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第17話「鬼も一八番茶も出花」

「俺は空気になっているので遠慮なさらずにどうぞ」


「そこは病室出てけよ。アホか」


「万が一ということもありますから。構いませんよね? 香さん」


「はい。まず、御迷惑をお掛けしました」


 彼女の殺意が本当に無くなったかと言えば、まだ分からない。絶対安静を余儀なくされている涼季なら、あっさりと命を奪われてしまうことだろう。女といえど、片腕一本といえど、脅威に変わりないのだ。


「いいから早く話せよ」


「アナタはやっぱり乱暴ですね」


「ハッ! 悪口か。だったら帰れ。正直コッチはアンタの顔も見たくないんだよ」


「私だって……本当は会いたくなんて無かったんですよ……」


 香は怒りの表情を浮かべ目を伏せる。けれど彼女は確かめなければいけなかった。父の死の真相を。


 鬼に身体を操られながらも彼女は、その目でしっかり現実を見据えていた。戦闘中、涼季が自らの身体を案じてくれたことも香は知ってる。だから思ったのだ。彼は本当に父を殺したのだろうか? と。


 彼女は父が親父狩りに遭い死んだ後、事件現場周辺を自ら調べて回った。その際、該当したのが涼季である。よく親父狩りをしている人間がいるという情報を得、彼女は深夜徘徊を続けた。そして見つけたのだ。公園で中年男性に暴行を加える涼季を。想像が確信に変わり怒りが湧いた。殺意に占拠されながら右折した十字路で声が聞こえたのだ。


 ——お前の願いを叶えてやろう。


 そんな悪魔の囁きが。けれど今思えば、もう少し思慮深く行動するべきだった思う。香は後悔していた。


 折った腕は痛いし、憎い彼が怪我をしただけだというのに罪悪感に押し潰されそうだったからだ。

 命を奪うことの意味を改めて認識する。もしも彼を殺害していたら、そう思うと恐怖に慄く自分がいた。


「アナタは父を覚えてますか?」


「さあな。狩った奴のことなんて一々覚えてねぇよ。ましてや豚オヤジのことなんて記憶の片隅にも置きたくねぇな」


「そんな言い方……!」


「けど覚えてるよ。むしろ忘れらんねぇな。お前の父親は」


「どういうこと?」

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