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第18話「鬼も角折る」

「ソイツ、女子高生に援交を強要しようとしてたんだよ。目障りだから殴っただけのことだ」


「嘘……」


「成る程。君はそういう腐った大人を成敗してたってことですか?」


「キモイこと言ってんじゃねぇよ。そん時のソイツが、そういう人間だったってだけだ」


「つまりは戸田君の気分次第ということですか」


「嘘よ……! パパはそんなことしない……間違って……そう、アナタの記憶違いよ! パパは教師だったんだから!」


 唇を震わせ蒼い顔で喚く香を見やり、涼季は溜息を吐く。正直、香がどう感じようと涼季にとってはどうでもいい。ただ彼女の父親は彼の記憶を刺激した。非常に嫌な記憶を。


「そう思いたきゃ思ってればいいんじゃねぇの? 真実なんてもんはないし、それがただの事実だ。強いて言えば俺がいつも通りボコった後に、別の奴が囲って暴行してたってことくらいだよ」


「え……?」


「だから殺したのは俺じゃねぇってこと」


「つまり香さんの父親は、教え子に恨みを買ってたってことですか」


「普通に考えればそうなんじゃん? 制服は着てたけど見るからに不良だったし、注意でもされたから面白くなくてってとこじゃね?」


「たったそれだけで……」


「人の恨みなんて〝それだけ〟で十分なんだよ。尤も理由なんて俺は知らないけどね。あと殺すつもりは無かったんだと思うぜ、人を殴ったことねぇと匙加減も分かんねぇんだろ」


「最近の子供は不良でも殴り合いの喧嘩なんてしませんからね。打ち所が悪ければ人は簡単に命を落とします。命の重みを知らない子達だったんでしょう」


 桃李の言葉に香が目を見開く。〝命の重み〟それは彼女にとって耳に痛い言葉だった。自らも彼らと同じ過ちを起こしてしまうところだったのだ。ただの勘違いで。

 涼季が悪くなかったとは思えない。それでも彼は殺人犯では無かった。それが事実だ。暴走した挙句、真相はあっけない。あっけなくて、滑稽で、みっともなかった。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 自分が敬愛していた父は立派な教師だ。けれど蓋を開けてみれば、尊敬するに値するか危うい人間だったと分かる。それでも、どんな面があろうが父は父で、尊敬していた事実は変わらない。


 香は涙を零し制御出来ない感情を洗い流そうとした。けれど罪は消えない。父が起こした罪も。男子高校生が起こした罪も、けして消えることはない。


 それでも何も知らなかった頃とは違う思いが芽生えたのは本当。ほんの少し未来を見つめる。今、自分がすべきことは復讐じゃないと香は感じることが出来た。

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