約束
思恩のやるべき事が決まるよ!
ーーー神伝戦争
数百年前、神伝郷を舞台に繰り広げられた、神と伝説が起こした大戦争。多くの犠牲が出た。戦争終結の際に神伝郷を四つの区画に分断。現在は均衡状態であり、四つの区はあまり交流は行なっていないーーー。
「なるほどね。これが大戦争……」
思恩はに知世から借りた分厚い本のある一部を見ていた。
國魂に関するページをひたすら見ていた。
四神を操り、神伝郷の中心核とも呼ばれた彼は、神伝戦争を機に姿を消し、それ以来誰も彼を見ていない。
大まかな事は分かったが……。
「関係性……か」
有名な人でありながら、その情報は本5冊分。謎も多いし、情報も少ない。
やはり関係ないのだろうか…と思ったのだが、どうにもそう思えない。
5冊の本の中で2枚ほど國魂の写真があったのだが、そっくりなのだ。俺の祖父と。
そしてどうにも、神伝戦争を他人事に思えない。
何か身に覚えがある。
「でもなぁ…曖昧なんだよなぁ……」
ため息混じりにそう言った。
國魂の事は分かったが、俺との関係性については情報ゼロか……。
少しだけ肩を落とした。
「本を返すか…早く帰ろう……」
気づいたら夜も更けていた。結構な時間いてしまったなぁ。知世に謝っておこう。
俺が立ち上がったことに気づいた知世は、読んでいた本を置いて俺の方を見た。
「何か分かりました…?」
「いいや…残念ながらね。國魂さんがすげぇって事は分かった」
「むぅ……そうですか」
知世も少しだけ顔をしかめる。
ごめんね、迷惑かけて。でも本当にそれだけなんだ。
借りた本を知世の前に置いた。
さ、帰るか。
「じゃ、俺は帰るね。本当にありがと」
「あ、あのっ!」
「うっ、うぅん!はい!」
知世が急に大声出して呼び止めたから変な反応をしたじゃないか。そんな声出るんだね。
それより……
「ど、どうかした?」
「えと……あなたが嫌じゃなければの話ですが…」
知世は少しだけ俯き、静かだけど、しっかりと耳に入る声で言った。
「思恩さんの知識を覗いてみるっていうのは…ど、どうでしょう……?」
「……え?」
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
知世が言いたい事はつまり、知世の能力で俺の中にあるやもしれない國魂との記憶を見てみる、ということらしい。「知識を操る」事の出来る知世は、他人の記憶にも干渉できるらしい。本当に強いわこの子。
と、まぁ、俺は今久々に椅子から立ち上がりフラフラしてる知世の前で座らせられている。
「いっ、いきますよ…!」
「はっ、はい……!」
知世は俺の頭に手をかざす。
知世は何かを念じるように目を強く瞑った。それにつられるように俺も目を閉じた。
ーー数秒後、瞼すら通り抜けるような白い光が俺を包んだ。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
交友関係があまりないものだから緊張しちゃった…。
そんな訳で、私は今、思恩さんの記憶を覗いてます。
人の過去も覗けるこの技、引け目を感じてしまってあまり使わないから上手くできるか心配だった…。
それでも思恩さんは覚悟を決めて私の案にのってくれたんだもの……。
「よしっ…!頑張るかっ…!」
意識を集中させて、思恩さんの中にある知識を覗く。私自身も、思恩さんは國魂さんと関係があると思っている。
僅かだけれど、右手から國魂とよく似た力を感じたもの。
流れていく思恩さんの知識の中に、幼い男の子と仲睦まじい1人の老いた男性を見つけた。
「こっ、これかな……?」
その記憶に意識を集中してみるーー。
ーーーほれ、これでもう大丈夫だ。
ーーーうん…ありがとうじいちゃん!
ーーーそれはな、わしのお前さんに対する想いが宿っておる!
ーーーおもい??
ーーーそうじゃ、お前さんには常にわしが付いておる!
ーーーほんと!?それは力強いね!
ーーーおぉ!そうだ!そうだ!だからな…思恩や……強くなるんだぞ?そして、大切なもの守るんだぞ?
ーーーうん!分かった!俺が全部守ってやる!
ーーーははは!それでこそわしの孫だ!
……約束だぞ、思恩ーーー。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
「……っは!!!」
何だか寝てたみたいな気分だなぁ…。
目が覚めたって事は終わったって事だ。ちょっとワクワクしてる俺がいる。
だけど知世は少しだけ息の切れている。心配を込めながら気になることを聞いた。
「だ、大丈夫か?……そ、それと、あの、どうだった?」
「……無関係どころか、思恩さんは國魂さんのお孫さんですよ」
「!!」
やっぱり!!思い違いじゃなかった!良かった!春に報告すべき事ができた!!
それよりも、そうか…やっぱじいちゃんが……。
國魂なんてそうそういないもんな…。
「で、ですね……」
「うん?」
「思恩さんの包帯…國魂さんの力が宿ってるみたいです」
「……えぇ!?」
こちらもどうやら思い違いじゃないみたいだ。
春の考えも間違ってはいないみたいだ。包帯を巻いた不気味な右手が、途端に誇らしく思えてきた。
「で、多分その右手の痣なんですけど……」
「えっ、そこまで知ったのか」
「えぇ、すいません……」
「いや、いいよ、それよりも……」
痣の事を知られたのは少しあれだが、俺が望んだ事だ。しょうがない。
それよりもこの忌々しい消えない痣を知りたい。
「はい…その痣は、國魂さんの力と『あなたの力』が混ざり合った結果だと思います」
「俺の力……?」
「はい、あなたにも力があります。それも僅かとはいえ國魂さんの力に耐えれるだけの力です」
それを聞いて俺は完全に舞い上がりそうだった。厨二心くすぐっちゃうセリフを冗談なしで聞けるとは……!
だが、それでも、痣が出るレベルの力。それも微量。
俺のじいちゃん兼國魂の力は無茶苦茶に強いものらしい。
「でも、ごめんなさい……あなたの力までは分からないです…」
「いやいや!!十分だよ!こんなに協力してくれてさ!ありがたいよ!」
「そ、そうですか…?良かった〜」
謝られるなんて納得いかないし、真実を教えてくれた知世には感謝してもしきれない。
この恩は必ず返そう。
「と、まぁ、私が見えたのはこのくらいですかね…」
「そうか…うん、本当にありがとう!」
「あ!でも待ってください…」
「ん?」
知世は少し考え込んだような口ぶりでぽそっと言った。
知世は多分包帯を巻いてくれた時の記憶を見たんだろうな。だからあの時の会話も……。
「思恩さんは、國魂さんとの会話を…」
「あぁ、覚えてるよ」
よそよそしく聞いてくる知世の言葉を遮って、俺は言った。
「守ってやるってやつだろ?今ならその意味が分かる気がするよ。まぁ、俺はまだまだなんだけど…」
祖父から剣術を習っていたとはいえ、魔夜が使ってたような技も使えないし、力も使えない、四神が操れる右手もまだ使えない。
「つ、強くなりたいですか…?」
「え?」
「剣だけじゃ、辛いかもしれないので……」
俺の情報結構知られたのね。
まぁ、知世なら安心だし、力になってくれるのかも…。
「まぁ、そうだな。魔法とか力とか使ってみたいな」
「で、でしたら、四神に合うといいですよ!」
「四神?じいちゃんが操ってたっていう?」
「はい、國魂さんが亡き今、四神の力は右手の包帯に全て宿ると思うのですが……」
「そ、そうだ!力を失いつつあるとか…」
魔夜から聞いた。人々が白虎の存在を忘れてきているとかで力が出ないとか何とか。
「そうなんです!ですから、四つの区画にそれぞれ眠っている四神を起こせば、もしかしたら……」
「そうか…そうなのか!!マジでサンキュー!知世さん!いや!知世様!マジで天使!女神!大好き!」
「ふぇっ……!?」
やっぱ知世は神だったのだ。否、知世様は。
脳内でこっそり呼び捨てにしていた俺が馬鹿だった。崇めよう。知世様を全力で崇めよう。
「ち、知世でいいです……」
恥ずかしそうに言った。うん!可愛い!
関係性を導いてくれた上に、これからやるべき事を提示してくれた。
興奮した気を取り直して改めて、
「本当にありがとな!この恩はいつか返すよ!」
「は、はい…!困ったらここに来てくださいね?力になりますよ!」
「ほんとにありがてぇ…知世が困った時は俺が絶対助けるからなっ……!!」
「ふふふ…約束ですからね…!」
「あぁ!」
そんな約束と別れの挨拶をして、大きな図書館を後にした。
守るべきものが増えた気がするよ、じいちゃん。
そのために、じいちゃんの友達のところに会いに行こう。まぁ、神様なんだけど。
次回から思恩くん強くなると思います!
思恩くん一応剣道ではかなりのつわものです。それだけしかやる事がなかった結果です。
抜刀が見えないレベルです。つよい。
じゃあ第柒話で!!