第三話 ステータス
ぼやけていた視界が鮮明になると、何処かの広場に立ちつくしていた。
「……ここが始まりの街、だよな」
周囲を見回せば、情緒あふれる中世ヨーロッパ風の街並みが点在している。
中央の噴水に目を移すと、その周りには人が溢れ返っていた。
「……それで、どうすればいいんだ?」
「新人の召喚士官ですか?」
背後から声がした。
振り向くと、栗色の髪をした妙齢の女性が。
「私は、カルラといいます。この町で簡単な操作やプレイングを指南しているのですよ」
「ああ、チュートリアルか」
だとすると、カルラはNPCだよな。
艶を感じさせる髪質に熱を感じそうなほどの息遣い……とてもNPCとは思えない。
俺はSWOが初めてのVR体験では無かったが、それでも軽く驚いてしまったほど他のゲームとは一線を画していた。
「じゃあ、お願いします」
「それでは早速、頭の中でステータスオープンと唱えてください」
(ステータスオープン)
すると、目の前にステータスが表示された。
国家:エルヴェル皇国
名前:カイ・クライス
所属:無所属 爵位:なし 軍事階級:なし
召喚士階級:伍長
レベル:1
種族:ハーフ(人族×ドワーフ)
HP(体力):112
MP(魔力):10
STR(筋力):46
END(耐久力):61
DEX(器用):62
MND(精神):50
INT(知力):51
ボーナスポイント 25
Skill
Specific Skill(固有スキル)
種族適性(歩兵系統、銃兵系統)
個人適性(騎兵系統)
「……なんというか、ごちゃごちゃしているな」
「はは、すぐに慣れますよ」
カルラが苦笑いを浮かべた。
「それで、何から訊きたいですか?」
「……先ずは、HPとMP以外の能力値からかな」
HPとMP――特にMPが気になるがひとまず後回しだ。
「平均値はどれぐらいなんだ?」
「HPとMP以外の能力値平均はそれぞれ50前後ですね。勿論、種族によって差異がありますが。それでも合計すると250になるように設定されています」
「……だとすると、俺の能力値高くないですか?」
「それはハーフですから。カイ様は人族とドワーフのハーフなので、END(耐久力)とDEX(器用)が高い傾向にあり、全体的にも平均値の一割増しとなっていますね」
「……一割、ね。まあ、優秀なんだろうけど何だかパッとしないな」
レア種族という割には期待していたほどでは無かった。
「とんでもありません!」
両手で否定する仕草をした。
「SWOの世界では、レベルが10上がる度に1ポイントしか、ボーナスが貰えない仕組みですから」
「では、仮に100レベルになったとしても、10ポイント分のステータスしか上げられないという事ですか?」
彼女は深く頷きかえした。
「マジかよ……だったら一割、25ポイント分って相当な物じゃないか」
ハーフ種は公式チートかよ。
「とはいえ、無双という程でもありません。ゲームシステム上、基本は召喚兵士を使役しての戦いですから能力値より兵科の相性が重要です。そして同じ兵科の場合でも、数で負けている場合は劣勢を強いられるでしょう」
「……ゲームバランスが崩れる程ではないのか」
今度はずっと気になっていたことを尋ねる。
「このMP10ってどういうことですか?」
魔法職であるサモナーのMPが10しかないというのは、他のRPGをプレイした経験者からするとどうにも違和感を覚えてしまう。
「それは、この世界には召喚魔法だけしか存在しないからですね」
「……そういえば通常魔法の選択画面が無かったな……サモナーでも通常魔法を扱えるのが一般的なRPGだが」
「それに対してSWOでは召喚魔法しか存在しないことから、基本的兵科である歩兵を何体召喚できるか、を基準としてMPに換算し表記しています」
「つまり、消費MP10では歩兵を一体しか召喚できないと?」
確認してみたが、期せずして頭を左右に振られた。
「すみません、補足が足りませんでしたね。ステータスの最後を見てください」
「えっと……」
「個人適性、種族適性という文字が見えますか」
確かに、種族適性〝歩兵系統、銃兵系統〟という文字と、個人適性〝騎兵系統〟という一文が見てとれる。
「種族適性は、その種族に適した兵科を召喚する際に魔力消費を五割減します。カイ様は人族とドワーフの二重適性者ですので、適性兵科は歩兵と銃兵ですね」
「種族適性のおかげで、二体の歩兵を召喚できるということか……」
「はい、そうなります。詳細はこちらをご覧ください」
目の前に召喚ユニット一覧と書かれた画面が表示される。
下位兵科 上位兵科 特殊兵科
歩兵 10 槍兵 40 十人隊長 15
弓兵 20 長弓兵50 百人隊長100
騎兵 30 槍騎兵80
銃兵 40 砲兵 500
「こちらが現在、確認できる全ての兵科で、下の数字が消費魔力量になります。メニューにある召喚ユニット一覧からいつでもご確認ください」
「個人適性というのは?」
「個人に適した兵科を召喚する際に、消費魔力を抑えられます。ただ抑えられる魔力量は二割で、種族適性ほどの効果はありません」
「だとすると、召喚できるのは歩兵だけということか」
銃兵を半分、騎兵を二割減で計算しても、10を下回ることが無い以上現段階では召喚不可能なようだ。
「ボーナスポイントをMPに割り振る事は可能ですか?」
「HPとMPには、ボーナスポイントを割り振る事が出来ません」
「では、MPをどうやって増やすのですか?」
「MPを増やすには昇進してください」
「……昇進?レベリングとは違うのですか?」
「正確には違いますね。広義的にはレベリングでも間違いありませんが」
カルラは補足するように付け足す。
「職業の下にある召喚士階級、というものが見えますか?」
「伍長と表示されているこれですか?」
ステータス画面を指さした。
「はい。それが現在の召喚士階級です。召喚士官としては一番下の階級になりますね」
「昇進するには?」
「100レベルまでレベリングしてください。そこまでレベルアップすると自動的に一階級上の軍曹に昇進します」
レベルは100がカンストか。
「軍曹のMPはどれぐらいですか?」
「20ですね」
「……全然増えてないな」