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エッセイ

高校の卒業アルバムが見れない

作者: 迎 カズ紀

初エッセイなのでご容赦ください。

 高校の卒業アルバムが見れない。


 いや、見ることは可能だ。失くしたわけでも、見れない状態になったわけでもない。ついこの間卒業し、貰ったアルバムだ。私の宝物だから、そんな酷い扱いはしない。

 ただ、何故か卒業アルバムを見ていると、呼吸が苦しくなるのだ。胃が痛くなるのだ。

 もとから酷い頭痛持ちで、胃も痛くなりやすく、腸が弱く、少しの運動で呼吸がすぐ乱れ、心臓もしくは胸の右側が突然酷く痛み、パニックになると泣いてしまい、酷い時には過呼吸状態で泣く。

 そんな私だから、卒業アルバムのせいではないのだろう。けれども、現実に身体が苦しんでいる。


 最初に気づいたのは、配られてすぐに教室で見ていた時だ。卒業式の前日、予行で登校した日だ。

 パラパラとめくり、友達が大きく写っていないか探す。

 目に飛び込む部活動の写真に私はいなかった。いや、いるのだが見事に隠れている。私はヒラで、部長と副部長が大きく写るのは当然だろうが、集合写真以外の活動写真はその2人しか大きく写っていなかった――まあ、書道パフォーマンスで大きな筆を持って書く人が目立つのは当たり前なのだけれど。

 そんなわけで気楽にパラパラとめくっていた。

 写真写りが悪く、笑顔を作れない私は写真というものが苦手だった。友だち同士で撮るのは好きだけれど、好き嫌いと得意不得意は全然違うものだった。


 そんな時にふと、気づいたことがある。

「――やっぱりかっこいいな」

 私の約2年間の片想いの相手、橋岡が写っている写真が多いことだった。

 橋岡が世間一般のイケメンに分類されるかどうかはわからないし、モテていたのかもわからない。ただ、彼の性格とそこまで劣っていない見た目から判断して、彼を好きな人は必ずいると思った。もちろん、私以外で。

 好きな相手だから目ざとく探してしまうのかもしれない。けれども、多く感じた。

 笑顔が素敵だからだろうか。

 とりあえずそう結論づけた。


 そうして橋岡以外にも、大きく写された人たちを見ていくうちに、身体の異変に気がついた。

 呼吸のペースが早くなっている。

 それに気がついた私はすぐにアルバムを閉じた。そして逃避するかのように、同じく配られた学校誌を手に取る。寄稿した小説に誤字はないだろうか、などと思って。

 しばらくの間、胃痛は治まらなかった。



 家に帰った私は、卒業アルバムをすぐに見ようとはせず、某トークアプリと某つぶやくアプリで友人と会話をした。絵も描いたりした。卒業アルバムをまた開いたのは、日付も変わった頃だった。

 今度はじっくりとそれを見た。

 学校では気がつかなかった、写真に写っていた自分が次々と見つかる。

 それを見るたび、気持ち悪い感覚が襲った。


 私は学校で最初にアルバムを見た時、こう結論づけていた。

「アップで大きく写された人は、イケメンか超絶可愛い子」

 実際、美人な人が多かったように感じる。もちろん橋岡のように、笑顔が素敵な人もたくさんいた。


 それを思い出した時、私は乾いた声で笑った。

 ――私は笑顔を作れない。だから写真写りも悪く、どの写真を見てもブサイクにしか見えないのだ。

 対して、よく写っている人たちは、顔面偏差値はひとまず置いたとしても、笑顔ができている人ばかりだった。

 その写真からは、生き生きとした何かを感じて――私に欠けているものだと思った。


 そうか、だから見れないのか。

 見ると惨めな気持ちになるからだ。

 そして、その惨めな気持ちになる原因の1つについて考えた。

 橋岡への想いだ。


 ちょうどその日、私は友人たちにお菓子を配り歩いていた。

 国公立の前期試験が思うようにいかず、ふとした瞬間にフラッシュバックされ、私は何をするのも嫌だった。

 そんな時、お菓子を作る予定だったことを思い出した。受験前に応援としてお菓子をくれた子へのお返しと、それに加えて仲の良い友人にも作ろうと決めた。

 そこで、私は橋岡にも渡すことを決めた。


 何度か橋岡と物のやりとりはしたことがある。バレンタインデーとホワイトデーだ。

 私と橋岡は最初は友達だった。それがいつしか、私の汚く不純な片想いへと変貌していた。

 そのことについて深く触れるのはもったいない気がするので詳しくは言わないが(プライバシーの問題もあるし、そもそも勝手にこの話に登場させているのだから)、私は一度告白のような酷く曖昧なことをしたのだが、彼からは何も反応はなかった。

 余談だが、友人の相模が橋岡に付き合っている人がいるか探りを入れてくれたのだが、彼は「好きな人はいるが今の関係のままでいたい」と言っていたらしい。

 その好きな人というのが誰かはわからないが、私ではない気がした。相模は、橋岡の好きな相手は私なのでは、と言ってくれたが、希望を強く持つほど違っていた時に虚しいことはない、ということを私は知っていた。


 先ほども言った通り、私が橋岡のことを好きだということを知っている友人はいる。それも、3人。その中の一人、先ほど探りを入れてくれた相模とは別の友人、もう進学先が決まっていた唯一の友人、村田に渡すことについて何度も相談した。

 そして決心がつき、橋岡にトークアプリからメッセージを送った。お菓子を渡してもいいか、と。

 返信が返ってきたが、彼は理由を聞かなかった。そして、直接会って渡すのではなく、ロッカーに入れといてくれという話でまとまった。


 私は手紙を書いた。直接会って渡すのであったら、言おうと思っていたことを文字にして書いた。

 私は彼に感謝の気持を書いた。

 彼とまだ友人だった頃、彼がなかなか高校に馴染めない私のことを気にかけてくれたことが嬉しかったのだ。

 廊下ですれ違った時に何らかのリアクションをする。手を振るだとか、声をかけるだとか。

 それがひどく嬉しかったのだ。

 そのことへの感謝を私は述べたかったのだ。


 そこまで書いて、私は決心した。

 ――懺悔しよう。

 私の、彼への心の変化を。違う好きになってしまったことを。

 結局、先ほど述べたような、過去と似た告白まがいのことをしたのだ。

「好きです」

 なんて、ストレートに書けなかった。


 手紙をお菓子と同じ紙袋に入れ、朝登校して彼のロッカーへと入れた。

 予行の日、卒業アルバムを貰った日。

 それに対しての言葉は何もなかった。トークアプリはただ、私が友人と会話するためだけに使われた。


 間違ったロッカーに入れたのでなければ。

 手紙が間違って他の人に渡ったのでなければ。

 彼に手紙がきちんと届いて、それを読んでいるのだろう。

 私の2年間の恋は、幕を閉じたのだろう。

 私の自己満足で渡しているだけだからお返しはいらない、とも手紙に書いたので、もうこれで私たちの物のやりとりは終わりなはずだ。

 ただ手紙の最後に、また笑って話したいと書いたのは私のわがままだ。


 そんなわけでおそらく失恋した私が、未練がましく彼の写真ばかり見ているのだから、罪悪感にしろ、彼と同じクラスになれなかったことによる、彼と同じクラスの人への嫉妬にしろ、汚い負の感情が渦巻いていた。

 そんな私とは違い、キラキラと写真の中でいい笑顔の人たちは輝いている。

 濁った、汚い私にとってそれは聖水のようだった。


 私の高校生活は、決して惨めなものではなかった。

 進学先が大幅に変わったり、嫌なことが続いたり、女子高生というものを存分に楽しめなかったりと、全てが良かったわけではない。

 けれども、休日に出かけるわけではないが何でも話せる仲の良い友人ができた。

 部活はしんどく、何度も死にたくなったけれどやりきった。

 クラス行事には全力で取り組んだ。

 恋をしていた。

 それらはどれもかけがえのない大切な思い出だ。


 ただ、卒業アルバムに、そんな私はいなかったように思えた。私の感じた楽しかったという思いが反映されているはずがないのだから。

 うまく笑えていない自分を見るたびに、うまく笑えている他の人を見るたびに、胃が痛んで胸が苦しくなった。



 私の卒業式予行から、日付が変わり寝るまでの間。その時間を占めたのは、醜い感情だった。


 私は卒業アルバムを見れない。

 また見れるのだろうか。その時には、せめて浅ましく醜い橋岡への想いが消えているのだろうか。

 そういえばまだ私は泣いていない。呼吸が苦しくなって、パニックになりかけても今回は泣かなかった。

 ――橋岡から返事が来たら、私は泣けるのだろうか。

 それを期待し、私は眠りについた。


卒業式を迎える人、おめでとうございます。これから迎える人、私のようにならないでくださいね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 過去に(いや、すごい昔(^_^.))同じような感情を持ったような気がします。 その時の気持ちに一気に引き戻されました。 私は感想を書く才能がなくて(分析とかができないので)申し訳ないのです…
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