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第十話 馬車

 

「……あっさりと【盗賊討伐】のクエストを達成して来たな。新人は一度ぐらい戦死するのだが」

「そうなのですか?」

「ああ、先に簡単なクエストである【戦闘訓練】のレベルアップもなしに、ソロで向かった来訪者の大半は戦死した。今頃、神殿は死に戻った来訪者達で溢れ返っているだろう」


 流石は私に勝っただけの事はある、とブッケル曹長は付け足す。


「現時点で数百人の来訪者を相手にしたが、初の実戦訓練で勝ったのはお前で三人目だ」

「……三人目」


 サービスが開始したばかりで攻略法が確立していない現在、初の戦闘でステータス有利のブッケル曹長から勝利を得るのはかなり難しい。


(負けてられないな)


 運よく手に入れたレア種族もあることだし、せっかくだからトップランカーを目指したい。


 そんな決意を新たにして再びレベル上げに勤しむことにする。







 現在地はシェルンの西門前。


「とりあえず、もう一度【盗賊討伐】のクエストは受けてきたが……」


<ヘルンの森>はその地理的条件下から奇襲を受けやすい。

 それに前回勝利出来たのは、偶然発生したクリティカルヒットのおかげだ。

 レベル10にレベルアップしたとはいえ、ステータスの観点から見れば、STR(筋力)が1上昇しただけに過ぎない。

 これでは苦戦するのが目に見えている。


「だからといって誰かとパーティーを組むのもな……」


 パーティーを組めば容易に勝てるだろうが、その分所得経験値も少なくなる。


(何よりそんな普通の方法ではトップランカーなど夢のまた夢だろう)


「……もっと簡単にレベリングできる方法は無いものか」


 そんな虫のいいことを考えていた時の事だ。


 背後から物音が近づいてくる。

 振り返ると、物音の正体は道路の中央を走り抜ける馬車であった。


 俺は轢かれないように道の脇へと逸れる。

 すると、若い御者が帽子を持ち上げて感謝の意を示した。

 すれ違った馬車の荷台には多くの樽が積まれていて、その両脇に護衛だろうか――傭兵と思わしき容貌の男が二人。


「しかし、本当にリアルな作りだよな」


 馬車の様子からして、あれは行商人の一行という事になるのだろう。


「ん?馬車……護衛?」


 キーワードが頭の中で繋がる感覚。

 思考を巡らせたのは、わずかな時間だった。


「これは、やってみる価値もあるか」











 ひたすらに広がる黄金色の麦畑。


 俺は一定の距離を保ちながら先ほどの馬車のあとを着けていた。

 ――彼らを餌に盗賊を釣りだして一網打尽にしようという魂胆だ。


 そして、シェルンの街を出発してから二十分が過ぎたころ。

 視界の先で微かに動く人影を発見する。


「……さっそくお出ましになったか」


 自然と口の端が吊り上がる。


「数は、十人ほどだな」


 汚らわしい恰好をした盗賊達がわらわらと馬車を取り囲む。

 馬車の一行からすれば忌々しい限りだろうが、今の俺にとっては貴重な経験値だ。

 しかも、奇襲というアドバンテージがあり、護衛の存在を利用すれば挟撃の条件すらも揃っている。

 何より俺には逃走という選択肢が残されているのがいい。ヤバそうになれば、馬車を残してとんずらすればいいのだ。

 彼らは俺の仲間でもなければ、契約を結んだ雇用関係でもないのだから。


「少しだけ心が痛むが……」


 意図せず口にした一言。

 その意味を理解して思わず息を呑んだ。


「……何を言ってるんだ……これはゲームだぞ?」


 どれだけリアリティがあろうと全ては偽物で作り物だ。


「――ッ!!召喚サモンソルジャー!」


 愚かな思考を振り払うように、召喚呪文を唱える。


「戦闘が始まり次第、左右に別れろ」


 二体目が顕現したあと、指示を下す。


「その後は体勢を低くして盗賊の背後に回り込め。俺が攻撃したら奇襲の合図だ」


 直後に戦闘が始まる。

 同時に、走り去った二体の召喚兵士。


「リアル過ぎるのも困りものだな……」


 その背中を見送って小さく呟いた。







 腰の高さまである麦のオブジェクトに紛れて密かに接近。

 現在は馬車から約三十メートルの位置で息を潜めていた。

 戦闘が始まってしばらく経ったが、戦況はいよいよ混沌の様相を呈している。

 戦力的に優位である盗賊側が優勢なのは予想通りだが、護衛側の二人も中々に精鋭であるらしく未だ決着には至らない。


(好都合だな)


 クロスボウを構え、盗賊達に指示を飛ばしている男の額に狙いを定める。

 これがゲームだと頭では分かっているのにじっとりと手汗をかいている気がした。



 僅かな圧迫感。


「ッ!」


 額と矢が重なったと同時に、クロスボウの引き金を引いた。




「よし!このまま押し――――ッ!?」


 突如として途切れる声。

 盗賊達を指揮していた男がその場に崩れ落ちた。

 予想もしなかったタイミングで盗賊の頭を失った衝撃に、周囲の盗賊達は動揺を隠せない。

 騒然となる戦場。


「何が起きている!?」

「な、他にも敵がいたのか!?」


 悲鳴にも似た怒声が聞こえてくる。

 俺は自らの居場所を教えるように麦畑から体を晒す。


「――あそこだ!」


 盗賊の一人に発見されたことで、彼等の注目が此方に集まった。

 刹那。


「ぐはぁ!」


 左右に回り込んでいた召喚兵士達が盗賊達の背後から襲い掛かる。

 伏兵に次ぐ伏兵と頭を討たれたことで混乱の極みに達した盗賊達。

 その状況に声を張り上げる。


「今がチャンスだッ!このまま殲滅するぞ!」


 俺の言葉で盗賊同様、唖然としていた護衛の二人が再び戦闘を開始した。







Passiveパッシブ Skillスキル【奇襲】を獲得しました』

Passiveパッシブ Skillスキル【挟撃】を獲得しました』


 戦闘が終わると二つのスキルを手に入れた。




 名前:カイ・クライス

 所属:シェンケル辺境連隊 爵位:士爵 軍事階級:軍曹


 召喚士階級:伍長 

 レベル:13 +3

 種族:ハーフ(人族×ドワーフ)


 HP(体力):258 +35

 MP(魔力):10


 STR(筋力):62(+4)

 END(耐久):71(+1)

 DEX(器用):62(+8)

 MND(精神):50

 INT(知力):51



 Skillスキル


 Specific Skill(固有スキル)

 種族適性(歩兵系統、銃兵系統)

 個人適性(騎兵系統)


 Passiveパッシブ Skillスキル

【一刀両断Lv,1】

【縦陣Lv,1】

【奇襲Lv,1】

【挟撃Lv,1】



 スキルの効果は、奇襲と挟撃時にダメージ量が増加するというものであった。

 これからの戦闘でこの二つのスキルは重宝することになるだろう。


 そして、倒した盗賊のレベルは10。

 同レベルで倍の盗賊をダメージらしいダメージもなく、ほぼ一方的に殲滅できたことが、このやり方が如何に美味しいものであるかを表していた。

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