの何割かが被害を受けるという流れが生まれる。

 素材の売値から考えると初心者が1000クロンも稼ぐのは結構大変そうだし、買いたくないという気持ちはわからなくもない。そもそもあくまで耐性薬であって回復薬ではないのだ。つまり、混乱に陥ってしまえばこのポーションでは治らない。クソすぎる。なんで耐性薬と回復薬で分けたんだよ。

 ……嫌がらせか。嫌がらせだな。


 実際、俺も買えるかといえばギリギリだ。一応魔法職だしMPポーション優先した方がいい気がしないでもない。

 ただなあ……これ見つけたときにすっごいアレだけど嵌まれば超効率良さそうなレベリング方法思いついちゃったんだよなあ。

 ヒントはコンフュージョン・ラビットの効果はレベル30くらいまで有効という事実。


「どーすっかなー」


 まあいいか、ゲームだし。

 とりあえず実験してみよう。結果を見て決めればいいや。





 というわけで買いました、最下級混乱耐性薬。

 現在街を出て草原にいる。今回は適当なパーティーを見繕ってつけてきた。ただ、前回の彼ほど詳しい位置情報は必要ないのである程度距離を離している。その分周囲を探索して、コンフュージョン・ラビットを探す。

 こういうときばかり乱数が敵に回る。15匹くらい見たのにどれも逃げていった。全部ノーマル・ラビットだ。


「これも物欲センサーか……」


 これからやろうとしていることを考えると、むしろ外道な行為を取り締まるゲームの神の思し召しな気もする。このゲームの運営()は邪神だけどな!


「しっかし、本当にいないな」


 このままでは目星をつけたパーティーが逃げてしまう……と思ったタイミングでもふもふの白い背中を発見。こちらの音に反応した奴が近づいてきた。

 カモがネギを背負って来た、というかプレイヤー(カモ)経験値(なべ)にするための火力がやってきた。

 速攻で混乱耐性薬を飲み、コンフュージョン・ラビットに近づく。こいつは経験値が低いので特に倒す必要はない。というか、今回に限っては生きていてくれにないと困る。

 ぶっちゃけノーマル・ラビットというかもう現実の兎と変わらなくね? くらい戦闘能力が低い兎を確保。人懐っこいせいか暴れる様子もなく素直に抱かれてくれた。

 即反転、アタリをつけていたパーティーの下へ。

 混乱耐性薬の効果時間は30分。耐性に特化しただけあって長い。値段を考えると微妙だが。

 とにかく、効果時間内に発見する必要がある。

 五分で見つかった。まあ、元々そんな離れてなかったし、30分もかからないよな、そりゃ。焦る必要はなかった。


「……いける」


 三人、レベルは10前後。剣士、ヒーラー、弓手。固まって行動している。こちらに気づいた様子もない。

 実験にはおあつらえ向きだ。

 レッツゴーパーティーキル。





 結論だけいうと、パーティーキルは成功した。

 しかし、完璧には程遠い。経験値を考えない単純な収支もプラスだったが、不安要素が多すぎる。

 というわけで街に戻り、手に入れた2242クロンで買い物開始。MPポーション、HP回復ポーションを買い込む。ついでに縄も買う。それと混乱耐性薬も一つ。

 より完璧な手段を用意しなければ、レベリング方法が確立したとはいえない。

 金を使い切る勢いで使い、準備を整えてからもう一度草原へ。

 混乱耐性薬のストックがないせいで連続では行えないが、とりあえず一回、やってみようか。 


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