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第16話「鬼と戯れ言」

「なんなんだよ、あの女」


「狐崎さんですか? 狐専門の退治屋です。女狐から妖狐まで何でもお任せで売りの狐のコンコンの女店主さんですよ」


「ネーミングセンスの欠片もねぇな」


「そこなんですよね。俺の仇名もはじめ〝とうちゃん〟にしようとしてましたから」


「だからさ、実は田舎娘なの? アイツ」


「どうでしょう? 出身地の話はしたことがないので」


「アンタも中々天然だよな」


 病院のベッドの上で涼季は悪態を吐く。璃奈が紹介した病院は〝妖で怪我した人の為の病院〟らしく、これまた語呂の悪さに涼季が顔を顰めたのは言わずもがな。因みに正式名称は〝妖で怪我した人の為の病院だけど病気はダメだよクリニック〟らしい。


「そうでしょうか? ところで戸田君。支払いの件ですが」


「病院代かよ。金持ちなんだからそんくらい払っとけ。元はと言えばテメエの所為だろ」


「ああ、病院代は別に構いませんよ。払っておきます。私が言っているのは依頼料の方です」


「面倒臭ぇ、いくらだよ?」


「楽しかったでしょう? 鬼退治。そうですね。今回は格安で百万で構いませんよ」


「ふざけてんのかテメエ。ぼったくりも程々にしろよ」


「はぁ。でも引き受けて遂行してしまったので、クーリングオフは出来ませんよ。払えないなら働いて返して貰うことになりますが」


「んなの、するかよ」


「言い忘れてました。君、修羅場に入ったので鬼に取り憑かれやすくなったんですよ。安全の為にも俺の仕事を手伝った方がいいと思います」


「そろそろいい加減に……」


「すみません。お話があるんですけど」


「ちょっと後にしてくんないかな? 今、桃野郎の口を縫って……何しに来たんだよお前」


「香さん。お加減如何ですか?」


「……もう大丈夫です。あとは腕だけなので」


「そうですか。お話は戸田君に?」


「はい」


 涼季の病室に現れた香は険しい顔をしている。面倒臭い、と舌打ちをする涼季を見据え、目を泳がせている彼女には罪悪感というものがあるらしい。


 湶の骨折と頭を強打したことによる頭部の包帯。服から覗く細かな切り傷が涼季の容体を物語っている。本人が忙しなく口を動かしているだけで十分重傷だ。


 自らが起こしてしまった惨劇の弊害を目の当たりにし、香は唇を噛み締める。一方の彼女はと云えば腕を一本折った程度で、他には擦り傷が多数あるくらいだ。鬼に取り憑かれていたお陰で、然程、重傷には為りえなかった。

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