第四話 もう一つの世界
「こちらが召喚士階級の一覧となります」
下士官
伍長 10
軍曹 20
曹長 30
尉官
少尉 40
中尉 120
大尉 240
佐官
少佐 480
中佐 720
大佐 1080
将官
少将 2160
中将 4320
大将 8640
元帥 17280
表示された画面を見て、思わず吹き出してしまった。
「これって最高位の元帥にもなると、一〇〇〇を超える召喚兵士を使役できるってことですよね!?」
「はい」
「しかし、開始した直後は心配ないでしょうけど、時間が経つにつれ将官級が溢れ返ることになるのでは?」
そうなると、ゲームバランスが酷い事になると思うが。
そんな懸念が顔にあらわれていたのだろう。
カルラが〝心配ご無用です〟と柔らかい笑みで否定の言葉を告げた。
「大尉まではレベリングで誰でも昇進できますが、佐官から上はレベリング以外にも厳しい条件、制限の達成が必要になりますから」
「具体的には?」
「例えば、元帥には一国に一人だけしか昇進できません」
俺は絶句する。
厳しいなんてものでは無い――ある意味では理不尽とすら思える制約。
「……先着順だと、大きな不満を持つ人間も多いのでは?」
誰かが元帥に昇進してしまうと、他のプレイヤーのモチベーションが大幅に低下するのは避けられないだろう。
そうなればSWOを止めてしまうプレイヤーも続出してしまうと思うが……
「その為にあるのが〝独立〟という救済システムですね」
「独立?」
「プレイヤーが何処かの国家、領主に仕官している場合、昇進するごとに召喚士階級に応じた爵位と領地を叙勲されます」
そういえば、ステータスに爵位という項目があったな。
「そして、めでたく領主となりましたら独立を宣言して、一国一城の主となり、新たな国を作りだすことで元帥への道を切り開いてください」
「……それって国家に対する反逆ですよね?」
「ええ、ですから独立元の国家には国内全域に討伐クエストが発令されます」
「まるでレイドボス扱いだな……」
「独立したプレイヤーを討伐した場合、クエスト報酬や経験値が魅力的なので参加するプレイヤーは相当数である事が予想されています」
「本当にレイドボス扱いだった……それのどこが救済なんだ……」
結局、険しすぎる道である事に変わりはないらしい。
それでも一応、最高階級である元帥のチャンスそのものはプレイヤー全員に与えられているようだ。後は各々の運と実力次第ということだろう。
ステータスを眺めているとある事に気が付く。
「このINT(知力)ってどの兵科に影響あるステータスなのですか?」
「INT(知力)が影響するのは、十人隊長や百人隊長といった主に前線指揮官に当たる特殊兵科ですね」
「特殊兵科?」
「昇進してMPが増加していくと、プレイヤーだけでは手が回らなくなりますから。それをサポートするのが特殊兵科の役割です。大軍を指揮する場合でもINT(知力)の数値が高いほどより高度で臨機応変な軍事行動が行えますよ」
終盤になるほど重要性を増すステータスということか。
深く頷き返し、数泊置いて後を紡いだ。
「あとスキルがありませんが……ボーナスポイントで所得出来ないのですか?」
「SWOはプレイヤーの行動に伴ってスキルが発現する仕様です」
「……だとすると、ボーナスポイントは能力値への割り振りだけか」
さて、どうするか。MMORPGでは極振りがベターな選択肢であることも多いようだが。
しかし、説明を聞いているとSWOでは兵科を使い分けて戦うのが理想なようだ。
「それと将来的に召喚可能になる新たな兵科もステータス次第で変化します」
「新たな兵科ね……」
今はサービス開始直後でほとんど情報がないが、攻略が進むに従って新たな兵科の情報も出回るだろう。
今極振りするのは避けた方がいいのかもな。
「――決めた」
STR(筋力):46 →61 +15
END(耐久力):61 →71 +10
DEX(器用):62 →62
MND(精神):50 →50
INT(知力):51 →51
適性の歩兵、騎兵系統に影響するステータスであるSTR(筋力)END(耐久力)にそれぞれポイントを割り振った。
ハーフが万能型なこともあり、極振りでなくともEND(耐久力)はそれに匹敵するだけの数値だ。STR(筋力)にも十五ポイント割り振り全ての数値が平均値以上ということになる。
器用貧乏な恐れはあるが、せっかく手に入れたレア種族。
万能型のプレースタイルでこのSWOを攻略したい。
「それでは、チュートリアル報酬をお受け取り下さい」
アイテムボックスと五〇〇〇Gを手渡される。
「というか、アイテムボックスもお金も今まで持ってなかったのか……チュートリアルをスキップしたプレイヤーはどうなるんだ……」
「他のプレイヤーに指摘されたりしてすぐに戻ってきますよ」
「……人の話は聞いた方がいい、ということですか」
至言だな。
「最後に何かアドバイスはありませんか?」
「先ずはシェンケル辺境伯に仕官するのが一般的ですね」
「シェンケル辺境伯?」
「この城下町――シェルンを治めている領主様です」
彼女が広場からやや北にある小高い丘を指さす。
「あちらのお城が見えますか?」
「ええ」
丘の上には白い西洋風のお城が築かれ、城下を睥睨していた。
「あのシェルン城を訪ね、仕官したいという旨を伝えてください」
「招待状とか、アイテムは必要ないのですか?」
貴族と謁見したり仕官するとなると、そういうのがお約束というものだが。
「必要ありませんよ。シェンケル辺境伯は敵国であるラグハイム帝国と領地が接しているので、戦力増強に熱心ですから。強力な戦力である召喚士官は礼儀を尽くして迎えられることでしょう」
「……そうですか」
そういう設定ね。
「仕官しましたら、シェンケル辺境伯から様々なクエストを受けられるので、それらをこなして曹長までレベリングするのが一般的な序盤の流れです」
「なるほど、その後は?」
「昇進しましたら、シェンケル辺境伯に推薦状を書いてもらい皇国首都ナインツベルクの召喚魔導軍に入るのが王道路線ですね。ナインツベルクでは更に多くのクエストやイベントが発生する筈ですから」
首都に進出してからが本番というわけか。
「分かりました。ありがとうございます」
感謝の意を表し頭を下げると、カミルが柔らかい笑みを浮かべた。
「それでは立身出世を成し遂げて、元帥の地位を目指してみてください。ご武運をお祈りしています」