第14話「鬼が仏の早変わり」
『お前……』
「アナタ、退治屋に会ったのは初めてですね?」
桃李の優し気な笑みは不気味な何かを含んでいる。涼季はそれをジッと見つめるも、何が起こっているか理解出来ないでいた。
「会ったことがあるなら、のこのこ修羅場に付いてきたりなんてしませんよ。コレは我々にとって唯一無二の檻で最強の道具なんですから。けれど少々困りました。食法さんと香さんの癒着が思った以上に強くて……それに、このままじゃアナタに勝てなかった」
『舐めるなよ小僧!?』
「落ち着いてください。交渉に従ってくだされば解放します」
『交渉など無効に決まっとるだろう!?』
「さて何をやったか、とお訊きしましたね。答えは簡単、隙を突いて香さんの身体に〝鬼を封じ込める札〟を貼っただけです。けれど、これには制約がありまして、発動までに三十分は掛かるんです。私に力がないばかりにお恥ずかしい」
『馬鹿な……そんなことをしたら!?』
「そうです。アナタは香さんの身体から出られなくなる。でも、それでいいんです。出たくないと仰るなら、その地獄のような苦しみが永遠に続くだけですから」
『ふざけおって!!』
「ですから交渉です。この札を剥がすと同時に彼女の身体から出て行ってください。それがお約束出来ないなら、このままアナタを消滅させます。さて、どうなさいますか?」
『くっ……この娘から出て行けば見逃すんだな!?』
「勿論です。今回の依頼は香さんを助けることですから」
『わ、分かった! 出て行く! 出て行くから剥がしてくれ!』
「お話の分かる方で良かった。では交渉成立ということで」
桃李は優し気に笑みを浮かべ背に張り付けた札を剥がす。すると痺れるような痛みは消え去り、食法は素早く香の身体から自らを引き剥がした。けれど鬼がそれで終わる筈が無い。『殺してやる』と囁いた声を涼季はしっかり捉えていた。
桃李をなのか。はたまた涼季をなのか。真意は分からないけれど、本能的な恐怖が身体中を蠢き涼季は固く目を瞑った。
瞬間〝パンッ〟という弾けるような音が耳を突く。驚きで目を見開けば、黄の光が降り注いでいた。目の前を覆う雪のような淡い光を目で追う。
「大丈夫ですか? 戸田君」
芝生に降り立つと同時に消えるそれを眺めていれば桃李の声が聞こえた。




