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第19話「来年のことを言えば鬼が笑う」

「捕まったそうですよ。香さんの父親を殺した男子高校生。動機も経緯も俺達が推測した通りだったみたいです」


「そうか」


 一週間後。新聞片手に見舞いに訪れた桃李に、涼季は気の無い返事を返した。


「どうしました? 元気がないようですが」


「別に」


 涼季は教師を恨んだ男子高校生の気持ちが分かるような気がした。彼が今の彼たらしめた原因は、男性教師の理不尽な言葉だったからだ。


 三白眼が特徴の涼季は幼い頃から何かと反感を買うことが多かった。理由は至極単純、眼つきが悪かったからである。

 ただ視線を送っただけなのに「なんで睨むの?」と言われることなど序の口に過ぎない。中学生の時、教師に注意され大人しく話を聞いていれば「舐めてるのか」と髪を掴まれた。

 そして痛みに顔を顰めて相手の顔を見やれば「なんだその反抗的な態度は」と平手打ちを食らった。


 理不尽だ。自らは何もしてないというのに、何故暴力を振るわれなければならない。目の前が怒りに染まる。先に手を出したのは向こうだ。自分は悪くない。悪くないのだ。絶対的に悪いのは教師。悪はこの男だ。そう思った。だから殴った。


 結果、涼季は学校での居場所を失う。そうして彼は夜の街を徘徊するのが日常になった。


 煙草を吹かし、絡んでくる不良を薙ぎ倒す。そこまで行きつくには何度も負かされたが、その度に彼は強くなった。


 敵がいなくなり荒れた毎日に辟易していた頃。香の父のように女子高生を無理矢理買おうとする輩を見つけた。


 勿論、始めから手を出そうと思っていたわけではない。面倒臭さに感けて素通りするつもりだった。けれど小太りの男に、自分を貶めた教師の面影を見れば、自然と身体が動いていた。

 一発殴っただけなのに彼らは恐れ戦き身を強張らせる。見逃す代わりに金品を要求すれば、あっさり財布から金を差し出した。


 つまらない。自分はこんな人間に人生を滅茶苦茶にされたのか。こんなつまらない人間が自分に干渉していたのか。俺はこんなつまらないことで人生を棒に振ったのか。

 許せなかった。憎悪渦巻く胸中で自分自身に怒りが湧く。そこからはもう暴走車のように凄まじい勢いで下り坂を転がっていった。


 親父狩りに理由などない。強いて言えば、教師への復讐も兼ねているのかもしれないが。煙草を買う金も足りている今の状況で、暴行に手を染める理由など無かった。


 なのに止められない。自らは本当につまらない人間である。涼季は嘆息し過去に想いを馳せた。


「どうです? 覚悟は決まりましたか?」

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