白虎へ会いに
「ーーと、まぁ、國魂さんと俺の関係性はそんな所だ。血が繋がっている訳じゃないが、俺のじいちゃんである事に変わりはないよ」
「そうだったのね。まぁ、薄々分かってはいたけど」
図書館であった事を大まかに話し終えると、春はそう言った。知世も言っていたが、國魂さんと似たオーラを感じたみたいで、何かしら繋がりがあるだろうと。
結果、やっぱり國魂さんは俺のじいちゃんだった。
血の繋がりを考えると『師匠』の方がしっくりくるなぁ……。色々教えてくれたし。
まぁ、呼びやすい方でいこう。
「で、思恩さんはこれからどうするんですか?」
魔夜がそう問うた。
もう既に、やるべき事は決まってるのだよ。
「まずは『白虎』に会いに行く!!」
「「え?」」
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俺、茅ヶ崎 思恩は狛犬事件のあった怪異洞窟なるところへ向かっている
白虎なんて、そんな無茶な。と反対する2人を押し切って朝方神社を出た。魔夜はそのまま自分の家に帰ったらしい。
ーー終わったらちゃんと帰ってきて下さいね!
なんて、魔夜は心配してくれてね…帰る場所があるって素敵。
「っと、着いた……」
禍々しいオーラを放っている大きな洞穴からは少し冷気ーー否、霊気ーーを感じる。
人里、図書館のあった所とは違い、西区の端っこにあるこの洞窟には妖怪が住んでいるらしい。一応、春から貰った國魂の刀を腰につけている。制服姿で。ダセェな。
ちゃんとした服を買おう……。
ーーあとちょっとかな。結構歩いたなぁ……。
既に入り口は遥か後ろ、奥に行けば行くほど霊気は強くなっていく、
…はずなのだが。
「あちぃな…何でだ」
進めば進むほど俺を跳ね返すような熱いオーラが増していく。
何でだ、とは言いつつ大方予想はついている。
これは白虎だ。俺の包帯が輝いた時の同じような雰囲気だ。つまるとこ、ここで長い間眠っていた白虎が、昨日の一件を機に目覚めたとでもいうのだろうか。
ぶつぶつ考えながら歩くと、突然それは目に入った。
「…っ!あった、祠だ……」
眩い光を発するその祠からは強い力を感じた。
無論、俺の右手からも。右手の包帯からも。
白虎と話がしたくて祠に足を進めて手を伸ばすが、一歩も近づかせないかの如く、祠は力を増していく。
クッソ……届かねぇ……いてぇ……
中々足を踏み込めず、数分経っても距離はあまり縮まらない。包帯も強い光を発し続けている。無理が祟ったのか右手も痛くなってきた。
ーーだけど、もう俺は戻らないからな。
「ぬ、ぬぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
思い切り頭を下げて前傾姿勢になる。その勢いのまま、左足を祠の前までもっていき、
踏み込む!!!
そして、思い切り力を入れて!右手をっ……!!
「おんどりゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
伸ばすっ…!!!
「…っ!触れた!!」
直後、俺の視界は白い光に包まれた。
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うーん、なんかデジャヴ……。
だいたい光に包まれた後は、どこかわからん場所にいるんだよなぁ……。
「……ほらぁ〜」
案の定、目を開けると一面真っ白の世界。
何だか、慣れつつある。というか、慣れた。
まさか、衝撃で死んだとかないよなぁ……。
少し不安になった俺の耳に、1つの声が聞こえた。
『お前、一体何者だ…?』
「まずは自分から名乗ったらどうなんだ?」
『…ふむ』
ハリがあって、直接腹に響くような男の声。
悪そうな声だが、どこか威厳があって、全てをひれ伏せるような強い声だ。あまり年をくってるように聞こえないが、年長者を感じさせる口調だ。
名乗らずとも分かるぜ。白虎。
1つの結論に至った俺の視界に、突如としていくつもの稲光が走った。
「うおっ!!」
稲光は俺の数メートル先の、同じ場所に落ちた。
ーー来たか。
稲光で白く輝くそこから、ただならぬオーラを感じた。
その後、光の奥から出てきたのは、気高く、美しく、力強い、白い毛並みをした、大きな虎。
『じゃあ、自己紹介でもしようか。俺は白虎だ。西を守る、守護獣。四神の1人』
「あぁ、よーく知ってるぜ」
『そうか。まだ俺を覚えてる奴がいるか。それより、お前は誰だ?』
「俺は、茅ヶ崎 思恩だ。今日はお前に話があって来たんだ」
『そうか…』
白い虎は若々しい声で、古風な喋り方で、迫力がそのまま形になったのではないかと思うようなオーラ。
その目、風貌、何から何まで強い意志をもってる。
だから、
偉そうに「お前」とか言うんじゃなかった。怖い。
ーー案の定、その言葉遣いが気に食わなかったらしい。
『どの分際で、俺に向かって"お前"と言ってんだ?』
「!?!?」
白虎は俺に向かって殺気なるものを見せた、直後。
俺の体は、物凄い勢いで白虎から遠ざかっていた。
「ぐはっ…!!」
『ふん、小僧が生意気に。とっとと帰れ』
どうやら俺は、白虎の迫力だけで吹き飛ばされたらしい。
つえぇ…流石神様なだけあるわ。
だけどな、お前の要望には答えられないぜ。
俺、帰る気ないもん。
「ふっ、んふふふふふ……」
『なっ、なんだ急に。気持ち悪いな』
「いやぁ、昔の事を…じいちゃんから聞いた話を思い出してた」
『なに……?』
ーー白虎はな、喧嘩っ早い上に強い。その覇気は凄まじいが、負けちゃいけん。こっちも覇気で勝負するしかない!
子供の俺は何言ってんのか分からなかったが、ついさっき、痛いほどに感じた。
俺、初めて神様と喧嘩します。
「俺のじいちゃん、國魂さんとの話をね!」
『!!……貴様、本当に一体何者だ!』
「ふふふ…いいだろう!自己紹介だ!」
自己紹介という名の、宣戦布告。
「俺の名前は茅ヶ崎 思恩!!祖父に國魂をもち!右手に國魂の力を宿し!國魂の刀を腰に差し!國魂の剣技を扱う!!今日はお前に俺への協力を交渉しに来た!!」
『そうか……貴様が…あいつの言ってた…!!』
「だが、交渉は無理そうだ。お前とは…
ーー殴り合いで決めてやる」
『ふっ…ふはははは!!!いいだろう小僧!否、思恩!!俺の力が欲しければ、まずは自分の力を見せてみろ!!』
全力の覇気を出したつもりだ。どうやら、通じたみたいだ。それより、俺は頭がおかしくなったのかね?
今から白虎と戦うってのに。最悪死ぬかもしれんのに。
すっげぇワクワクしてる!!
自分でも今絶対気持ち悪いと分かってしまう笑顔を浮かべ、腰に差した刀を思い切り抜く。
「すーーーーーーっ……」
刀を中段に構え、大きく息を吸う。
目を閉じて、気を高める。
一撃で決めてやる。
「疾っ!!!!」
目を開くと同時に地面を思い切り蹴り、吸った息を一度に吐き出す。勢いを刀に乗せて。
本気になれば、数メートルの距離くらい……
「一歩で足りるぜ?」
『!?』
距離があり、完全に油断していた白虎を、左下から右上に斬るっ!!
「刄ぁっ!!!」
もう、後戻りできない事を、完全に悟った。
次回はほとんど、バトルシーンかな?
慣れてないけど頑張る!