第3話「鬼を酢に指して食う」
「まぁ、話をしましょうよ。簡単なことです。何故、貴方はこんなことをするんですか?」
「親父狩りに理由なんてねぇよ」
「ストレス解消?」
「違ぇし」
「では、やめませんか? 親父狩り」
「なんでだよ」
「本題がまだでしたね。お好きなのを一枚どうぞ」
まるでババ抜きでもするように一枚選べと言われて抜き取れば、先程と同じデザインの名刺だった。読むように促されたので渋々視線を落とす。
「鬼専門、退治屋?」
「いかにも。俺は鬼退治屋です」
「お遊びなら俺じゃない奴巻き込んでくれる?」
「コレは歴とした俺の仕事です。そして今回の依頼は貴方を退治すること」
「はぁ?」
「だから言ったでしょう? 『貴方を退治しにきた』と。俺は鬼専門の退治屋ですから」
意味が分からない、と言いたげな少年に桃李は更に続けた。
「俺が狩るのは〝鬼〟です。鬼専門なので鬼のみを退治します。逆に言えば鬼なら何でもいいんです。妖の牛鬼から餓鬼、そして殺人鬼。今回は〝鬼番長〟の退治を承りました」
「んで、その退治屋さんはどうすんだよ? 俺を殺すのか?」
「いいえ、親父狩りを止めて頂ければいいのでそこまでは。ですから取引しません? お金なら差し上げますし、ストレス解消なら付き合います。実際、人相手は交渉するしかないんです。ご協力お願いします」
「じゃあ、俺が欲しいモノ当ててみろよ」
「金以外で?」
「無理だろ? じゃあ、さっさと失せな中二病」
「明日、会いに行きますね」
「来んなクソ野郎」
「ところで名前を聞いていません。貴方のお名前は?」
「あ? 誰が教える……」
「答えてくださるまで帰しません」
「……戸田 涼季だ。二度と見せんな、その顔」
涼季は桃李に向かって罵声を浴びせ、その場を後にした。自信があったのだ。桃李から逃げ切る自信が。根無し草の涼季は野良猫のようで、通常、他人の目には留まり難い。だから桃李と顔を合わせることはないだろう。そう思っていた。
この時、桃李が涼季のコートに名刺を偲ばせていたなんて少年は知らない。カーキ色のフードに主張する名刺の白に気付けなかった。勿論、発信機が付いてるだなんて思いもしない。何も知らず去っていく涼季を桃李は楽し気に見送った。
「さて、どうしましょうか」