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第八話 クエスト

 

 シェルン城を後にした俺は、来る途中に見かけた露店を回ることにした。

 手に入れたお金で、自分と召喚兵士の装備を買い揃えるためだ。

 キョロキョロと見回しながら、目に付いた露店の店主に声をかける。


「すみません」

「おう、兄ちゃん!その恰好からして召喚士官かい?」

「ええ、なので装備を買いたいのですが」

「新人さんかい?だったらご祝儀でまけてやるよ!」


 スムーズな対応で人間のようだが、生産職プレイヤーが存在しないSWOである以上、彼もNPCの一人なのだろう。

 NPCネームはクルト、とあった。


 店頭に並ぶ装備の一覧を眺める。

 視線を集中すると性能が表示された。

 最初はスキルの無いSWOだが、鑑定機能はデフォルト設定らしい。


「……遠距離武器のオススメは何かありませんか?」


 戦闘チュートリアルで遠距離射撃武器が召喚士官の主な武器になると言われた事を思い出す。


「予算はどれぐらいだ?」

「大体一〇〇〇〇Gで」

「新人さんにしては奮発しているな」


 これからの主力になる武器だ。クエストで手に入れた大半の金をつぎ込む。


「その予算ならコレなんてどうだ?」


 彼が手にしたのは、黒いクロスボウだった。


「クロスボウは弓や小銃と違って片手武器だからな。盾を持ちながらでも使用できる。それにコイツの再使用時間リキャストタイムは二十秒。うちにあるクロスボウの中ではトップクラスの性能だ」

「じゃあ、それで」

「……自分で勧めておいて何だが、そんなにあっさりと決めていいのか?確かにクロスボウは攻守一体で優秀だが、それゆえ扱いが難しい武器でもある」


 店主のクルトは眉を顰めて忠告してきた。


「新人さんなら最初はもっと簡単な別の武器から使い始めた方が良いかもしれないぞ?」

「いえ、それで構いません」


 扱いが難しいなら、なおさらそれに慣れていた方がいい。

 クルトは〝アンタがそれでいいなら別に構わないが〟と、それ以上は何も言わずに黒いクロスボウを手渡してきた。


「次は召喚兵士の装備を揃えたいのですが」

「当面の兵科は歩兵になるのか?」


 首肯する。


「戦術はどんな感じを想定しているんだ?」

「これも攻守一体ですね。END(耐久)の数値は高いので攻撃力の高い片手剣が欲しいです」

「強力な片手剣か」


 店頭を見回して思案している様子だ。


「だったらコイツだな」

「それは?」


 手にとったのは反りの入った片刃の刀剣だった。


「サーベルだ。コイツなら練度の低い召喚兵士でも扱いやすく高い威力を発揮できるはずだ」

「そうですか」


 俺は言われるままにクロスボウとサーベルを購入した。

 合計で12000Gの出費。初期の所持金を考えれば、街の外にすら出ていない現時点でバカみたいな買い物であることが理解できる。

 このあと回復アイテムも買うことを考えれば、ほとんど手元には残らないだろう。


 手に入れたばかりのサーベルを召喚兵士に装備する。

 サーベルの効果はSTR(筋力)+5。初期装備のショートソードがSTR(筋力)+1だった事を考えれば五倍の性能だ。


「この武器ってどれぐらいのレベルまでが適性なのですか?」

「サーベルは三十前後辺りだな」


 意外と長く使用できるようだ。


「クロスボウに関しては昇進するまで一線で活躍出来るぞ?当然、強化は必要だがな」

「ほう」


 まだ使ってないので何とも言えないが、ステータス補正だけなら大金を費やしたかいはあるかもな。


「これでモンスターも難なく狩れそうだな」

「ん?何言っているんだ?この世界にモンスターなんていないぞ?」



「え――」


 だったら、どうやってレベリングすればいいんだ?






 シェルン城 訓練場


「それで戻ってきたわけか」

「はい」


 俺は一時間と経たずに訓練所に舞い戻っていた。


「レベルを上げるには、賊や敵対国家の軍人を討伐することだ」

「賊や軍人……」


 SWOでは対人戦が基本戦闘になるらしい。


「現在エルヴェル皇国と敵対中で領地が接しているのはラグハイム帝国だ。ラグハイム帝国の召喚士官や軍人を狩るのが私たち皇国軍人の役目になる」

「帝国の召喚士官とは、プレイヤー、来訪者も含めてですか?」


 当然だろう、と眉を顰めて同意した。


「その為に数多くの貴様ら来訪者を雇っているのだから」

「そうですか……」


 つまり、プレイヤーキル推奨――いや、戦争ゲームなのだからPKというと語弊がある。対人戦闘こそがSWOの醍醐味なのだろう。


(しかし、そんな事すら知らずにゲームをプレイしていた俺っていったい……)


 今までSummoners Wer ――召喚士戦争というタイトルとはいえ、基本はモンスターの討伐こそが主なレベリング手段だと思っていた。個人的に中世ヨーロッパ風のファンタジーといえば、ギルドとモンスターのイメージが強い。

 ステータス画面がRPGにしか見えなかったことや魔族やエルフといった単語が溢れていたことも、既存のMMORPGと勘違いした原因の一つだ。


(新鮮さを楽しみたくてPVぐらいしかまともに見なかったからな……)


 まさか運営もそんな事すら知らずにプレイする人間がいるとは思って無かったのだろう。

 FPSをRPGと勘違いしているようなものだしな。


「とりあえず、この世界に慣れるまではシェンケル辺境伯閣下の指令クエストを中心に進めてはどうだ?」

「そうします」

「では、この中から選んでくれ」




 推奨階級:伍長 レベル1


【戦闘訓練】

【報酬:1000グル】

「召喚兵士との戦闘訓練」


【盗賊討伐】

【報酬:2000グル】

「シェルン周辺に存在する三体の盗賊を討伐」


【偵察任務】

【報酬:2000グル】

「ラグハイム帝国との戦闘域付近にある森林地帯への偵察」




 戦闘訓練が一番簡単そうだが、そろそろ街の外にも冒険に出たい。


「じゃあ、【盗賊討伐】にします」


 何はともあれ実戦を経験しない事には話が進まない。


「了解した。盗賊はシェルンからほど近い<ヘルンの森>を拠点にしている筈だぞ」


『クエスト【盗賊討伐】を受諾しました』


「さっそく行ってきます」

「武運を祈っている」


 かくして初めての冒険が始まった。

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