硝煙と銃声で回復する精神
『Battle field on the Earth』
フランスで作られたFPS史上最高のゲームと称される本作だが、実は開発途上に大きな障害があったことは日本ではあまり知られていない。
開発の少し前から世界中で銃器による事件が多発し、どの犯人もFPS歴のあったことが大きく取り上げられたため、FPSに否定的な世論が形成されていたのだ。VR技術の進展によって銃関係のゲームに対する危惧が世界的な潮流になっていたという背景も大きいだろう。
そのため、FPSのVRゲームはリアルさを売りにできないというVRゲームとしては致命的な弱点を抱えてしまっていた。
なにせ、リアルすぎると世論の非難を浴びるのだ。VR技術自体がリアリティ追求の流れにある中、FPSだけはチープさを保たざるをえない状況が続いていた。当然そんなジャンルが人気を得られるはずもなく、かつては一大ジャンルとして隆盛を誇ったFPSは大きく衰退してしまった。
さて、リアルさを売りにできないという致命的な弱点はBFTE開発時にも大きな壁になった。しかし、四大ゲーム共通のフォーマット――開発当時はFDOしかなかったが――を使っている開発陣はそのずば抜けたクオリティの価値を理解しており、グラフィックのリアリティは何が何でも死守したいと考えた。
状況を打破する策を探し続けた彼らはある疑問を抱いた。
『FPSは非難を浴びるのに見た目が似ているSF系のレーザー銃は非難されないのは何故だ?』
これが、事態を打開する一手になった。
ほどなく彼らは解答に辿り着く。
その答えは――
『FPSが非難を浴びるのは実在の武器を使っているからだ。部品レベルから徹底してオリジナルの武器にすれば、文句も言われないしある意味売りにもなる』
この策が完璧に嵌まった。
完全オリジナルの武器を使ったBFTEは『現実にない銃だから再現することはできない』『これ以上は表現の自由に対する侵害だ』『これでも我々を非難するなら殺傷性のある武器が出てくる全てのゲームを非難するべきだ』と主張し反発する世論を真正面から迎撃。
表現の自由を重視するフランスという国の気風もあったのだろう。この主張は多くの人に受け入れられた。
一部では『じゃあ全部のゲームを規制しよう』とかいう人もいたが、むしろ極端すぎる言動によって味方を減らし、ゲーム推進派に利することになった。案外これも大きかったのかもしれない。
完全オリジナルというFPSの新たな生き延び方を見つけ出し、圧倒的なクオリティで人々を魅了したBFTEはFPSの救世主という異名がつけられるようになったのだ。
そんなゲームで、俺は――
「あっははははは! 隙だらけだ死ねえ!」
全力で銃を乱射していた。
はははははっ、やっぱこれだよこの感じだ!
運営の悪意なんて挟まる余地もない、自身の技術だけで戦うこの感じ! ああもう最っ高に楽しいな!
「見えてんだよ間抜け!」
狙いを絞り引き金を引く。ここまで一拍。
今のモードはリスポンなしの30人バトルロイヤル。人影=敵と考えていい。
え? 声を上げると場所がバレる? はっ、ばらしてんだよ! 向こうから撃たれるってことはこっちからも射線が通ってるってこと。俺が囮になって引き寄せ、撃たれる前に撃ち抜けばいい!
「お、そこいるな?」
微妙に音が聞こえた。
ここは廃工場フィールド。音が反響しやすいから細心の注意を払わなければならない。音を出さないように――聞き逃さないように。
元々やりこんでいたゲームだ、あらゆる状況を設定した数百のフィールドその全てを把握している。自然発生する音か違うかくらい反射で判断できる!
zark-31、通称ザルク
今使っている機関銃からオートで弾丸をぶちまける。
ログきたワンキルゥ!
「はい次」
獲物を探して不安定な足場を駆け上がる。
うんうん、いいよ、やっぱこれだよ。
キルされるのは性に合わない。対人はキルしてこそだ。
そしてストレス発散ならこういう全員敵のルールで暴れ回るに限る。
「……っ」
お、斜め上、今いる場所よりプラス二階分だな。敵発見。
俺に銃口を向けて、冷静に狙いを絞って――
「遅い!」
こっちは音で場所を掴んでいる。
敵の居場所へ顔を上げるときには同時に銃口も向ける、そして向けた時には既に引き金は絞っている。
俺を撃ちたいならもっとスピード上げてからこい!
「うそっ!?」
驚愕の声が耳に届く。それで嘘になるなら今日俺はもっと幸せだった。
顔面直撃、バイバイ敵さん。先手をとったと思い込んだのが間違いだったな。
視界の隅に浮かぶログだけ確認すると前に突き進む。
工場全体が錆びているし足下だけは気をつけないといけない。崩れるのも危険だが、薄い場所を狙って撃ち抜くなんていう技術もある。
「残り四人か」
俺を除けば三人。
どこにいるかな――って探す必要ないな。音でわかるわ。
正面、曲がり角から来る。
走りながら構えて、3、2、1、
「発射!」
オートでばらまいた弾丸だったが一発目が肩にあたっただけで相手が死んだ。元々HPがギリギリだったのか。
まあいい、残りは二人。あ、一人減った。一人。
銃声が近かった。相手の武器次第だが射程内だ。
まだ一発も当たってないが、威力高めのを1,2発急所に受ければ負けかねない。
足を緩め、音を立てないように距離を詰めていく。
「……」
まだ見えないが、息遣いは聞こえる。射線が通るのももうそろそろだろう。
俺がいる場所が大きな作業場への通路、奴がいるのは作業場の二階通路ってところか。高さは一階分向こうが下。
よし、こっちから仕掛けるか。
勝算は十分――
「!?」
銃声が響き、通路の壁から二度三度と衝突音が聞こえ、反射的に頭を反らした。ほぼ同時に小さな黒い影が走り、右肩に衝撃が走る。
嘘だろ?
「跳……弾……っ!?」
驚愕する俺の耳に二発目の銃声が届いた。全力で飛び退る。
複数回壁で跳ねた弾丸は過たず俺の頭があった場所を通り抜けた。それも、今度は真上から。
ありえない、これはありえない。百歩譲って跳弾で相手を狙うことはできるかもしれない。複数回の跳弾を狙った上で体に当てることも、まあ不可能とはいわない。
でも、ヘッドショットは不可能だ。それも二発連続ではありえない。知っている相手、見慣れた絶技、何度も喰らってきた経験がなければ避けられなかった。
そう、知っている。
この神業を、息をするように操るプレイヤーを俺は一人だけ知っている。
「ユズか……っ!」
――ユズリハ・シフォン。
BFTEにおいて俺と同じチームに所属し、俺の知る中で唯一射線を作り出す技術を持ったプレイヤー。跳弾を利用し、跳ねまわる複数の弾丸で相手を囲んで動きを封じるなんて馬鹿げた技が使えるのはこいつくらいだろう。
「うわ、最悪だ……」
なんで野良で当たるんだよ、どんな確率だちくしょう。
ノーダメ完勝のつもりだったが、ユズがいるならそんなもん無理だ。やけに人数の減りが早いと思ったらこいつがいたからか。
「っ!」
追撃の銃弾を避ける。
くそ、どうする? 相手が見えない以上視界はないに等しく、通路から出なければ射線を作れない。
だが今出口に向かえばハチの巣だ。
手持ちは機関銃と、スモークグレネード、スタングレネード、あと回復薬。
とりあえず回復薬を飲みつつ相手の動きを探る。
銃声からするに居場所はここの通路から出て左に30度、下に10度。作業場と別の棟を繋ぐ通路の入り口あたりか。
「やるしかない、か」
回復薬のおかげで体力はMAX、当たり所によるが少しなら耐えられる。
腰に下げたスタングレネードを手に取り、ピンを抜いて通路の向こうへと投げた。
「っ!」
爆音と閃光、それと同時に全速力でダッシュする。
俺達みたいなプレイヤーは目を瞑っていても歩けるほどフィールドを完全に熟知している。その上でシステム上発生する自然音とそれ以外の音を判別、その音を精査することで視界外の相手の居場所を特定するのだ。
逆にいえば、こういう風に音を封じてしまえばその技術も封じられる。
本当に爆発した瞬間だけの話だが。もって一秒だろう。
そして、こんなことすれば狙いはバレバレなので……
「っ! っ! っ! っ!」
細かな狙いをつけていない跳弾が連続で襲いかかる。手足への直撃弾二つ、掠めたの四発。残り体力六割弱。
体力を犠牲に通路の出口までたどり着き――柵に飛び乗って宙に身を躍らせる。
ユズがいるのは左手……いた! そして痛! ちくしょう胸に直撃した、残り一割!
「!?」
電子ゴーグルで覆われて目元まで見えはしないが、驚いているのはわかった。一応俺も電子ゴーグルを着けてるから顔はわからないはずなんだが、まあ同じギルドだしさすがに気づくか。
しかし、今さら気づいても遅い。
既に銃口を向け、同時に弾丸は放たれている。
弾丸は過たず頭に吸い込まれていき――
「あっ」
肩に衝撃。ユズの弾丸があたったらしい。HPバーが一気に0になる。
視界の先ではユズの頭を弾丸が貫いていた。
しかし、俺ももう死んでいるわけで……
"結果――引き分け”
わずか一日で別ゲーが始まった件について
新キャラ出そうと思ったらBFTEの描写を入れるしかなかったというか……
なおその新キャラも顔見せと同時にキルされた模様。