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下方より吹き上がる爆風

 

「妨害が……!」


(解けた!)


 センカが内心で歓喜の声を上げる。


(状況的にヨツバちゃん? 最高、今一番ほしかった完璧な仕事!)


「あとは任せて……!」


 撃墜されたことを示す表示に目を向け、自信満々にそう宣言する。

 ヨツバの役割としては試合前に想定したものではなかったが、しかし現状から考えると十分以上の働きをしたといえる。

 通信が復活した……否、この言い方は正確ではない。

 ()()()()()()()()と相手視点でいうべきだろう。

 その事実が、ステラリウムが向き合ってきたウェーブコンドルの操縦者に動揺をもたらす。


(動きが単調になった)


 多彩な攻撃手段を生かしつつ飛び回っていたウェーブコンドル。その攻撃が止まり、背面飛行でもなんでもやってきた航空機動が一転して通常の体勢のみになる。


(長くはない、でも十分)


 これまで優位を譲らなかった敵機に生まれた明確な隙。

 恐らくそう長くは持たない。想定外の味方の撃墜に驚いて確認しているか、通信を取り合っているかといったところだろう。そのうちなくなってしまうわずかな隙だ。

 実際、センカ達は通信が使えるようになり機体間のデータリンクも回復している。まともな戦闘能力を保持しているのはステラリウムとアインホークのみとはいえ、戦術の練り直しは必要なものだろう。


(私が一対一、シーが一対二。センカちゃんを相手にしてた一機が浮いてるし、局所的には対等な状況にあるウェーブコンドルが指示を仰いだり状況把握に徹しようとするのもわからないでもない。でも……)


「私をなめすぎかな」


 ここまでステラリウムは本気の電磁攻撃をしていない。

 ほとんど優位を奪えなかったというのもあるが、最大の理由は勘違いさせるためだ。そのために牽制に使っていた攻撃はレーザー攻撃や出力を落とした電磁攻撃にとどめた。

 違和感を覚えるほど落としたわけではないため、ウェーブコンドルの操縦者はステラリウムの電磁攻撃を防ぎ切れるものと判断しているだろう。


 そんなわけあるか、とセンカが好戦的な表情を浮かべる。

 この機体は電磁攻撃以外の攻撃性能を捨てている。そういうカスタマイズをセンカ自身が施した。


 電子防御性能があってもそれを貫けばいい。

 電子戦闘機相手でも通じるほど特化すればいい。


 このある種脳筋じみた、というかもうはっきりいって頭の悪い発想の下センカの機体は完成した。

 そんな機体が、ウェーブコンドル程度でシステムダウンを起こせなくなるような攻撃性能しか持っていないわけがない。


(タイミングよし、角度よし。射程OK)


 ディスプレイに手を滑らせ、全ての状況が揃ったことを確認して最後の指示をセンカが出す。

 単調な機動から戻っていないウェーブコンドルには避けられない。


(最悪喰らっても即墜落はしない、とでも思ってるのかもしれないけど……)


 甘い。

 その油断は高くつく。


 強烈な電磁攻撃がウェーブコンドルに突き刺さった。


 ステラリウムの最大出力。想定外の一撃をまともに喰らったウェーブコンドルのディスプレイが一瞬で暗転する。

 それでも即墜落とはいかない。大ダメージを受け、混乱と焦燥の中で致命的な部分だけ補って飛べる程度まで持ち直そうとした操縦者の判断力は素晴らしいとしかいいようがない。いいようがないが……


「この状況で耐え抜きたいならアインホークくらいの冗長性がないとね」


 システム的にボロボロのウェーブコンドルにレーザー攻撃が直撃、機体後部を深く抉った。

 ウェーブコンドルの各所で爆発が発生し、その機体は真っ逆さまに地面へと墜ちていく。

 数秒後、撃墜された旨がディスプレイに表示された。地面にぶつかったにしては早いし、恐らく空中分解でもしたのだろう。


(これで浮いているのは私と敵機一機のみ。位置的には私の方がアインホークには近いけどそこまで差はない。加速性能の問題もあるし、間に合うかは微妙。仮に間に合っても二対二から速攻で墜とさないと二対三の状況を作られる……っ)


 厳しすぎる現状に歯嚙みするセンカだったが、それでもできることをしようと通信を開く。


「シー! すぐ援護に行くからどうにか持たせて!」


『……――その必要はない』


 その声は、想定外の人物のものだった。





「データリンクが……!」


(ヨツバか? センカか? どちらにしてもよくやった!)


 奇跡を信じてどうにか耐えていたフィッシュベッドにとって、その知らせはまさしく天恵だった。

 通信とデータリンクの回復。それが一番ほしかったものだった。


「ぐ……っ! くそ、揺れる!」


 機体が空中分解しそうなほどの不気味な揺れに襲われる中でフィッシュベッドが必死にディスプレイを操作していた。

 ディスプレイにはひっきりなしに警告が表示されるが、それを全て無視してただ一つ、起死回生の一手を成功させるために機体の動力を割り振る。


「よし……発射!」


 ウエポンペイを開き、ステルスミサイルを発射。

 放たれたミサイルはアインホークのレーダー範囲内にいるその戦闘機に向けて、一気に突き進む。

 これはただ道連れを作るための意味のない足掻きではない。勝利のための一手だ。だから、近くにいるヘヴィーライナーと戦っていた機体を狙わず離れている別の敵機を狙った。


(だが、問題はここからだ……)


 ボロボロの機体性能を誘導能力に振らざるをえない。

 だが、このままだとその誘導能力も最後まで持つかは微妙だ。距離もあり、高度的にも相当上の敵機を狙うことになったため無意味な誘導をして射程を無駄にすればおそらく敵機まで届かない。

 回復したデータリンク上の敵機を捉え続けるためには、できる限り長い間高度を保つ必要がある。それも、飛行能力がほぼないこの状態で。

 しかし、フィッシュベッドは獰猛に笑った。


「最古参をなめるなよ……!」


 WWR、特に戦闘機リアルモードに初期から取り組んでいたプレイヤー達には経験がある。

 誰もがリアルモードを使いこなせず、戦闘機動どころかまともなに飛ばすことすら覚束なかった状態でレースに臨んだ経験が。

 レースに参加する誰もがゴールまで飛ばすことができず、滑空技術を競い合っていた経験が。

 本当に初期の頃、それも数日程度の経験だが、あのときの記憶は色んな意味で心に焼きついている。


『……――シー! すぐ援護に行くからどうにか持たせて!』


 ちょうどそのタイミングで通信が入った。センカが敵機を墜とし、一対二で苦戦を強いられているアインホークの援護に回ろうとしているらしい。


「その必要はない」


 声を発すると、心の底から驚いたといわんばかりの反応が返ってきた。


『……――えっ!? 生きてたの!?』


『……――生きてたのか!? ……ってあぶなっ!?』


「……」


 失礼極まりなかった。

 事実上撃墜寸前、システムも全部壊れてるんじゃないかと思っていた味方から通信が来ればそんな反応にもなるだろうが、言い方というものがある。

 シーにいたってはそんな余裕もないのに思わず反応してしまった、と通信越しでも伝わってきた。

 しかし、この二人がチーム内で突き抜けて煽り体質なのは今に始まった話ではない。いちいち気にしていたら身がもたない。

 軽く頭を振って切り替える。


「今、ステルスミサイルを誘導している。狙いはアインホークがやりあっている片割れだ」


『……――距離足りるか? こっちに誘導する余裕はないぞ? ……っぁ、ぶない!? 俺が、墜とされそう、だし!』


「ああ、それは聞くだけでわかる。安心しろ。絶対に当ててみせる。だからそれまで耐えてくれ」


『……――簡単に、いってくれ……るっ!』


 内容とは裏腹に、その声音には力が宿っていた。

 希望もなくただ耐え続けた今までと比べれば、目標がある時間稼ぎは張り合いがあるのだろう。


スリーナイン(センカ)は浮いている敵機をインターセプトしろ。絶対墜とされるな。……そこから先は二人に頼む」


『『……――了解!』』


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